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絶対妹大戦  作者: 長門葵
4章~緊張観覧席の憂鬱~
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緊張観覧席の憂鬱Ⅲ

「おまたせ」


千尋が屋上のドアを開けるとすでに義妹たちがレジャーシートを広げ、それぞれのお弁当を手に持って座っていた。


「お兄ちゃん、遅いぞ」


「ごめんごめん」


「それよりにぃに。その人たちは?」


「ああ、こっちのゲスは説明しなくていいよな。で、こっちの人は鬼ヶ島渚さん。俺のクラスメートで、最近までちょっとした事情で学校休んでたんだ。だから、一緒にご飯食べようって誘ったんだ」


疑問符を頭に浮かべたまま、今の状況をいまいち理解していない渚を義妹たちは睨むように眺めた。


「でも、なんでお兄ちゃんとその人は手を握ってるの」


「・・・・・・!!」


指摘されてやっと気付いたのか、顔を真っ赤にしながら渚は千尋の手を振り払った。


「それよりも、俺の紹介がひどくないか」


「うるさい。お前なんてその程度で充分だろ」


「もっとしっかり紹介してくれよ。俺だってそんなクズじゃないだろ」


「・・・・・・ごめん。最近、耳が遠くて」


「あきらめろ、前園。僕もそれを否定するのは難しい」


「そんなぁ」


膝から倒れこむ敏樹。それを見て義妹たちは敏樹に声をかける。


「大丈夫。前園さんにも良いところはありますよ」


「そうそう、お兄ちゃんだって本気で言ってるわけじゃないんだから」


「絢ちゃん、麻貴ちゃん・・・」


敏樹は涙を浮かべていた。


「ありがとおおおぅおぉぉぉぉぅおぉおぉぉぉぉぉぉ」


そのまま飛びつこうとした。そのまま、千尋と渚のきれいな蹴りで絢と麻貴を飛び越え、フェンスまで吹き飛んだ。


「大丈夫?」


「あ、ありがとうございます」


「まったく、前園にも困ったものだ。あんな奴にも気が使えるなんて、さすが自慢の妹だよ」


千尋がそう言いながら絢と麻貴の頭をなでると顔を赤らめてにやけていた。


「ああ、ずるい」


「わたしも、わたしも」


「・・・わたしもいいですか」


「はいはい」


次々と義妹の頭をなでる千尋。そんな千尋を渚はじぃっと眺めていた。


「ん?どうしたの、鬼ヶ島」


「いや、仲のいい兄弟だなぁと思いまして」


なぜ、敬語なのだろうか。まぁ気にするほどではないだろうと千尋は渚の隣に座りなおした。


「じゃ、ご飯にしますか。おい、前園。はやく戻ってこい。食べちまうぞ」


渚はふっと敏樹が転がっていたはずの場所を見るとすでに敏樹の影はなく、視線を戻すと千尋の隣に座っていた。しかも、正座で。


「じゃ、いただきます」


「「「「「「いただきます」」」」」」


義妹と敏樹は千尋の声のあとに続いて声を合わせて食事のあいさつをした。


渚はどうしたらいいのか分からず、戸惑っていた。


「ほら、鬼ヶ島も食べて。謹慎明け一発目のお昼がコンビニ弁当だとさすがに空しいでしょ」


「今日は、お母さんのだからおいしいですよ」


絢に差し出された紙皿の上に乗ったピラフと海老フライを受け取り、穴が開くんじゃないかってほど見つめた。


「じ、じゃあいただきます」


渚は恐る恐る口に海老フライを運ぶ。


「・・・・・・ごくん」


「どう?詠子さんの海老フライ、おいしいでしょう」


「お、おいしい」


「よかった。どんどん食べて」


「じゃ、そっちのハンバーグを」


「はい、待っててください」


「あ、絢ちゃん。俺にも取って」


「お前は自分で取れ」


「そんな、ひどいよ。お義兄様」


「・・・・・・寒気が」


「地でひどい」


『あはははははは』


その後も、千尋と敏樹がバカをやってその場所は笑いが絶えなかった。もちろん、渚も笑っていた。そんな姿を見て少し安心をしていた。


昼休みはそうやって過ぎていった。





教室に戻ると渚は千尋の元までやってきた。


「さっきはありがとう」


「あ、いや、お礼を言うならこっちだよ。無理やりご飯に誘っちゃったのに付き合ってくれてありがとう」


「まぁ、お前はそういうやつだな」


「ん?何のこと」


「ふふ、まあいい。だけど、僕からもお礼を言わせてくれ。ありがとう」


「まぁ、どういたしまして」


千尋と渚のおかしな会話を敏樹はにやにやしながら眺めていた。


「いやいや、千尋君はモテモテだね」


「はぁ?何のことだ」


「何のことだろうね?鬼ヶ島さま」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


顔を真っ赤にしている渚だが、千尋にはその意味は理解されず、敏樹はさらににやにやしていた。


「と、とにかくありがとう。それでだ・・・お前今週の日曜暇か?」


「えっ?いきなりだな。たしか予定は・・・」


そう言って携帯を取り出し、予定表を出す。


「うん、予定はあいてるよ」


「そうか。でだな。・・・これを親戚にもらったんだ。三枚ほど」


そう言って渚が取り出したのは、野球の観戦チケット。


「そう。良かったじゃん」


「で、だよ。お前、暇なら・・・一緒に・・・」


「え、いいの。せっかくのチケットなのに」


「そんなこと言うなよ」


ニヤニヤし続けている敏樹が千尋の肩に乗っかた。


「お前、これはデー・・・」


「だまれぇ!!」


渚の渾身の蹴りで敏樹は大きく後ろに進行した。


「い、いい、いるのか。いらないのか」


「じゃ、じゃあ、ありがたく」


「それじゃあ、日曜な」


そのまますぐに自分の席に戻ろうとする渚を千尋は肩を掴んでひきとめた。


「あ、あのさ・・・もう一枚あるんだよね。できればそれももらえないかな?」


「??別にかまわないけど」


この千尋の一言が修羅場を生むとは渚も千尋も分かってなかったろう。(倒れながらもにやにや笑う敏樹を抜いて)

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