ダウトな出会いがジョーカーとの再会Ⅵ
午前の授業がすべて終了した事を知らせるチャイムが全校に鳴り響く。
昼休みに入ると同時に、千尋は逃げ出すように教室を出た。
そのまま廊下を小走りで通り抜けトイレに逃げ込んだ。
その間にも多数の生徒に声をかけられた。
その中には見知らぬ生徒も多くいた。
トイレの個室に駆け込み鍵を閉めると、千尋は大きく息を吐いた。
「なんの嫌がらせだよ」
洋風の便器に座り込み、頭を抱えため息をつく。
誰かに話すように個室のドアに語りかける千尋
「教室にも戻れねぇし、廊下に出れば質問責めだ・・・俺の居場所は無いのか」
当然のことながら返事はなかった。
ぼやくことしかできない自分にただむなしくため息を漏らす千尋。
「やべえ、泣いちゃいそうだよ」
自虐的なセリフを口から零し、自傷するように笑った。
そんなとき、放送を知らせるインターホンが流れた。
『……二年A組、間宮千尋くん。至急、生徒会室に来なさい』
スピーカーから聞こえてくる凰華の声。
「な、なな・・・・・・」
肩を震わせ千尋は大きく息を吸った。
「なんなんだぁぁあぁあぁぁぁああぁぁあぁあぁぁ!!」
トイレの個室から涙声の雄叫びが廊下の踊場まで響いた。
その雄叫びはのちに学校の七不思議にあげられたらしい。
千尋は廊下をものすごい勢いで走りぬけ、高校生記録を塗りかえるのではないかというぐらいのスピードで生徒会室に向かう。
なるべく生徒に認知されないために、とにかく必死に走った。
メロスもびっくりな形相だった。
生徒会室に着くとブレーキをかけるのに失敗してその勢いのままずっこけた。
「はぁはぁ…やっとついた………」
肩で息をしながら、なんとか生徒会室のドアノブに手をかけた時だ。
「ぶっしゅっ!!」
いきなり生徒会室のドアが内側から開けられた。
先程まで必死に走りよろよろの状態だった千尋は、ドアによる顔面プッシュでいとも簡単に後ろに倒れた。
「おお、すまん!大丈夫か?」
内側から顔をだしたのは肌を小麦色に焼いたいかにもスポーツ系の女の子だった。
その女子生徒が千尋に手を差し伸べた。
千尋は赤くなった鼻の頭ををさすりながら、その手をとった
「すいません。えぇっと、たしか…槍欛小町先輩ですよね」
「おお、あの一回の自己紹介で覚えてくれたのか。さすが、会長が推薦しただけの男だな」
小町は千尋の手を引きながら楽しそうに笑う。
その笑みをみて、千尋はなんとなく小町の雰囲気が球余に似ていると思った。
小町に先導され生徒会室に入ると、すでにほかの生徒会メンバーもそろっていた。
「ふむ、少々遅いんじゃないのかな?間宮千尋補佐」
凰華が微笑みを浮かべ、からかうように言った。
千尋はすこしむっとして、不機嫌なそうに答えた。
「いきなりの呼び出しで、この短時間でここに来たんです。褒められはしても、文句をつけられる覚えはありません。結月新会長様」
「ふむ…百合。集会のことを伝えてなかったのか?」
「は、はい!!す、すいません。間宮さん、お昼休み始まったらすぐにいなくなってしまって……」
「そうか。なら、こちらに非があるわけだね。はは、これは失礼した」
千尋は皮肉を悪気も無く吐いたつもりだったが、凰華はそんなセリフも笑いながら受け流した。
「では、急な呼び出しすまなかった。私は千尋が知っていると思ってあんな嫌みをいってしまった。本当にすまない」
凰華は深々と頭を下げた。
千尋は困惑するような態度も見せず、ただため息をついた。
「顔をあげてください。俺に非がないわけでもないですから」
そう千尋が言うと、凰華は顔をあげた。
その顔は嬉しそうに微笑み、次に凰華は千尋に飛びついた。
「やはり、昔と変わらず千尋は優しいな」
いきなりの凰華の行動にリアクションをとることもなく、千尋は無表情のまま、首に巻き付かれた凰華の腕を外した。
「いい加減にしてください、会長。何も要件がないなら帰りますよ」
千尋は冷たい視線を凰華に向ける。
凰華はそれでも嬉しそうに微笑み話続けた。
「そうだね。きちんと仕事をしなければ何をしに来たか分からないからね。まずは今いる役員の自己紹介から行こう」
そう言って凰華は百合ともう一人の女子が座るテーブルまで歩いていった。
「百合の説明は良いかな。で、こちらがもう一人の書記、樫野早苗くんだ」
「樫野。・・・・・・一年。好きなものは・・・本」
早苗は軽く頭を下げ、すぐに手元の本に目線を移す。
百合とは違う理由であまり寡黙な子だと千尋は感じた。
次に凰華は反対側のテーブルに周りこみ、二人の女生徒をさして
「この二人が信頼できる会計だ」
そう言われると小町は立ち上がりブイサインをつくる。
「さっきも言ったが槍欛小町だ。向こうでは女子サッカーをしてた。よろしく」
元気よく自己紹介をしてくれた小町だが、隣からそんな小町を批判する声が聞こえてきた。
「小町、さっきあなたは名前をいってないわよ。それに初見の相手にその態度は失礼だわ」
それを聞いてむむっと唸りながら不服そうに頬を膨らませ席に座る小町。
そんな小町の態度も気にせず、眼鏡をかけたその女生徒は立ち上がり、千尋に向かって一礼した。
「はじめまして、会計をやらしていただいている瀬名紗希です。よろしくね」
そのまま差し出された手。
千尋もそれに答えるようにその手を握った。
そこで軽い握手をしたのを見てから凰華が話し始めた。
「さてと、では本題にはいろう。千尋?早速だけどあなたに聞きたいことがあるの」
「はい、なんでしょう」
千尋は淡々と冷たい言葉をつなげた。
しかし、凰華は大して気になる様子もなく話を進める。
「この学校内の部活数はいくらぐらいある?」
「はぁ?たしか小さい同好会も合わせ四十を越えたと思います」
「ふむ、そんなにあるの・・・」
腕を組み、何かを考え込むようにぼそぼそと呟く凰華。
しかし、結論はすぐに出たらしく、次の瞬間には顔をあげていた。
「よし、生徒会最初の仕事だ」
凰華の引き締まった声色で生徒会室の空気が一変する。
「今日から部活動すべてを対象に特別調査を実施します」
「え?何故…そんないきなり」
驚いてついつい質問をしてしまった千尋だが、よくよく周りを見渡すと凰華の言葉に驚いているのは自分だけだった。
凰華はいじわるそうな笑顔を浮かべ、ジェスチャーを交えて話した。
「簡単な話。これから生徒会として仕事をするんだから、その生徒の実体を知らないと。ね?あと簡単な顔合わせってのもあるわ」
自慢気に胸を張り説明する凰華。
流石にそれには反応する千尋。
少し顔を赤らめ、視線をそらした。
しかし、気づかないのか、それともわざとか凰華はそのまま話を続けた。
「じゃあ、今日の放課後。またここに集合。千尋、遅刻は厳禁だぞ。では、解散」
その声と同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。




