闇夜を飾る純愛のオーロラⅩⅦ
「にしても、本当に千尋なのかい?」
「……そうですよ」
「まだ、怒っているのかい?」
「怒ってませんよ」
その言葉とは逆に頬は種をたくさん入れたハムスターのように膨らんでいた。
凰華は苦笑を浮かべる。
「怒ってるじゃないか」
「そう見えるなら、そうなんでしょう。ええ、きっとあなたが見たことが答えなんでしょう」
「そう冷たく言うなよ。せっかくこんな可愛い千尋とダンスできるんだ。どうせなら笑っていてほしいな」
「男が可愛いといわれて嬉しいとでも思ってるのですか?」
「そうかい。でも、私はすごくうれしいよ。なんせ千尋と手をつないでるんだから」
「なっ!」
凰華の台詞に驚いて、火でもつけたかのように千尋の顔が一瞬にして赤くなる。
「はは。ほら、可愛い」
「う、うるしゃい…」
語尾の方が消えてしまいそうな声で抵抗をしめすが、噛んでしまったことで余計に顔は赤く染まっていった。
「じゃあ、千尋は嬉しくないの?私はこんな鼓動が早足で、心臓が飛び出しそうなくらい嬉しいって言うのに、君は私より前園君の方がいいといううんだね」
さみしそうな表情を浮かべる凰華に千尋は声を荒げた。
「そ、そんなことない!俺も、凰華姉と一緒にいれて……その…う、嬉しいよ」
「…………」
「凰華姉?」
「あははは。まさかそんなに必死に言ってくれるとは嬉しいね」
凰華は涙を浮かべながら、息が切れるぐらいに笑っていた。
そこで千尋は自分がはめられたことに気づいて、わなわなとふるえていた。
「ひ、ひどいよ!結構頑張って言ったのに!」
千尋が凰華から顔をそらすと千尋はにやりと不敵な笑みを浮かべた。
ダンスに合わせて千尋の腕を引く。
二人の顔が触れ合うのではないかと言うほど接近する。
「ふふ、嬉しかったよ。千尋」
「な、なな…」
そう呟くとすぐに離れる二人の顔。
千尋の顔は真っ赤で、頭のてっぺんからは湯気が出ていた。
それを見ながら凰華は優しい笑みを浮かべる。
「それより千尋」
「な、なな、なんでででですか!」
「共同不審すぎやしないかい。まあいいや。なんで、前園君と踊ってるときにこちらを見ながらおもしろくなさそうな顔をしていたの?」
「そ、それは……し……かった…ら」
千尋はうつむきながら呟く。
「へ?」
「だから、悔しかったから!」
千尋はもうやけくそに叫んでいた。
凰華もその答えは予想していなかったらしく目を丸くしていた。
「悔しい?それはまたどうして」
「なんか、嫌だった。なんでかわかんないけど…凰華姉が優しい顔でほかの人と笑ってるのも、渚が本心を見せて怒ってる姿も……本当は喜ばなきゃなんだけど…それが悔しかったんだ」
「ふふ」
「な、なんで笑うんだよ」
「はは…やっぱり、可愛いよ」
優しい笑みの意味を千尋が理解できるわけもなく、ただ疑問符を浮かべるだけだった。
千尋に自分の思いも届いてないことも、千尋がその気持ちが何かも気づいていないこともわかっていた。
だが、凰華はその言葉があまりに嬉しくて心からの笑みを浮かべた。
本当にうれしそうに




