料理が火を噴くバトルロワイヤルⅡ
ボイスレコーダーと思われるものから流れる千尋の音声。
それが語るのは少女漫画に出てきそうな青い春だった。
ぼんっ!!
千尋の顔が湯気をたてて赤くなる。
「な、なな、何だそれ!!」
絢の手に持たれたそれを奪おうと暴れるが鎖が邪魔して、千尋の思い通りに身体は動かなかった。
「ど、どうやってそんなものを!!」
その質問に茉那はうっすぺらな胸を自慢げに張って答えた。
「そんなの決まってますわ。お兄さまの鞄に盗聴器を仕掛けただけですわ」
「さらっと怖い事を言うな!!」
「ちぃ兄。今はそんな小さい事は良いんだよ」
「よくないよ!!俺のプライバシーはどこへ行った!!」
「ハワイ」
「主人をおいて奴は何をしにハワイへ行きやがった!!」
「大統領選挙」
「デカイな!!人の権利が人を統率に出たのか!!」
「イエス・ウィ―・キャン」
「何も出来ねぇよ!!むしろ、何もせずに戻ってきてくれ!!アメリカより俺がピンチだ!!」
「もう、文句が多いな」
「俺か?俺が悪いのか!?」
ぽちぃ
『よ、よしてよ。凰華ね……』
「やめてぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇえぇぇぇえぇぇぇえ」
|ボケ≪いもうと≫と|ツッコミ≪あに≫の泥仕合は|最終兵器≪ボイスレコーダー≫によって幕を閉じた。
そんなくだらない争いに全力で投じていた千尋は肩で息をしながら義妹達を睨みつける。
「で、結局だよ?この状況になったんだ」
「それは最初に言ったじゃないですか」
絢が千尋の前まで歩み寄る。
なぜかその格好はスーツにスリムなサングラスといったSPみたいな恰好をしていた。
「……なんのアニメの影響だ?」
「あ、アニメじゃないもん。ドラマの、ゴホッゴホン…話を逸らさないでほしいな」
弁解しようと一瞬、素に戻っていたがすぐにわざとらしい咳をして誤魔化してキャラを守ろうとしていた。
サングラスで顔は見えないが耳は真っ赤になっていた。とてつもなく恥ずかしかったらしい。
「で、何を聞きたいのですか?コスプレイヤーさん」
「コスプレイヤーではない!!と、とにかく我々の質問だけに応えて下さい」
最後の方はもう日ごろの絢と口調は変わって無かった。
絢は耳を真っ赤にしながら胸ポケットから凰華の写真を取り出し、千尋に突きつける。
「この人との関係を吐きなさい!!」
絢の叫びと一緒になぜか後ろから麻貴がかつ丼を持って前に出てきた。
それを見て千尋は深いため息をついた。
「わかった。てか、こんなことせずに普通に聞いてくれれば話したよ」
「じゃあ、さっそく……」
「その前にこれをほどけ」
絢がサングラスの中の鋭い眼光を千尋に向けた。
「………ちょっと待って」
義妹たちが一か所に集まり何かを話しあっている。
最終的には多数決になったのか幾度か手を上げたり下げたりを繰り返していた。
鎖をほどくか解かないかでそんなに手を上げる必要があるのか?
頭を捻りながら、自分が怒られる要因であろう事項を可能性の高い順に整理していると、議会の決定はおりたらしく絢が千尋の前まで出てきた。
「決まりましたか?長女よ」
「決定しました。とりあえず鎖は解きます」
内心ほっとしながら態度に出さないように平常を保つ。
「ふぅ。朝からひどい目に会った」
気を抜いて背伸びをする身体をほぐす。だが、背伸びをしたときに頂点にあった両手がいきなり掴まれ…
ガチャッ
鍵を閉めるような機械的な音が。
恐る恐る千尋は自分の両手を確認する。
そこにいたのは………
……TE・ZYO・U☆
「おいおい、おかしいだろ?さっき解放されたばっかりだぞ」
運動してでる汗とはまた違った理由ででる汗がだらだらと額を下っていく。
「これについての説明……は?」
絢の方へ視線を向けるとお昼に大人気なあの人みたいな髪型とスーツに変わっていた。しかも丁寧にサングラスも四角いものになって、手にはマイクまで持っていた。
「話してくれるかな?」
「某司会者風に言われてもスルー出来るか!!」
「だって、お兄ちゃん逃げちゃうと思ったから。……だめ?」
「上目づかいで言っても事実は変わらん!!しかも、サングラスで表情も見えん!!」
「ちっ」
「誰か!!妹が反抗期です!!」
「まぁ、冗談は置いといて」
「………俺には冗談に思えなかったが」
なんとか手錠も外され、やっと自由の身となった千尋は手をポキポキ鳴らしながら妹たちの前にたった。
兄による笑顔の反撃…開始。
「さて、妹たちよ」
「・・・・・・・・・」
笑顔の千尋から発せられている只ならぬ気に野性的本能が働いたのか妹たちは黙りこんで目線をそらす。
「全員、正座」
「・・・・・・・・・はい」
妹たちは素直に千尋の言葉に従う。
「朝からあんな事をするのは非常識だと思わないか?」
「・・・・・・・・・」
「しかも、人に何かを聞くときの態度じゃないよな?」
「・・・で、でも」
「ほう?口答えが出来るとは見上げた根性だ」
「・・・すいません」
「そもそも、お前らは……」
その後、千尋の説教という日頃の鬱憤晴らしは一時間続いた。




