闇夜を飾る純愛のオーロラⅩⅨ
「さて、ラストスパートだ」
凰華のステップが一段と速くなる。
「お、こっちも負けられないよ、渚ちゃん」
敏樹もそれに呼応するようにすばやく切れのあるステップになる。
「ちょっと、凰華姉!いきなりすぎ!」
「おい、前園!早すぎる!」
「さぁ、千尋!」
「行くよ、渚ちゃん!」
二人は同時に目を光らせ、ニヤッと笑う。
「「回れ!」」
「「あれ~~~」」
渚と千尋は同時に高速に回される。
最初から話を合わせていたかのように敏樹と凰華は綺麗にステップをそろえ、入れ替わる。
二人は回る二人の手を取り、動きは一段と速くなる。
それに合わせ、音楽も一層激しくなる。
千尋は敏樹に合わせより一層淑やかに、渚は焦りを隠せずに、けれど凰華の導きに合わせ荒らしさと激しさを増していった。
ティンパニーが刻むビートは足を速め、弦楽器は声をだんだんと声を高める。管楽器は拳銃のように息を弾として会場中に打ち込む。
千尋たちの足音が刻むビートと楽器の奏でる歌声がハーモニーを作りだし、会場中が一つの世界へと導かれた。
「さぁラストだ!」
敏樹の声とともに音楽は最高潮に激しくなる。
どんどん早くなる足音。
高鳴る鼓動。
会場中が息をのむ。
バンッ!!
世界が止まる。
会場中がの音が止まり、千尋たちの荒々しい息の音だけが世界で動いていた。
「ブラボー」
その声と一斉に会場中が拍手と歓声染まる。
「はぁはぁ。引き分けってところですか」
「ふむ。なかなかよかったよ。お疲れ。千尋。渚ちゃん」
「なんで、はぁはぁ、顔色も、はぁはぁ、変えずにいられるの」
「僕、だめだぁ。もう…歩けない」
「ふふ、二人とも運動不足じゃないかな」
そんなジョークに三人は苦笑を浮かべながらも、満足そうな顔をしていた。
「敏樹さん。千夏さん。すごかったです!」
そんなところにタオルを持った怜央が駆け寄る。
「ああ、ありがとう」
「本当に感動しました!」
「そうか、なら踊ったかいがあった」
敏樹は困ったような笑顔を浮かべ、タオルを受け取った。
「ちょっと火照ったかな。風に当たってくる」
敏樹はそう言うと逃げるようにその場を去っていった。
「前園……」
どんどん小さくなる悲しそうなその背中を千尋は心配そうに見つめていた。




