ダウトな出会いがジョーカーとの再会Ⅲ
「ふふ、フルネームで覚えていてくれたなんてうれしいよ、千尋」
凰華は優しい笑みを浮かべ、手を軽くあげた。
凰華はゆっくりと千尋たちの方へ歩み始めた。
そして、歩きながら話しはじめた。
「でも、久しぶりだからってそんな畏まらずおう・・・」
「すいません!!」
敏樹が固まった千尋と凰華の間に入り込んだ。
「もう遅刻しそうなんで話はあとにしてください。じゃあ」
大声でそう叫ぶと千尋の手をとって走り出す。
「おい、待て!!」
渚もその後に続く。
「す、すいません。失礼します」
絢はしっかりと挨拶をすましてから凰華から離れていった。
「ん?もしかして嫌われてるかな?」
凰華はそんなことを呟きながらも顔には楽しそうな笑みを浮かべていた。
「おい、前園!!そんな急いでどうした!?」
渚が理由を聞くが敏樹は舌打ちをするだけだった。
その表情にはいつもの余裕は無く、焦りと怒りが混濁していた。
「なんで今更・・・・・・あの人が」
独り言のように呟く敏樹。
手を繋がれたまま走る千尋はただ怯える子供のように下を見て無言だった。
学校に着くと少し落ち着いたようで、敏樹がいつものふざけた感を表情に出していた。
「あちぃな。もうすぐ夏だな」
「夏とか関係なくあんなに走れば大抵の人は暑いと僕は思うぞ」
「はぁはぁ・・・みなさん・・・朝から・・・元気で・・・すね」
「絢ちゃんは死にそうだね」
絢の様子をみた敏樹と渚は微笑んだ。
「で、話は戻るが・・・なんでいきなり走り出したんだ」
渚は千尋に聞こえないように敏樹に耳打ちをする。
「ああっと・・・それは俺の口からは言い辛いかなぁ」
「これはあくまで僕の予想だが・・・・・・今朝のクイズの最終問題の内容が関わってくるんじゃないか?」
敏樹は渚の質問に対して苦笑いで返した。
渚は大きく息を吐き出し、体の向きを変えた。
「まぁ、そこは僕がでてもしかないだろう。僕は間宮さんを教室につれてくから・・・千尋をたのんだぞ」
そう言って絢の背中をさすりながら渚は教室に向かった。
「まじで男らしいは鬼ヶ島ちゃん」
敏樹は髪の毛をかきむしりながら千尋に向き合う。
「大丈夫か?」
千尋はゆっくりと頷いた。
「にしても・・・驚いたな」
「ああ」
「とりあえず、汗かいちまったし・・・ジュースでも飲むか。奢ってやらない事もないぞ」
「・・・・・・一番高い奴な」
「ちゃっかりしすぎだろ。まぁ、そんな冗談言えるんだからもう大丈夫だな!!」
「誰が冗談だと言った」
「・・・まじか」
「大真面目」
「コノヤロー!!調子のんなよ」
敏樹はそう叫びながら千尋に飛びついた。
いつの間にか二人はふざけながら笑っていた。
二人はその後も笑いあいながら教室に戻っていった。
先に教室に戻っていた渚もそんな二人の様子を見て胸をおろした。
絢だけはそれを素直には喜べていなかった。
絢の知らない千尋がそこにはいて、千尋が悩んでいるのに絢はまた何もできずにいる。
そんな無力な自分と自分に助けを求めてくれない千尋に、苛立ちが募るばかりだった。
「なぁ、千尋?それより、今日の宿題したか?」
「何をいまさら…終わってるに決まってるだろ?前園…まさかと思うが」
「やるわけないだろ」
なぜか自信満々に胸を張る敏樹。
「まったく……」
「あ、あの……ま、間宮?」
なぜか渚がいつもよりおどおどした感じで、千尋の服の端を掴んでいた。
「……鬼ヶ島さん?まさかとは思うが」
「「見せて下さい!!」」
敏樹と渚は同時にほぼ水平に頭を下げる。
千尋はため息をつきながら、かばんからノートを取り出す。
「仕方ない。今回だけだからな」
「あざっす。まじでこれからもアニキについて行きます!!やぁっほーい」
ノートを素早く千尋の手から奪い取り、敏樹は自分の席に戻ってものすごいスピードでペンを動かす。
渚はもう一度、深くお辞儀をした。
「本当にすまない」
「いいよ。そんなに謝られるほどのもんでもないし」
「あ、そうだ」
渚は何かを思い出したかのように手をたたいた。
「今日の一時間目が急に全校集会になったらしい」
「え?いきなりだな。なんでそんなことに?」
「僕も聞いた話だから本当かどうかは分からないが、なんでも生徒会がなにかするとか…」
「へぇ。本当にいきなりなんだな」
「ほい、写し終わった。ありがとよ、千尋」
「毎度ながら早いな。もはや驚きを通り越してあきれるよ」
「そうほめるなよ」
「褒めてねぇよ。あ、そのまま渚にかしてやってくれ」
「ほい」
「おお、すまんな千尋。朝のHRには返すよ」
「別に焦んなくてもいいよ。授業前に返してくれればそれでいい」
「そうか。本当にありがとうな」
そう言って渚は自分の席に向かう。
その後、千尋は敏樹に先ほど渚に聞いた話を話した。
それを聞くと敏樹は何かを思い悩むかのようにぼそぼそと何かをつぶやいていた。
「ん?どうかしたか」
「いや、なんでもない!」
千尋が尋ねると敏樹は手を振りわざとらしく笑った。
しかし、すぐにまた真剣な表情に戻って、何かを考えていた。
「……まさか、あの話。…あの人が?……まさかな」
敏樹は口から洩れたその声に千尋は気づくことができなかった。
そして、その集会が何のために開かれるか想像もできていなかったのだ。




