ダウトな出会いがジョーカーとの再会Ⅷ
帰りのSHRも終わり、生徒たちは下校しはじめる。
渚もその一人だ。
いらつきを抑えるために舐めていた大量の棒つきキャンディの棒で作った小さな城をゴミ箱に放り投げ、帰宅の準備をしていた。
「おい、千尋。一緒に帰ろうぜ!鬼ヶ島ちゃんもどう?」
敏樹に誘われるのは癪だが、その提案は渚にとってありがたいものだった。
今朝のこともあり、千尋の相談相手ぐらいはしてやりたいと思っているのだが、自分から誘うというのはどうも気恥ずかしい。
そのため、せっかくのチャンスを潰すわけもなく、二つ返事で了承しようとしたときだった。
「ごめん。今日はちょっと用事があって」
千尋の口から出された拒絶の意志。
実際はそこまで大きい意味合いは無かっただろうが、少なくとも渚にはそう聞こえた。
千尋の後ろには隠れるように百合がこちらをみていた。
「また、生徒会か」
渚は睨むように千尋を見つめ、鋭い言葉を千尋に投げかける。
「まぁな」
千尋は悠然とそう答えた。
渚にはそれが気にくわなかった。
どうみたって、誰が見たって、千尋の今朝の様子は以上で、千尋と凰華との間には何かがある。
それなのに平然とその指示に従い、拒絶の意志も見せない。
平気じゃないくせに、周りには気を使う千尋に渚はむかつきを感じた。
「なんでそんなに平気そうにしてんだ!!」
気付いたら渚は声を荒げ、千尋の襟元を締め上げていた。
周りの視線が渚に集まる。
自分でも異常なことをしているのは分かっている。だが、止めることは出来なかった。
「嫌じゃないのか!?なんでそんな平気そうな顔してるんだよ!!」
「平気じゃない」
千尋が渚の手を握りしめ、怒鳴るように声を張った。
「だけど、今の俺にはお前たちがいる。だから、大丈夫だ」
千尋は優しい微笑みを渚に向けた。
渚は手を離し、ゆっくりと腕を下ろした。
「ありがとう、渚。でも、もう小さかった頃の俺とは違う。だから信じてくれ」
「なにを」
すねたように聞く渚。
それをみて苦笑いを浮かべる千尋だが、すぐにその顔はしっかりと目標を持った者のものに変わっていた。
「大変なときはお前を頼る。だからそれまでは俺を信じて見ててくれ」
渚はため息をついた。
「なにを根拠にそんな堂々と」
「俺らは秘密を共有した仲間だろ?」
千尋の台詞に渚は小さな笑みを浮かべた。
「そうだったな。僕らは共犯者だったな」
そう言って握り拳を前へ突き出した。
「共犯者はないだろ」
千尋は苦笑いを浮かべながらも、自分の拳を重ねた。
そして、二人は違う帰路に別れ、歩き出した。




