闇夜を飾る純愛のオーロラⅩⅥ
ダンスホールに並ぶ二組の人影。
お互いがお辞儀をし終わると同時にオーケストラが静かに音を紡ぎ始める。
「さ、お手を」
敏樹が手を差し伸べると千尋はむくれながらその手を取る。
足を踏み出すとそれに合わせるように敏樹が一歩下がる。
「なんの思惑だ。こんな恥じらいを受けるために来たんじゃないぞ」
「まぁまぁ千夏ちゃん。そう怒るなよ。ただの憂さ晴らしだよ。体を動かしたいんだ。付き合ってくれよ」
「………ちっ」
「それに向こうも楽しんでいるようだよ」
敏樹の視線を追うとそこにはたじたじになりながら一生懸命にステップを踏む渚とそれをうまくリードする凰華の姿があった。
「……………………」
「どうしたよ、千夏さん」
「なんか気に食わない」
千尋は納得いかない表情でもうひと組をじっと見ていた。
敏樹はそんな様子を見せる千尋に笑みを向け、ステップのテンポをあげる。
それでも、千尋はステップを間違えることなく、もうひと組のダンスコンビをただひたすらに見ていた。
***
「ほら、見てごらん。千尋が思いっきりこちらを意識している」
「……………」
「そんなにしたばかり見てないで周りを見なよ。私が上手くリードしてあげるから」
「…………でも」
「ほら、早くしないと千尋が目をそらしてしまうよ」
凰華が優しく微笑みかけると渚は一度頷き意を決して顔をあげてそちらを見る。
「はっ!」
確かに千尋はこちらを見ていた。
目があってしまった。
その一瞬で渚は顔をそらしてしまった。
顔が赤くなるのがわかる。
こんなみっともないダンスをしている自分を千尋が見ていた。
恥ずかしくてこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。
そんな渚に凰華はクスッと笑みを向ける。
「な、なんで笑うんだ!」
「あはは、ごめんごめん。ただ、千尋も君と目があった瞬間に目をそらしたからさ」
「そ、そうなんですか」
「ああ、本当だよ」
それを聞いた渚はほっと安堵の息を吐く。
凰華はそんな渚の耳元でそっと囁く。
「さて、もうそろそろ次の行動に移ろう」
***
二組がどんどん近付く。
まるで最初っから予定されていたかのように交互が触れ合うんじゃないかというギリギリの距離でダンスが繰り広げられる。
そして、二組が遂に交差しようとした時だった。
それは本当に一瞬だった。
凰華と敏樹が同時にパートナーの手を離し、入れ替わったのだ。
千尋も渚も驚きを隠せないようで目を丸くしていた。
「やぁ、千尋。今日はずいぶんかわいくなったね」
凰華は茶化すかのように笑った。
パートナーが入れ替わったことなど問題ではないというかのように、流れる曲は止まることなく、ダンスも続いた。




