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絶対妹大戦  作者: 長門葵
8章~夕日で模られたガラスの瞳 ~
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夕日で模られたガラスの瞳Ⅱ


「なんでこうなった・・・・・・」

千尋の目の前に高校生活には似合わない摩訶不思議かつ非日常な光景が広がって・・・・・・・・・













・・・・・・・・・いるわけがない。








当たり前だ。


そこはただの校庭で、そこにいるのはただのソフトボール部員で、日常的な練習風景だ。


おかしい点があるとすれば、マウンドにいるの球余が涙を流して悔しがっていることぐらいだ。


「さぁ、次は誰かな?」


声のする方へ目を向けると、バッターボックスで凰華が某野球漫画のサードばりのホームラン予告のポーズをとっていた。


「はぁ~~」


千尋は肺に針で穴を開けたんじゃないかっていきおいで、盛大なため息をついた。


なぜこんな事態に陥ってしまったのか。


それは少し前に戻る。




場所は変わって生徒会室。


生徒会メンバーとその他2人は凰華の手の中に握られている棒の束を凝視していた。


「これで今週の行動班を決めようと思う。何か異論は?」


「はい」


葵が律儀にも手を挙げ、発言の許可を求めた。


「なんだい、葵ちゃん」


「そんなテキトーでいいんですか?」


その発言に凰華はくすりと笑った。


「いいんだよ。こんな事で真剣になるほうが馬鹿げてる。それにこっちのほうがスリリングで楽しいだろ?」


葵に微笑みかけ、その後に周りを見渡す。


「他に異論は・・・無さそうだね。では、端から引いていって」


百合から順々に棒を凰華の手から抜きとった。


それぞれが自分の引いた棒の色を確認する。


「ふむ、こうなったか・・・」


凰華は嬉しそうに笑った。


先端が青いものを持っているのは千尋と葵、そして凰華で、赤い方を持っているのはその他の生徒会メンバーだった。


「では、今日は青が運動系の部活を、赤は文化系の方をまわってほしい」


「ちぇ、私も運動系のほうをまわりたいぞ」


小町がそんな小言を呟きながら、手に持っていた棒をペン回しと同じ容量でとんでもない速度で回していた。


「明日は逆になる。それなら文句はないだろ」


凰華は微笑みながら、小町をあやすように言った。


「ではさっそく行こうか、間宮兄妹」


そう言って凰華は生徒会室から出て行った。


その後を追うように千尋と葵も生徒会室を後にした。


突然、千尋たちが出て来たためか、渚が急いで柱に隠れようとしているのが見えた。


敏樹は隠れようともせず、凰華に頭を下げて挨拶さえしていた。


それをみて、凰華は小さく笑った。


「まったく君の友人は面白いね」


「・・・・・・・・・ソウデスネ」


感情も何も含まれない最高級な棒読みだった。


それをみて、また小さく笑う凰華。


「まぁいいさ。それよりどこから回ろうか」


リストを取り出し、千尋たちに見えやすいように広げた。


運動系はすでに丸がつけられていた。


「この中でどれから回るのがいいかな・・・。千尋、君はどう思う?」


「俺は特に・・・・・・葵は」


「う~ん。やっぱり、ソフト部を一番最初に回るのが一番効率がいいんじゃないかな?麻貴姉もいることだし」


「ふむ・・・ソフト部か」


凰華は考えるこむポーズをとる。


そしてリストをながめ、何かを書き込んだ。


何か数字を書き込んでいるようだ。


「では、そのソフト部やらに一番に行こうか」


リストから顔をあげるとすぐに歩きはじめた。


千尋たちもその後に続く。

校庭にでると視線が一斉に凰華のもとに集まる。


交換留学生や新生徒会長としての興味はもちろんだが、男子の大半は凰華の容姿に目をとられていた。


「これは生徒会長さん。間宮を連れて何をしてるんだい?」


ソフト部の練習場近くになると球余が千尋たちに気づき駆け寄ってくる。


千尋は球余に一礼をし、凰華に説明するように言った。


「こちらはソフト部部長の縁下球余先輩です」


「よろしく頼むよ。生徒会長さん」


「こちらこそ」


球余が手をだし、それに答えるように凰華がその手を握る。


「今日は部活動の実態調査に来たんだが・・・問題は無さそうだね」


「当たり前だろ?私たちは上を目指してるんだ。ふざけた事に金は使えない」


球余はそんなことを言いながら嬉しそうに笑った。


「では、実態調査に来たついでなんだが・・・」


「ん?なんだ?」


凰華はいたずらじみた笑顔をうかべた。









「ホームラン対決なんてどうかな?」






そして今に戻る。


結果は凰華の圧勝だった。


球余が投げたボールの球速、コースともに別に悪いわけではなかった。


逆に球余の中でここ最近では最高にあたいするボールだった。


しかし、そのボールは凰華のきれいな軌道を描くバットに導かれ、天高く飛び立った。


そのボールはきれいな放物線を描いてフェンスの外に落ちた。


球余はひざから崩れ落ち、涙を流していた。


「なぁ、葵さんや」


「なにかな?にぃにや」


「何故こうなった?」


「さぁ?」


葵はどうでもよさそうに答えた。


「あ、あおちゃんにちぃ兄だ」


不意に後ろから声をかけられた。


振り向くと麻貴が手を振りながらこちらにかけよってきていた。


「なになに、どうしたの・・・・・・って、あれ!?なんで部長が泣いてるの!?」


千尋は答える代わりに苦笑いをうかべた。


「まぁ、色々ありましてね・・・それより、お前こそなんでこんなに遅いんだ?」


「ちょ、ちょっと先生のお手伝いに呼ばれちゃって。にゃはは」


何故か顔を背ける麻貴。


その額にはほんのりと汗が浮かんでいた。


「麻貴姉・・・・・・また、宿題してなかったの?」


「テヘッ☆≡」


千尋の無言の視線が重圧として麻貴を襲う。


「そ、そそ、それより、ななな、なんで、ぶぶ、部長が泣いてるの!?」


話をずらそうと必死になりすぎて、麻貴の声は上ずり壊れたレコードのようだった。


「お前なぁ…」


「おお、間宮っ!!」


千尋が麻貴の説教をはじめようとしたが、その声は球余の声で打ち消された。


球余は立ちあがり、ものすごい勢いで千尋たちの方へ走ってくる。


そして、千尋たちの前で止まり、麻貴の肩をつかみ凰華の方へふりかえった。


「ふふ…またせたな。こいつが…………こいつが我がソフト部の最終兵器だ!!」


「へ?へ?」


「こいつともうひと勝負してもらおうか」


球余につかまっている麻貴は頭の上に大きな疑問符を浮かべ、周りに助けを求めるようにきょろきょろと見まわしていた。


「ふむ。そちらが最終兵器を出すというならこちらも奥の手を出さねばな」


凰華は漫画に出てくる参謀が如く、良いことは絶対考えてなさそうな薄い笑みを浮かべた。


そして、ゆっくりと千尋たちの前まで来る。


そのまま千尋の後ろに回り込み、千尋の背中を軽く押す。


「その勝負…生徒会唯一の男子、間宮千尋が受けて立とう」


「はぁ!?」


千尋の声が校庭に空しく響いた。

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