料理が火を噴くバトルロワイヤルⅧ
「出来た!!」
その声と共に千尋たちの眼前に姿を現した漆黒の液体。
この世のものとは思えないほどの黒。
妖艶な光沢を表面に浮かべ、どす黒い煙をあげていた。
「ささ、遠慮せずに召し上がってください」
「「…………」」
千尋と敏樹は目の前の未確認生命体(?)に声を失っていた。
そんな二人を茉奈はきらきらと期待に満ちた希望的な目で見つめる。
「お、おい、千尋」
「なんだよ、名実況」
「なんだかデジャブを感じずにいられないんだが」
「ああ、俺も同意見だ」
「だが、考えてみろ。麻貴ちゃんや香菜ちゃんが作ったスープは美味かった。このデジャブはそれをうったえているんじゃないか」
「逆に聞くが、麻貴たちのが以上で普通は料理と言うのは見た目は味に比例すると思うんだ。だが、前園…お前はそんな風に言うんだ。食ってみてその持論を証明して見せろ」
「お、まっ、ちょ」
声にならない意見とそれを示すパントマイムで敏樹の手足はにぎやかに動く。
「どうしたんだ、お兄ちゃん?」
「ああ、香菜」
「ん、なんだそれ?」
「茉奈が作ったスープなんだけど……」
そこで何かがひらめいた。
千尋は敏樹に任せろと目で意見をして、香菜に向き直る。
「なぁ、香菜」
「ん?なんだ」
「お兄ちゃんは香菜のスープが美味しすぎて食べすぎちゃった」
「おお、そうか!ならよかったぞ!」
「でな、茉奈のスープを今すぐ食べるのは無理らしい」
「ん?そうなのか?」
そこで敏樹も気づいたらしく、顔を伏せる。
「でも、熱いうちに食べないともったいないだろ?」
「うん、そうだな」
「だから、香菜が食べてみてくれないか?で、感想を聞かせてくれ」
「えぇ、でも………」
「お兄ちゃんが食べさせてやるから」
「うん、お兄ちゃんの代わりに食べてやるぞ!!」
かかった。
千尋と敏樹はばれないように小さくガッツポーズをとる。
「もう、お兄さまが食べてくれなきゃ嫌です」
「俺らは冷めてからいただくよ」
「……まぁ、それなら」
茉奈も渋々納得したようで引き下がる。
「ほれ、香菜。あ~ん」
「あ~ん」
ぱく
漆黒の未確認生命体が香菜の口の中に入れられた
「うん?なんだが、辛くて甘くて酸っぱい?なんかかわった味だ…ゴフッ!」
「「!!」」
例のあれを口にしてから数秒後、香菜は倒れた。
千尋は倒れた香菜をゆっくりと抱きかかえた。
「お……兄ぃ…ちゃ……ん」
「もう、しゃべるな。もう…いいんだ」
「最後の…あ~ん……うれ…しか……った…ぞ………………………」
「かなぁぁああぁぁあぁぁぁあぁぁぁ!!」
こうして未確認生命体による災害は香菜一人の命によって防がれたのだった。
「で、この寸劇はいつまで続くの?」
「ん?そうだな。さて、茉奈…残念だが君には戦力外通知を出さないわけにはいかない」
「が~ん」
「ってことでこのスープもどきはどーん」
千尋はそう叫びながら皿ごと外に放り投げる。そのスープもどきは濁った虹を描きながら土へと帰っていった。
「う~ん、黒い何かが……なんかドロドロが追いかけてくるぅ~」
香菜は気を失いながらもそんなことを口から漏らしていた。
「マジで食べなくてよかったな」
その敏樹の一言に心から賛同する千尋だった。




