闇夜を飾る純愛のオーロラⅩⅤ
「ぐぬぬ……」
渚は窓を打ち破らんという勢いで顔を張り付けていた。
その視線の先にいるのはテラスで話す千尋と敏樹の姿が。
「なんで二人だけで……。しかもあんなに楽しそうに」
呻く渚をの周りには誰もいなかった。
せっかくのお洒落も渚の残念すぎる行動を打ち消すことができず、誰もがそんな残念な子に近づこうとはしなかった。
「千尋も千尋だ。今日は一緒にいきなり女装なんてしてくるし、僕との約束は何だったんだ」
「そうだね。あの完璧な女装は驚きだよ」
「っ!」
いきなりの声にとび跳ねる。
恐る恐る振り向くとそこには学校でおなじみな顔が…。
「やぁ」
「………生徒会長」
「ここは学校じゃないんだ。その呼び名は呼び名はやめてほしいかな」
「………なんて呼べば?」
「今更名字で呼ばれるのもむず痒いからね。凰華でいいよ」
「……わかりました、凰華先輩」
「まぁ良しとしよう。それよりいい話があるんだが乗ってみないかい?」
凰華は不敵な笑みを浮かべ、千尋を指さした。
***
オレンジ色の光が辺りを包み、自分を着飾った紳士淑女がシャンパンを片手に自分の権威を高く見せ合っている。
そんな中、千尋と敏樹は中央のダンスホールにできた人だかりの中心にいた。
「さて、千夏。残念なことに俺は今一緒に踊ってくれるパートナーが居ないんだ。ご一緒してくれないか」
敏樹はひざまづき、千尋に手を差し伸べる。
人だかりから上がる歓声。
大半が冷やかしだった。
だが、そこで断れば敏樹の面目はなくなり、みじめな思いをさせてしまう。
それが出来るほど千尋は人間ができていないわけでもなく、差し伸べられた手を取ろうとした。
「ちょっといいかな」
だが、ありがたいことにその手を取るよりも先に天の声が上がった。
千尋は逃げられると思い、満面の笑みを浮かべそちらへ振り向く。
「なっ!!」
しかし、一瞬にして千尋の表情は驚嘆の表情へとかわっていった。
「これはまた……すごいな」
敏樹も驚きを隠せないようだった。
「前園さん、ご機嫌麗しゅうございます」
「………」
そこには男性用の社交界用のスーツを着て紳士風のあいさつをする凰華とその手を握る顔を赤くした渚の姿があった。
「どうです?前園の御子息が踊るのに花が必要とは思いませんか?」
「お、凰華姉…なにを言ってるの?」
たじたじとする千尋を手前に意地悪な笑みを敏樹に向ける。
敏樹もそれにこたえるように子供じみた笑みを浮かべる。
「面白い。で、何をするおつもりかな?」
「簡単だ。我々と一緒に踊っていただけませんか?必ずあなた方を飾る至上の花となりますよ」
「いいですね。それはいい。さすがに私たちで踊るのは気がひけたところだ」
敏樹もわざとらしくいつも使わないような口調でその話に乗る。
二人は何を考えているのか千尋には全く理解していないが、話がどんどん大きくなっていくのに焦っていた。
敏樹が指を鳴らすとオーケストラ集団が一気に曲調を変える。
「さて、行こうか」
「な、いきなり!渚もなんか言ってくれ」
「………」
渚は無言のままうつむいていた。
「さ、渚さん。行きましょ」
渚は一度うなずき、凰華のさし出した手をとる。
「さぁ、お二人も。Danceを始めましょう」
凰華は楽しそうに微笑んで渚の手をを優しく引いた。
「もうっ!」
もう引くことが出来ない千尋も意を決めて一歩を踏み出した。
そして、小さな舞踏会が始まりの幕を開けたのだった。




