闇夜を飾る純愛のオーロラⅩⅢ
「えへへ」
怜央は幼げな笑みを浮かべていた。
ただそれだけなのに、まるでプロが描いた絵画のように心を引く不思議な力があった。
千尋も呆然とその笑みに魅了されてしまっていた。
「…………はっ!」
我に返った千尋は敏樹の詰め寄る。
「これはどういうことだ。聞いてないぞ。そもそも、知り合いなら俺がいなくても普通に断ればいいだろ?」
「……知り合いだからだよ」
「?」
敏樹は少し自虐的な笑みを浮かべた。
千尋は敏樹らしからぬその態度に首を傾げる。
今日の敏樹に違和感にちかい感覚を感じてばかりだ。
「どうかしましたか?」
二人が内緒話をしているのに多少の不安を感じたのか、少し涙目になりながら怜央が上目づかいで覗き込んできた。
(うわぁー)
千尋はつい赤面して顔をそらしてしまう。
千尋だけではなく男と言う生物には効果抜群かつ絶対的な破壊力のある攻撃だ。
「あ、もしかして、変なところがありましたか!?」
怜央はくるくると回りながら、自分のドレスのをふわりと舞わせる。
その行動一つ一つが本当に可愛いものだった。
「大丈夫だよ。どこも変なところはないよ」
敏樹が優しい声でそう言うと、怜央は立ち止って、また嬉しそうに笑った。
「敏樹さんがそう言うなら大丈夫ですね。えへへ」
その言葉には怜央の敏樹に対する信頼がこめられていた。
「で、あの……敏樹さん?そちらの御友人は?」
「あ、あの…」
怜央に見とれていた千尋はいきなり話を振られたためテンパって挙動不審な態度を取ってしまった。
敏樹はが一歩前に出て、千尋を隠すように怜央の前に立つ。
「こちらは千夏ちゃん。俺のクラスメートだ。で、こっちが俺の幼馴染の怜央だ」
「はじめまして。渡良瀬怜央と申します」
「こちらこそ」
二人はぺこりとお辞儀をする。
千尋はお辞儀をしながらもう一度ちらりと怜央を見る。
彼女は令嬢という言葉がぴったりな女の子だった。
彼女との婚約を破棄したいという敏樹の真意が彼女にあってから余計にわからなくなった。
顔をあげると、怜央はもじもじとしながら敏樹と向き合った。
「で、あの、敏樹さん…お話があるんですが」
「……婚約のことか。ちょうどいいや。俺も話したいことがあった」
「な、何でしょうか?」
「いきなりで申し訳ないけど…」
俺さ……この子、千夏ちゃんと付き合ってるんだ。だから、婚約の話はなしにして欲しい
「え?」
怜央は信じられなそうな顔で敏樹を見る。
だが、敏樹の顔はいたって真剣なものだった。
「だから、今回の話を白紙にしたい」
「そうですか……」
「お、おい、前園。直球すぎないか?」
「そうですよね!」
いきなり大きな声を出す怜央。
その顔には笑みがあった。
「私も敏樹さんに私なんかが合うのか不安でした。こんなお綺麗な彼女さまが居るんですもの。お父様には私から言っておきますわ。ああ、少しのどが乾きました。私、先に中に戻っていますね」
怜央は早口でそうまくしたてると早足で会場の中へと姿を消していった。




