闇夜を飾る純愛のオーロラⅩⅩⅣ
怜央はテラスに一人で、千尋を待っていた。
(千夏さん…遅いですね)
あんなことを彼女である千夏(女装ver千尋)に話したことで馬鹿にされたのかもしれない。
(でも…)
『馬鹿な王子の目覚まさしてくる』
その言葉に嘘は無いように思えた。
「本当に馬鹿馬鹿しいかな」
自傷気味に笑った。
自分でもわかっていた。
こんな無力に人を振り向かせることなんてできるはずがないんだ。
でも、やっぱり怖かった。
敏樹が離れて行ってしまうことが…。
「………っ」
怜央は自分の頬をなぞる。
そこには涙が少しずつ、怜央の不安を表すかのように流れていた。
「あれ、おかしい…な」
気付いた時には遅かった。
涙は枷の外れた川のように次々と押し寄せた。
「うぐっ……うぐっ……」
悔しさがこみあげてくる。
嫌われるのが怖くて踏み出せなかった自分を。
たった一言が言えなかったみじめな自分を。
「きゃっ」
夜風が怜央にスカートをイタズラのようにめくった。
その時だった。
ばんっ!
テラスに続くガラス戸が勢いよく開かれた。
「怜央っ!」
転がるように飛び出してきた敏樹。
その姿はひどいもので、顔と服は泥だけでもうボロボロだった。
「な、なな、おにいさま!?」
泣いていたことなんて忘れて敏樹に駆け寄る怜央
「ど、どうしたんですか!?」
「にしし」
敏樹は苦笑いを浮かべた。
怜央の頬をにそっと手を伸ばし、優しく撫でる。
「泣いていたのか…」
「あっ!これは、その…」
「俺のせいで…ごめんな」
敏樹は悲しそうな目で怜央を見つめた。
怜央の肩をつかみ、敏樹は数歩、後ろに下がった。
「怜央………ちょっといいか?」
「おにい…さま?」
敏樹は自分を落ちつかせるように深呼吸をする。
そして、膝をつき……
…勢いよく床に頭を打ち付けた。
それはもう、砕けるんじゃないかってぐらいの勢いで。
「お、おにいさま!?」
「好きだ!」
「……えっ?」
目の前のことに頭がついていかなかった。
敏樹のいきなりの行動に動揺したのか、もしくは自分の願望が幻聴を聞かせたのか。
怜央は自分の耳を疑った。
(そんな…あるはずがない)
返事がない怜央の言葉を待たずして、敏樹はつづけて叫んだ。
「俺は弱い。そのせいで何回も怜央を傷つけたあ!俺はもうお前には傷ついてほしくなくて…だから、もっとふさわしい人と幸せになってほしかった…
「でも!
「俺は怜央が好きだ!渡良瀬怜央が大好きだ!はじめて会ったときから今までずっと好きだった!どんなに嘘をついても!あきらめても!どんどん好きになっていった!
「俺は…俺は怜央のことが大好きだ!」
自分に言い聞かせるように敏樹は、好きという言葉を続けざまに叫んだ。
怜央は力なく、崩れ落ちた。
「れ、怜央!」
倒れそうになる怜央を敏樹は抱えた。
その腕の中で目に涙を浮かべながら、怜央は敏樹に笑顔を向けた。
「私も…です。……私も……おにいさまのことが…大好きです」
そういうと怜央は敏樹の首に抱きついた。
しばらく、二人は互いの熱を確かめるように抱き合っていた。
不意に敏樹が手を話し、怜央から離れた。
怜央の中を不安が一瞬にして支配する。
だが、敏樹はそんな怜央の顔をみて微笑んだ。
「こんな弱くて情けない男だけど、付き合ってくれますか?」
「……はい!」
それを合図にして二人の唇が優しくより情熱的に触れ合った。




