闇夜を飾る純愛のオーロラⅩⅩⅠ
敏樹はダンスホールから離れ、月夜だけが当たる庭園に腰をおろしていた。
「はぁ、なにしてんだろうな?」
自分に問いかけるが答えが返ってくるわけもなく、ただの静寂がそこにあるだけだった。
「まったく、バカじゃねえの」
こっそり持ち出したシャンパンをビンごと傾ける。
「こんなところにいたのか」
「お、千尋か…」
敏樹が言い終わる前に敏樹の顔を拳がとらえる。
突然のことに対応できずに敏樹は吹っ飛んだ。
「いきなり何しやがる!」
「ふん。バカに目覚めの一発をやっただけだ」
千尋は指を鳴らしながら、転がる敏樹を見下ろす。
「今、イライラしてんだ。お前でも許さねえぞ」
「あ~あ、クズみてえな意地しか持たないお前にはその程度が台詞がやっとか?」
「てめえ、後悔してもしらねぇぞ」
立ちあがり、血の混じった唾を吐くとファイティングポーズをとった。
そして、拳を千尋の顔面に向けて振り抜く。
だが、千尋はいとも簡単にかわし、敏樹の腹に拳を撃つ。
「ごはっ!」
「いくじなしのお前の拳なんか当たるわけないだろ」
よろめく敏樹を千尋は蹴り飛ばす。
「くそっ」
敏樹はすぐに立ち上がり、何発も千尋に殴りかかる。
だが、それは当たるどころかかすることもなく、空をきる。
「あたらねぇって言ってんだろ!」
避け続けていた千尋が堪忍袋の緒が切れたのように吠えた。
千尋の放った拳は敏樹の頬をえぐるようにとらえた。
敏樹は無様に芝生の上を転がった。
「本当に…何なんだよ!」
「まだわかんねえのか!」
「わかんねぇ……わかんねぇよ!!」
そう叫びながら敏樹はゆっくりと、よろよろとしながら立ちあがった。
そして、今にも泣き出しそうに瞳で千尋を睨みつける。
立ちあがった敏樹を千尋は容赦なく殴り続ける。
「お前が去った背中を怜央さんがどんな目で見てたかわかるか?泣きそうな顔で、でもお前に嫌われたくない一心で、お前を見てたんだぞ!彼女が俺になんて言ったと思う。大好きだって!ただ傍に居れればいいって!泣きながらそう言ったんだぞ!」
「……………………………………」
千尋の拳は敏樹の顔を、腹を、体中を痛みつける。
だが、敏樹が倒れることはなかった。
千尋は拳を止めることなく、叫び続けた。
「お前の彼女だって紹介された俺に、彼女は、かっこいいって、好きな人を取った俺に対してだ!お前に彼女の想いがわかるか!きっと身を切る想いだったろうに!それでも彼女はお前に嫌われないためにもそれを我慢したんだ!自分の本当の想いを踏みつぶしても、お前のためを考えたんだ!そんな彼女を!彼女の想いをお前は踏みにじったんだよ!」
ついに耐えきれなくなり、敏樹は膝をつく。
「お前ごときが!なんの権利があって!彼女の想いを無下にできるんだ!答えてみろ!」
「うるせぇ!」
「かはっ」
敏樹の渾身のタックルが千尋の鳩尾に決まる。
カウンター気味のその攻撃に千尋はノーガードのまま受ける。
すこしよろめいた無防備な千尋を敏樹は殴り続ける。
「俺だってわかってんだ!
「俺が弱いせいで怜央が……悲しい想いをしてんのも!
「あいつが俺にどんな気持ちを持ってるかも!
「俺があいつが好きだってことも!
「でも、俺は弱い!
「俺が弱いせいで!
「あいつが傷つくのはもう見たくないんだ!
「俺はあの日から決めたんだ!!この想いから一生目をそらすと!」




