夕日で模られたガラスの瞳Ⅵ
「千尋。防具は?」
「いりませんよ。結月先輩こそ大丈夫ですか?」
「君に心配される程落ちぶれてはいないさ」
竹刀を手にもち、お互いににらみ合う千尋と凰華。
二人の間には只ならぬ緊張感と微かに楽しそうな空気が流れていた。
「しかし、剣を握るのも久々だよ」
凰華は楽しそうに微笑み、竹刀を片手に持ちかえる。
「・・・・・・普通は持ちなれることはないですよ」
千尋も凰華同様に片手に持ち替えた。
だが、二人とも持ち方はまったく違うものだった。
「「はっ!!」」
二人が同時に動き出した。
竹刀が触れ、軽い音がなる。
それが挨拶でもあるかのように凰華が突くように剣をくり出す。
千尋はそれを冷静にいなし、たまに竹刀を振り下ろす。
逆に凰華はそれを突き上げ千尋に隙をつくり、そこを攻める。
だが、千尋もそれを上手く避ける。
その繰り返しだった。
いつの間にか格技場には二人の竹刀が触れる音しか聞こえなくなっていた。
そこにいた全員が二人の剣に魅了されていたのだ。
二人の動きが止まった。
「うむ、流石だ。冷静に相手を見れるのはすごい事だ」
凰華は軽く竹刀を降る。
「しかし、いつまで力を温存するつもりだい?」
千尋はそれに応えるように竹刀を降る。
「それはお互い様ですよ」
凰華は目を丸くした。だが、すぐに笑い出した。
「ああ、そうかもしれない」
凰華は竹刀を持ち直す。
「だけど、全力をだすには見当たった報酬が欲しいな」
そのセリフに千尋は呆れたような笑った。
だが、そこにはマイナスな感情はなにいっさい無かった。
「いいですよ。でも、こちらの要件も飲んでもらいますよ」
「ふふ、私にそれに見合った力を見せてくれればね」
そう言って凰華はもう一度、しっかりと竹刀を持ち直した。
千尋も真剣な表情をつくり、竹刀を構える。
二人が同時に動いた。
二人の竹刀は視認の出来ない速さでぶつかり合う。
音だけが先行して周りに響いた。
竹刀の軌道が二重にも三重にも重なり二人の間には幾つもの線が飛び交っていた。
「ふっ!!」
「はっ!!」
二人が同時に踏み込み、今もてる全力の一太刀を振るう。
パァーン!!
終了の汽笛のかわりに格技場に響いた竹刀の音はとても爽やかに・・・・・・そして、それ以上に虚しく聞こえたのだった。




