夕日で模られたガラスの瞳Ⅸ
「俺の前から姿を消した理由を!!」
千尋は自分の声が震えているのがわかった。
声だけではない。
先ほどから握りしめている拳も、自分を支えている両足も。
これから待つ真実の重みに恐怖して震えていた。
だが、千尋はまっすぐに凰華を見つめた。
次の言葉を待ってただただ真剣に前だけを見た。
「………」
凰華はカップを置き、小さなため息をついた。
「そんなことでいいのかい?男の子だったらもっと大きなものとかあるだろ。たとえばどこでも行けるドアを出すポンコツロボットがほしいとか、この学校の番長にして欲しいとか」
凰華はふざけた口調でそんな言葉を口から漏らす。
それでも千尋はまっすぐと凰華を見ていた。
「ふざけないで……答えて下さい」
千尋の真剣に折れたのか凰華は小さなため息をつき、次には真剣な表情になった。
そして、凰華の口から出たのは
「なにもなかった」
だった。
千尋は憤怒して机を震える拳でたたく。
「ふざけないでください!!」
「ふざけてなどいない。君の前からいなくなったのに理由なんてものは何もなかった。あえて言うのだとすればそれが運命だったんだ」
「意味が……わかんねぇよ……」
千尋は声を震わせうつむいた。
千尋の目から光る粒が幾度となく落ちていく。
「なんでなんだ。あなたが言ったんじゃないか……私のそばにいろと。なのに、何故……消えたんだ。凰華姉さん!!」
千尋の叫びはあまりにも悲痛だった。
悲しみと怒り、そして自分に対する嫌悪を感じずにはいられない。
凰華にはそんな風に聞こえていた。
だが、凰華は柔らかな笑みをうかべ、語りはじめた。
「なぁ、千尋。あのころを覚えているか?」
「……忘れる……わけがない」
「ああ、君と出会ってから世界は変わって見えたよ」
凰華は窓の外の夕日をガラスのように透き通った瞳で静かに見つめた。




