間違えだらけの恋文事件!!
さわやかな朝。
学生たちは元気に歩道をせっせと歩く。あるものは友達同士で話しながら、あるものは一人で部活バックを抱え急いでかけている。
そんな中、千尋はどす黒いオーラをまとって歩道を死人のように歩いていた。
「これ・・・どうしよう」
その手には五通の手紙が収まっていた。
五通の恋文・・・それが千尋の歩みを一段と重くする。
それを説明をするには昨日にさかのぼる必要がある。
「「「「「好きです。付き合ってください」」」」」
五人の妹は同時にラブレターと思われる手紙を千尋の胸に押しつけた。
「えええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええっぇぇええぇぇぇぇ」
千尋は叫びは家中に響き渡った。
「・・・なにこれ、何のドッキリ。カメラはどこだ。実は親父たちと仕組んでいるんじゃないのか。どこだ出てこい」
「ちょっとお兄ちゃん落ち着いて」
「この反応はひどくねぇか」
「まったく、初心なんだからにぃに」
「あはは、そんな喜んでもらえるなんてうれしいぞ」
「喜んでないよ、ばか」
挙動不審に周りを詮索する兄に対して、妹たちはそれぞれコメントを言う。千尋はそんな妹の態度からもこれが何かのいたずらの一種だとしか思えなかった。
一回深呼吸をして、自分を落ち着かせながらもう一度座り妹達に向かう千尋。
「で、これはなに?誕生日サプライズ?」
妹たちはにこっと笑い一言・・・
「「「「「本気だよ」」」」」
まじっすか(汗
千尋の背中に冷や汗がとめどなく流れている。なんとか心を落ち着かせ、もう一度問う。
「冗談だよな」
「そ、そんな信じられない?」
絢の言葉に千尋は必死に頭を縦に振った。
「だって、俺はお前らの兄なわけで・・・付き合えるわけないしゃないか」
「血がつながってなくとも」
「・・・へ?」
確かに、千尋と妹たちは血のつながらない兄弟だ。
この事実は絢と千尋以外は知らないものだと少なくとも千尋は思っていた。
「な、なにを言ってるんだ?わ、わけがわからないぞ」
「まったくにぃには嘘が下手だね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
溜息で一拍を置いて千尋は絢を珍しく睨むように見つめた。
「絢が言ったのか」
「い、いい、言ってないよ」
「じゃあ、誰が?」
あえて言及しないことで千尋は絢にさらにプレッシャーをかけた。それに耐えきれなくなったか絢は涙目になり始めた。それを見て義妹たちはあわててフォローにはいる。
「絢お姉ちゃんは何も言ってないよ」
「そうだよ、にぃに。お父さんが酔っ払ってこの前全部話してくれたんだよ」
「・・・はぁ、あのクソ親父め」
義妹からの恋文をいったんすべてテーブルに置き、もう一度溜息をつく。
「まぁ、絢が言うわけないよな。ごめんな。・・・で、お前らはどこまで聞いたの」
絢をの頭を謝罪の代わりになでながら、千尋は義妹たちを一人一人見つめる。
「んとね。お母さんが私らが生まれてすぐに今の親父と再婚したって」
「だから、全員お兄ちゃんと血がつながってないって」
「・・・全部じゃないか」
頭を抱えて溜息をつく。今日はなんだかこんなのばっかりだと千尋はまた溜息をついてしまった。
「・・・で、なんでこんな行動に出たんだ」
「ふにゃ、え、ええと・・・それはね」
さっきまで千尋に頭をなでられふにゃふにゃになっていた絢が急に姿勢をただしせき込んだ。
「私たちね、皆、お兄ちゃんのことがずっと前から好きだったの」
「いつも、私たちのこと考えて、人一倍やさしくしてくれたしね」
「それに、にぃには私のことをほめてくれるし」
「なでなでしてくれるし」
「膝枕して、本読んでくれますし」
「どれも兄としてだよ!!」
「と、とにかくラブレターを書いたから読んで」
そう言って義妹たちは部屋に飛んで行ってしまった。
俺も部屋に戻ると一通一通読んでいった。どれも本当のラブレターみたいな文章で妹からのものとは思えなかった。本気で義妹たちは自分のことを好きなのか、もしそうならなんて答えを出せばいいのか、千尋は一晩考え続けた。