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絶対妹大戦  作者: 長門葵
7章~ダウトな出会いがジョーカーとの再会~
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ダウトな出会いがジョーカーとの再会Ⅶ

千尋が教室に戻るとクラスメートが一斉に集まってくる。(主に男子が)


「お疲れ様、鷺宮さん!・・・と間宮」


「お帰り、鷺宮さん!!・・・と男子」


「大変だったでしょう?鷺宮さん。・・・と+α」


「次は数学だよ、鷺宮さん!!・・・とクズ」


「おい!!最後のただの悪口じゃねぇか」


いろんな方向から聞こえる百合への黄色い声。


千尋は百合を置いて、その人だかりをなんとか手でかき分けながら自分の席までたどり着いた。


「おい、大丈夫だったか!?」

敏樹がそこに心配そうな顔で駆け寄ってくる。


「ん・・・一応は平気だよ。他の役員の人たちもいたわけだし」


「そうか・・・。でも、多少顔色が悪きがするぞ」


「大丈夫だよ。心配しすぎだ」


「でも、大丈夫そうじゃないぞ。なんせお前の注目度は今やうなぎのぼり状態だからな」


二人が声のした方を見ると渚が棒つきキャンディを不機嫌そうにくわえ、こちらをみていた。


「なんだよ、注目度って」


「これだよ。ほれ」


そう言いながら渚は一枚の紙を丸めて千尋に投げた。


それを受け取り、広げるとそれは新聞部が作っている学生新聞で、それには大きく『この男に何があるのか!?』とかかれ、でかでかと千尋の写真が紙面を飾っていた。


「なにこれ?」


「新聞部の号外だって……。なんかお兄ちゃんのいわれもない噂がいっぱい書かれてる」


渚の後ろからちょこんと頭をのぞかせる絢が弱々しい声で言った。


「まぁ、千尋の人柄のおかげか、運動部は全員味方をしてくれる分、こんな記事を信じる人は少ないだろうが……念には念をおしとけよ」


そう言って敏樹は千尋の肩をたたき、自分の席に戻る。


「ほら、授業をはじめるぞ」


敏樹が席に着くのと同時に数学教師が教室に入ってきた。


「僕が言うのもなんだが、気にしすぎるなよ。少なくとも僕らはお前の味方だ」


棒つきキャンディを千尋に手渡し、渚も自分の席に戻った。


「うう、お兄ちゃん…」


絢はまだ不安そうに千尋の服の袖をつかんでいた。


「大丈夫だよ。ほら、授業始まるから席に戻って」


絢の頭を優しく撫でながら、温かい頬笑みを浮かべた。


その笑みをみて、絢もなんとか気持ちを落ち着けたのか自分の席に戻る。


そして、すぐ数学の授業が始まった。


千尋も色々と考えることはあったが、とにかくノートをとることに集中しようと気持ちを切り替えた。


しばらくして、不意に隣に目をやると、百合がきょろきょろと周りを見てはうつむくという一連の行動を繰り返していた。


変だと思い、千尋は教師に気づかれないよう小さく百合の机を叩いた。


「どうしたの鷺宮さん?さっきから周りを見てるけど」


「あ、えの、えっと…わ、わたし…まだ、教科書を持ってなくて」


「あ、そっか。ちょっと待ってね」


そう言うと千尋は前を向いて


「先生ぇ!!」


いきなり手をあげ、大声で教師を呼んだ。


教師は機嫌悪そうな表情で顔を黒板から千尋の方に向けた。


「なんだ間宮兄」


「鷺宮さんが教科書がないそうです」


その言葉を聞いた男子たちの目が光る。


教室は一瞬、決闘場のような空気になる。


そして、一人目が動いた。


「先生!!僕の教科書をかしてやってください」


一人の男子生徒が立ちあがり、高らかに教科書を持ち上げる。


それが火種になったのか他の男子も次々と立ち上がり「自分のを」「いや、俺のを」と教科書を頭上にあげる。


流石に我慢が出来なくなったのか、数学教師は教卓を力強く叩く。


それには驚いたのか男子は愕然としていた。


「まったく、いちいちうるさいぞ。間宮兄、当分の間はお前が教科書を見せてやれ。他のバカはさっさと座れ。…いや、待て。座るな。バカたちはそのまま立って授業を受けろ」


教室に女子たちの笑いが湧いた。


男子たちは一斉に千尋を睨む。


「く、なんでこんな目に」


「せめて、せめて…俺の教科書を」


「いつも、いつもなんであいつだけ……。くそぉぉぉ」


男子はそれぞれの思いを口にしつつも勉強に戻っていく。


最後にしゃべった男子に関しては授業中、ずっと涙を流して千尋を睨んでいた。


どれだけ教科書をかすことに未練があったのだろうか。


ある程度、騒ぎが静まってから千尋は机を移動させ、二人が見やすいように教科書を開いた。


「これからとうぶんこの状態で申し訳ないんだけど…よろしく」


千尋がにこりと笑うと百合もそれにこたえるように小さく頷いた。



バキッ!!



通常の授業では聞こえない音が聞こえた。


千尋はゆっくりと首だけを動かし、後ろを見る。


千尋の目に映ったのは、笑顔で手を握りしめる絢と絢の机に広がる二つに分かれた鉛筆だった。


絢は笑っていた。なのに、千尋にはその笑顔に恐怖以外に感じられることができなかった。


千尋はすぐに顔を背けた。


「どうしたんですか?」


百合はそれを不思議に思ったのか後ろを振り返ろうとした。


千尋はあわてて百合の注目を違うものにそらそうとした。


「い、いや、ちょっとここがわかんなくて」


「え?ああ、そうだんたんですか。どこですか?」


「え、えぇっとここなんだけど」


「ああ、ここはすこし通常とは違う解き方をするんですよ」


そう言って百合は自分でその問題を解きながら千尋に要点を分かりやすく説明してくれた。


千尋もそこまで成績が悪いわけではないが、百合の説明は教師以上に分かりやすく学力の差を感じずにはいられなかった。


「へぇ~。こんなに分かりやすく教えてもらったのははじめてかも。さすが、進学校の生徒ってことかな」


「そ、そんなことないですよ」


照れたように笑う百合。


千尋もそれを見て微笑んだが、不意に背中にものすごい殺気を感じた。


バキッ!!


聞こえてはいけない音がまた背後から聞こえた。





その後の午後の授業もその殺気が消えることはなかった。



一時間に一回以上は聞こえる鉛筆の断末魔が千尋には自分の死刑宣告までのカウントダウンにしか聞こえなかった。


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