間違えだらけの恋文事件!!Ⅱ
義妹たちの恋文を徹夜で読み、色々と考えた結果、結局何も答えの出ないまま学校へと向かった千尋。
義妹たちはいち早く学校へ向かったらしく、家を出るときには一人としていなかった。久しぶりの一人っきりの食事に少し寂しさを覚えながら、やはり顔を合せなかったことに安心してしまった千尋。
「お~い、千尋」
千尋の悩みを知らない悪友は今日も気軽に陽気な声で挨拶をしてくる。少しむかつくが実際に知らないのだ。怒をぶつけるのはお門違いもいいところだ。
「よ、前園」
「なんだ、今日は綾ちゃんとは一緒じゃないのか」
「・・・・・・・・・まぁな」
「なんだよ、あの笑顔を見れないなんて一日が始まらないじゃないか」
「おまえ、まさか絢に・・・」
そう千尋が言うと、ニヤッと笑みを浮かべる敏樹。
「もうお前には絢近づかせないよ」
「そんな、義兄さま」
「その名で呼ぶな」
「ははは、良かった。元気そうじゃねえか」
「え?」
敏樹の一言に少し驚いてしまう千尋。頭を掻きながら敏樹は話し始めた。
「お前が無理してるのは見てすぐわかるよ。顔に出まくりだからな」
「そんなにか」
千尋はあわてて顔をなでまわすよう触る。それをみて敏樹は噴き出した。
「あはは。気づいてなかったのか?逆に驚きだ」
「む・・・笑いすぎだボケ」
「ぐふっ」
エルボーを腹に叩きこまれた敏樹は軽く呻いた。
「で、でだ。その感じだとその原因と、絢ちゃんが一緒に登校しなかったことが何か関係してんだろ」
「・・・・・・まあな」
「そうか、まぁ無理に話せって言うんじゃないからよ。力になれることがあったら言ってくれ」
「・・・おう、ありがとな」
「いいってことよ!!」
「それにしても、おまえ・・・」
「ん?」
「空気以外とよめんだな」
「まあな」
二人で笑いながら教室にむかった。
教室のドアを開けると千尋に向かったとことこと走って近づいてくる影がひとつ。絢だった。
「ごめんね、これお弁当」
「あ、ああ、ありがとう」
「で、でね、お昼一緒に屋上で食べない?」
「あ、うん。別にかまわないよ」
「本当!?やった」
うれしそうに絢は自分の席まで戻って言った。敏樹は笑いながら千尋の肩を叩いた。
「なんだよ、いつもとそんなに変わらないじゃんか」
「・・・ああ、そうみたいだな」
千尋も不思議そうに首をひねった。自分は冷や汗をかきながら必死に笑っていたが絢はいつも通りだった。それがどうも変に感じてならなかった。
結局、義妹たちへの答えを詮索するのに午前中すべて頭をフルに使い考えていたが答えは出ず、お昼を迎えた。
絢に言われるとおりに屋上に向かう千尋。途中で自動販売機によってジュースを12本買って手にいっぱい持って歩く。
屋上に着くとそこでは弁当を広げた女の子たち、具体的に言うと義妹が全員座っていた。
「お待たせ、これジュース」
「あ、ありがとうおにいちゃん」
「さすがにぃに。まさか人数分買ってくるとは」
「たまたまだよ」
嘘だ。千尋はどうせ全員そろうだろうと予想していた。なんせ昨日の今日だ。何かしらの行動に出るだろうと思ったいた。それは正解だったらしい。
「おっし全員そろったことだし、食べよっか」
「うん。そうしよ」
「「「「「「いただきます」」」」」」
和気あいあいと昼食は進んだが、それはさらに千尋に疑問と重圧を増やすばかりだった。
「ふう、今日も上手かったなぁ」
「ふむ、絢お姉ちゃんのご飯はおいしい」
千尋と茉奈が空を見上げながらお茶をすする。それを見ていた香菜は静かに千尋の手を握った。
「ねぇ、お兄ちゃん。私のラブレター読んでくれた?」
香菜のその一言で義妹たちがビクッと反応した。
「読んだよ。最初から最後まで」
「どう・・・だった?」
恐る恐る聞く香菜の声は少し震えていた。千尋の手を握る手にも力が少しこめられるのもすごく感じられた。
「うん。うれしかったよ。お世辞とかじゃなくて、本当に皆が俺のことを思ってくれてるんだと思えた。」
「な、なら!!」
「でも、だからこそ・・・だからこそ、俺はお前らの気持ちに応えられない」
「・・・・・・なんで」
絢は静かに、弱弱しい声で聞いてきた。
「俺はお前らのことを一番大切に考えてきた。でも、それは女性に対してじゃない。妹に対してだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「きっと、一番近くにいた異性としてそう感じただけで、きっとその気持ちは勘違いなんだよ」
「そんなことっ」
「少なくとも!!」
千尋はそこでいったん間をおき、大きく深呼吸をした。
そして決意をしたようにはっきりとした声で
「俺はお前らを女性として見たことはない。だから、気持にも応えられない」
と言った。
静かになってしまった義妹たちを見ながらどうしようもなく大きな罪悪感が千尋の心を襲った。しかし、これが義妹たちのためでもあり、千尋が一生懸命考えた答えなのだ。
そんな中、葵が静かに立ちあがり、千尋の前へ来て座った。
「じゃ、私たちをにぃにが女性と見れれば考えてくれるってことだよね」
「へ?」
いきなりで葵が何を言ってるか千尋は理解できなかった。
「・・・にぃにが私たちを女の子としてみてくれるようにすれば、考えてくれるってことでしょ」
迫る勢いで葵が千尋にしゃべり続ける。千尋の驚いた顔を気にせず自分の気持ちを吐き出した。
「そんな妹だからって理由で断られるのは嫌。嫌いでもないのに断られるなんて納得いかないもん。だからにぃにに今日から私を女の子として見てもらえるようにして見せる」
誰に言うでもなく空に叫び、握りこぶしを作る葵。
「だから、覚悟しといてね」
千尋に宣戦布告のようにこぶしを突き出し、元気よく階段に向かって駆けだした。千尋はぽかんと口を開け呆然としてしまった。
「葵の言うとおりだね」
「うん、本当に」
「お兄ちゃんが妹でダメだって言うなら」
「一人の女になればいいだけですもの」
その場に残っていた義妹たちも立ちあがり、先ほどまで泣きそうだった瞳をらんらんと輝かしていた。
「お兄ちゃん」
「私たちもお兄ちゃんに女の子として」
「いつか好きなってもらえるように」
「がんばります。だから・・・」
「「「「待っててね」」」」
そう言って義妹たちは千尋を一人屋上に残しその場から去った。
「なんなんだよ」
千尋の小さなつぶやきは青い空に消えていった。