闇夜を飾る純愛のオーロラⅨ
裕福の差を感じられずにはいられないスーツ姿の紳士たち。
目が眩むほどに煌びやかなドレスに身を包み、気品さを醸し出す令嬢たち。
いま、そんな夢にも出てきなそうな現実みのない場所に千尋たちは足を踏み入れようとしていた。
「帰っていいか」
千尋は変声機によって出される綺麗なソプラノボイスでぼそりと呟いた。
「いやいや、ここまで来てそれは無いだろぉ。面白い冗談だ」
「冗談じゃねぇよ!!規模デカすぎだよ!!聞いてたのと全然違うじゃん!!」
「あれ〜そうだっけ?」
笑顔をうかべながらも、腕を絡めホールドを決める。
「あ、お兄ちゃんかわいいな」
「ちぃ兄・・・やばいな。はぁはぁ」
先に会場について香奈と麻貴が合流した。
「お、麻貴、香奈。母さんに迷惑かけなかったか?」
「おう、かけなかったぞ」
「そんなことよりまじかわえぇの。おじさんとどうイテっ」
「気持ち悪いことしないの」
絢のチョップが麻貴の脳天にはいる。
「それよりよく俺だってわかったな?」
「え?お兄ちゃんがわからないことなんてないぞ?」
香奈はさもそれが当然であるかのように不思議そうな顔をする。
「愛されてるな、千尋」
「まぁな。それよりさすがにこの人数相手じゃばれないか?」
「堂々としてろよ。それで充分に騙しきれるさ」
「おお、間宮くんではないか!」
後ろから突如現れたシビアな声。
いきなりばれたかと思い、ゆっくりと振り返ると声に似合ったダンディーな男性が英司に話しかけていた。
「あ、前園金造社長。今日はお呼び立てありがとうございます。会社一同、感謝しております」
前園金造。
前園グループの社長であり、敏樹の父親だ。
そんな彼が敏樹と千尋に気づいたらしく、英司との会話を早急に切り上げ、そちらに向かった。
「敏樹、遅いじゃないか。客人たちがお前の挨拶を首を長くしてまっておられる」
そう言い終わると金造は千尋をみる。
その視線はまるで品定めをしている検定人のようで千尋は全て見透かされているのではないかと思ってしまうくらいだった。
「その人が例の?」
重圧をそのまま形にしたような彼の言葉に怯むことなく敏樹は口を開く。
「そうだよ。俺の恋人。さ、挨拶して」
敏樹は千尋の背中をそっとおす。
千尋は戸惑いを隠せないまま、うつむく。
ちらりと金造をみると彼の視線ですぐにでも逃げ出したくなった。
だが、親友のためと千尋は自分に言い聞かせ、決心をした。
一度、大きくお辞儀をし、顔を上げる。
その拍子に金造と目があった。
しかし、千尋は目を反らすことなく凛とした態度をみせ、
「私はま・・・敏樹さんとお付き合いさせていただいております。水無月千夏と申します」
と言い切った。
そして、戦いの火蓋をきって落とされたのだ。




