夕日で模られたガラスの瞳Ⅴ
ソフト部との対決も終わり、千尋たちはグラウンドを使う他の部活も周り、ソフト部同様に勝負を挑み約束を取り付けた。
その約束は紙束という形で千尋の手の中におさまっていた。
『証明書』
そんな大それた名前とは逆に内容は至極簡単なものだった。
『ここに署名された部活動に所属するものは全員、あらゆる行事に関して、自身のもつ全力をもって行うこと』
ただそれだけだった。
そのため、どこもその要求を拒否するところはなかった。
千尋たちは凰華の考えで女子生徒としか大戦を対戦しなかった。
千尋が何故か聞くと凰華曰わく
「小町は男子相手でないと満足しないだろうからね。それで機嫌を損ねるのも嫌だからね」
と苦笑いを浮かべていた。
場所は変わり格技場。
そこでは剣道部や柔道部に所属する生徒たちが己のさらなる高見を目指して切磋琢磨していた。
「ここはいいね」
「なにがですか」
「この少し張り詰めた空気は中々好きだよ」
凰華は一応千尋の問いに応えるが、それは独り言のような呟きだった。
「そうだ、千尋。久々に手合わせなんてどうだい?」
「・・・・・・・・・」
千尋は無言のまま凰華を睨みつけた。
「どうしたんだ千尋。そんな不機嫌そうな顔をしているとせっかくの顔が台無しだぞ」
「誰のせいですか・・・・・・」
「はて、誰のせいだっていうんだい?」
「・・・あなたのせいですよ。本当に・・・はぁ」
千尋はげんなりとした表情をしていた。
それにはきちんとした理由がある。
それはソフト部との対戦が終わったあとだ。
ある噂が光速で校内を駆け回った。
『生徒会との勝負に勝てば賞品として千尋をその部の専属マネージャーにできる』
それはどの部活にも魅力的だったらしく、向かう部活全てに勝負を挑まれた。
生徒会の仕事と一致するため、千尋は勝負を受けないわけにはいかず、だからと言って負けることも許されず、全ての勝負に勝利してきた。
いくら相手が女子生徒とはいえ、所詮は初心者と熟練者。
その差を埋めることは容易なことではなく、千尋は肉体的にも精神的にも疲労しきっていた。
「大丈夫?」
後ろから心配そうに顔を覗く葵。
千尋はなんとか笑みを浮かべ、心配させまいと葵の頭を撫でる。
「葵こそ大丈夫か?」
「うん、にぃに比べて全然だよ」
「そうか。なら良かった」
二人がほのぼのとした雰囲気を醸し出している間に凰華は剣道部の主将に話しかけていた。
「生徒会会長の結月です。よろしく」
「なんや生徒会長さんがどないしたん?」
「いや、ちょっと竹刀と場所を貸してほしいんだけどいいかな?」
「かまへんよ。勝手に使ってくれや」
「だって千尋!」
凰華の声を聞いた千尋はため息をつきながらゆっくりと凰華の下に歩いて来る。
「なんで今回は剣道部に勝負を挑むわけでなく俺との対戦なんですか」
「いいじゃないか。小さい事ばかり気にしてるとハゲるよ、千尋」
「意味がわかりません」
「それともあれかな?昔に比べて弱くなってしまいそんな姿を見られたくないという羞恥心かな?いやはや、それなら仕方ない。それは男としての恥だからね。そのんな人に無理強いはできない。勝負は今度にしよう」
凰華はわざとらしい仕草を見せながら何か含みのある笑みを浮かべた。
「何を・・・言って・・・るんですか?・・・生徒会長?」
ぎこちない笑みをつくりながら、握り拳をつくる千尋。
たたみかけるように凰華はしゃべる。
「だからさ、女の子相手に負けるのを怖がっている男子に意地悪を言うのは可哀想だって事だよ。わかるかな…ち・ひ・ろ?」
「…あは」
千尋は爽やかな笑顔を浮かべるが、その額には血管が浮かび上がり、背後に仁王が立っていた。
「ああ、そう……そうですか。あれっすね。喧嘩を売ってきてるわけですね。わかりました。買いますよ。ぜひ、その喧嘩、買わしていただこうではないですか!!」
早口でまくしたてる千尋をみて、凰華はいやらしいくらい意地の悪い笑みを浮かべていった。
「では、はじめようか。我がナイトよ」




