ドリームランドの扉の鍵Ⅳ
日も布団に入るかのように海に沈み始め、街灯が少しずつ目を覚まし始めた時。
間宮家では珍しく詠子と千尋が台所に立っていた。
「さて、先生。今日は何にしますか?」
詠子の冗談めいた台詞に千尋は苦笑いを浮かべた。
「先生って…詠子さんだって料理作れるじゃないですか」
「む、また詠子さんって言った」
詠子は頬を膨らませ、顔を背けた。
まったく。子供みたいだ…なんてことを思いながら、千尋はエプロンをつけて、手を洗い始める。
「母さんだって料理できるでしょ」
「ま~ね」
母さんと呼ばれて機嫌が戻ったのか、詠子は鼻歌交じりにエプロンを身に着けていた。
「で、ちぃくん先生。今日は何にします?」
「君に先生はおかしいかと」
「小さいことを気にするとハゲるわよ」
千尋はため息をつきながら、野菜室の冷蔵庫から玉ねぎとニンジン、ジャガイモ、キュウリそして最後にリンゴを取り出した。
「さて、今日はハンバーグとポテトサラダにしたいと思います」
「おお!」
やる気満々に声をあげる詠子と共に夕食の下準備を始めることとなった。
1時間が立ち、ハンバーグはあと焼くだけになり、ポテトサラダもあとは混ぜるだけとなった。
「やっぱり母さんはすごいね」
「あら、いきなり何?褒めてもなんも出ないわよ?はい、お小遣い1万円」
「あはは…台詞と行動が一致してないよ、母さん」
千尋はポテトサラダの具材を混ぜながら、嬉しそうに笑う顔を見た。
ふざけているような態度をとるけど、この人は立派に母親をしているんだなぁとはっきりと思わされるときが多々あった。
バンバン!
「あら?何の音かしら」
台所の上は麻貴の部屋だ。
千尋は呆れたように食器を取り出しながら、オリーブオイルとベーコンも一緒に用意する。
「麻貴は元気ね」
「もう少し落ち着きを持ってほしいです。にしても、珍しく絢も二階にいるんですよね?」
「そうね。ふふ、どうせちぃくんの話でしょ」
「…嫌なこと言わないでください」
「え~。ちぃくんは妹に愛されるのは嫌なの?」
「そんなことはないですよ?むしろ、世界一大事にしていますよ。でもそれは妹として、です」
「もう、ちぃくんったら照れりちゃって可愛いんだから」
「なんとでも言ってください。あ、これからベーコン燻るので換気扇まわしてください」
「えぇ~、外でやってよ」
「七輪用意すんの面倒ですもん。ほら早く回さないと煙が立ちますよ」
「むぅ~、ちぃくんの意地悪」
「はいはい」
千尋は義妹たちに嫌な気配を感じながら、義母との会話を楽しんだ。
だが、頭の片隅にはある想いが。
(どうやって、あいつにチケット渡そうかな)
義妹たちの間で起こる波乱はまだまだ静かになりそうもなかった。




