闇夜を飾る純愛のオーロラⅩⅩⅢ
「だから、俺は決めたんだ!」
敏樹は渾身の一撃を撃つ。
だが、それは千尋の手によって塞き止められた。
「だがら、どうした!」
千尋のカウンターが見事敏樹の顔面をとらえる。
「お前がそんな弱いから彼女は泣いてるんじゃないか!」
「だから!だから…俺は自分の気持ちにだって嘘をつらぬいてきたんじゃねえか!」
「だから弱いんだよ!」
千尋はのストレートは敏樹の腹を打つ。
敏樹は腹を抱え込むようにうずくまった。
「…………っせぇ」
「ぁ?」
「うるせぇってんだよ!」
敏樹は叫びながら千尋に飛びかかる。
アッパー気味の拳が千尋の顎にあたり千尋はよろめく。
連続して敏樹は千尋の脳天に両手を叩きつける。
流石に踏ん張りきれず、千尋の体は地面にたたきつけられる。
「お前に俺の何がわかる!俺が今までどんな想いであいつと会ってきたと思ってんだ!俺の死ぬほど苦しいこんな想いがお前にわかるのか!」
「……しらねぇよ」
千尋はよろめきながらもひざに手をつき、立ち上がる。
「…お前がどんな想いか?知るわけないだろ。そもそも、お前みたいなクズがどんな想いしてるかなんて知ったこっちゃねぇよ」
「…てめぇ」
千尋の挑発するような発言は敏樹の顔に怒りの表情を浮かばせる。
地面をけり上げ、敏樹の蹴りが千尋の腹に入る。
連続して右ストレート、左フック、そして回し蹴り。
どれも的確に急所に入っていた。
だが、千尋は倒れることなく、逆に笑みさえ浮かべていた。
「弱いお前の攻撃なんて屁でもねぇよ」
「お前、Mかよ」
その笑みにおびえた敏樹の攻撃が少し弱くなった。
その瞬間、千尋は敏樹の顔面をつかみ、頭を地面にたたきつける。
「お前は何も成長してねぇよ!
弱いから?守ってやりたいから?
違う!
お前はそんなきれいごとを盾に逃げてるだけじゃねぇか!
お前の気持ちからも!
彼女からも!」
「うるせぇ!」
敏樹は両足で千尋の腹をけり上げ、千尋の拘束がゆるくなった瞬間に抜け出す。
「じゃあ、俺はどうしたらいいんだよ!」
「気持ちを伝えたらいいだろ!」
「え?」
敏樹は呆然としていた。
そんな敏樹を待つことなく千尋は言葉を続ける。
「確かに弱いよ。でもなぁ、そもそも人間なんてつよくないんだよ!当たり前だろ。だから、彼女はお前を必要として、お前は彼女を必要としてんだろ。そんなことにも気づけないほど俺の親友は馬鹿じゃないし、馬鹿でも人の気持ちに真剣に向き合えるやつだったはずだ!」
「…千尋」
「違うか?このバカ」
「………………」
千尋の言葉は衝撃的だった。
今までの自分が否定された気分だ。
でも、悪くない気分だった。
「千尋、お願い一つ良いか?」
「言ってみろ」
「一発、殴ってくれ。思いっきり」
「了解」
千尋は思いっきり振りこみ、渾身の一撃を敏樹の顔に打ち込む。
敏樹は耐え切れず地面を転がる。
だが、その顔にもう怒りや疑心はなくなっていた。
むしろ晴々していたかもしれない。
「いってぇ~~。お前、マジで殴りやがったな」
「お前が殴れって言ったんだろ」
「でも、少しは加減しろよ」
「うるせぇ。馬鹿にはちょうどよかったろ」
「まぁな。それにしても……俺らお互いにぼろぼろだな」
二人の服は泥だらけでところどころ、布が切れていた。
二人とも顔を見合せると大笑いしてた。
「ははは、それ高ぇんだぞ?」
「うるせぇ、世話をやかせた分だ。それより早く行ってこい。お姫様はテラスで王子を待ってるぞ」
「……千尋」
「ん?」
「サンキューな」
「……俺はそっちの気は無いぞ」
「俺もねぇよ」
敏樹はそう言うと敏樹は駆けだした。
千尋はそれを微笑みながら見送ると小さい声で呟いた。
「世話…掛けさせやがって…本当に…馬鹿だよ……お互いに」
千尋はそのまま地面に倒れ、意識を闇の中へと落としていった。




