闇夜を飾る純愛のオーロラⅫ
怜央はただテラスに立っていただけだった。
だが、そこはまるで別世界のように見えた。
月夜をステージに変えて、彼女だけの舞台がそこにはある。
そう錯覚させるほど彼女のもつ雰囲気は華奢で煌めいていた。
「すごい……」
千尋は素の表情でそう呟いた。
「あ、敏樹さん!」
怜央が敏樹に気づいて、駆け寄ってくる。
彼女の頬は桜色に染まり、テラスが先ほどとは違った光景が見えた。
敏樹の前で立ち止まると、淑女らしくスカートをつかみお辞儀する。
「お久しぶりです、敏樹さん」
「よ、久しぶり」
敏樹は軽く手をあげてかえす。
高貴さも上品さもあったものではない。
だが、怜央はニコニコと笑っていた。
それに反して敏樹は苦笑していた。
千尋には二人の間にある温度差に首を傾げずにはいられなかった。
怜央もそこでやっと千尋に気づいたらしく、あわてる。
「あ、敏樹さんのご友人様ですか?すいません!挨拶が遅れてしまいました。渡良瀬怜央です。いつも敏樹さんには良くしていただいていて…」
「お、おい!怜央」
「?なんですか?敏樹さん」
「恥ずかしいからそう言うのはやめてくれ」
「あ、す、すいません」
ふたりは妙に仲が良さ気で、千尋は首をひねる一方だった。
千尋は敏樹の腕を引きよせ、耳打ちをする。
「お、おい!どういうことだ!なんで二人ともそんな親しげなんだ」
「ああ、言ってなかったっけ?」
敏樹はいったん千尋から離れ、怜央の隣に移動する。
「俺とこちらの怜央は幼馴染です」
「………………は?」
「えへへ」
妙に嬉しげな怜央の顔がその言葉の真実味を表す。
「まじっすか」
千尋は笑顔をひきつらせる以外にどう反応すればいいか思いつかなかった。




