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絶対妹大戦  作者: 長門葵
8章~夕日で模られたガラスの瞳 ~
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夕日で模られたガラスの瞳Ⅹ

2人が出会ったのは随分前の話。


それは千尋の実母である理恵子の葬式の時だった。


父、英司の知り合いの両親に連れられ凰華もその場に居合わせた。


英司の隣で小さいながらも参列した客人に挨拶を交わす千尋。


その姿を見た凰華は子供ながら千尋の姿に違和感を抱いていた。


普通ならそこで泣くはずだ。いくら強がりだとしてももう少し感情を見せるはずだと。


凰華が千尋の前に立つと千尋は深々と頭を下げた。


「忙しい中、母のためにありがとうございます」


自分より小さい子供の言葉とは思えなかった。


その光無き瞳に凰華は今までに感じた脅威さえ覚えた。


「君の名前は?」


気づくと千尋に話しかけていた。


「・・・・・・ちひろ」


「・・・ちひろ。いい名前だ」

そう言うと凰華は千尋に手をさしのべる。


「私は結月・L・凰華。よろしく千尋」


「・・・・・・・・・」


千尋は恐る恐る出された手を握る。


それが2人の初めての出会い。



2人はその後もよくあっていた。


そこで千尋は凰華に騎士としての誓いをたてた。


大人から見たらただのごっこ遊びだったかもしれない。


だが、千尋には命にも代えても護りたいと思える誓いだった。


凰華は千尋に言った


ーこの誓いがある限り、私はあなたの前から消えていなくなったりはしないわ


その言葉を信じて千尋は何があろうと凰華についていこうと誓ったのだ。


だが、その誓いも空しく想いだけを残して消え去った。


千尋はいつものように待ち合わせ場所に来ていた。


空は雲に覆われ、灰に染められていた。


「……凰華姉、遅いな」


時間になっても凰華は姿を現すことはなく、時間だけがむなしくすぎていく。


「……千尋」


その声に振り返るが、そこにいたのは凰華ではなく英司だった。


「お父さん?」


何故ここに?


のどまで出かけたその言葉を千尋はもう一度飲み込む。


何故、千尋はためらったのか。


それは目の前にいる英司の表情があまりにもひどいものだったからだ。


同情、悲観、そのほかの色々な感情が入り乱れたその表情に、千尋は予感じみた想いを感じていた。


「………しっかり聞いてくれ」


「お父さん?」


「結月さんちは引っ越した」


「え…」


「だから、もう凰華ちゃんとは遊べない」


「…う………そ……」


「嘘じゃない。でも、きっといつか…またどこかで会えるさ」


「いつっていつ!?凰華姉がどこかに行くはずがない!!お父さんの嘘吐き!!」


「千尋!!」


英司の声に千尋は体をびくんと震わす。


「………ごめんな。父さん、お前にさびしい思いさせてばっかだ」


今にも泣きだしそうな英司にそんなことはないと抱きつきたかった。


だが、千尋は声を出すことができまなかった。


なにより、凰華が自分を裏切るわけがない。


そう信じたかった。


信じなければ…今までの自分が跡形もなく崩れ落ちてしまいそうだった。


「さぁ、帰ろ」


英司が差し出した手を千尋は握り返すことなく走り出す。


「千尋!!」


英司の声も振り切りとにかく必死に走った。


嘘だ。


凰華が自分を裏切るなんてことはありえるはずがない。


その思いを何度も頭の中で読み返し、自分に言い聞かせた。


気付くと凰華とはじめて遊んだ公園に来ていた。


そこは凰華と千尋が誓いを結んだ場所。


二人の想いが詰まった場所。


その中を歩きまわる。


ここにいれば凰華もきっと来てくれる。


そんな想いをかけ、そこに佇んだ。


不意に頬に冷たいものを感じた。


千尋は空を見上げる。


灰色に染まった空から一粒一粒、次から次へと雨粒が落ちてくる。


「…あは……あはは」


千尋は壊れた人形のように笑い始める。


その瞳から頬を伝う涙が暗闇に吸い込まれていく。


空がこぼした声が千尋をあざ笑うかのように地面をたたく。


千尋の声は誰にも聞きとられることなく雨の中に消えていった。





この後、千尋が見つかったのは三時間後だった。


英司が警察に要請し、その警察に保護された。


千尋の瞳に光はなく、ただ空を見つめていた。



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