ダウトな出会いがジョーカーとの再会Ⅱ
「ぎゃははは。それでそんな紅葉をつけての登校か!?」
腹を抱え笑う前園敏樹。
千尋はため息をつきながら歩き始める。
「笑いごとじゃあすまないんだよ」
「で?なんだ?それで絢ちゃんずっとあの状態なのか?」
「ああ…」
絢は二人のやや後方を頬を膨らませながら、一定の距離を保ちつつ進む。
千尋が一度立ち止まると絢も一緒に立ち止り、遠目に睨みつけてくる。
それを見て千尋はもう一度大きなため息をつく。
「もてる男は大変だな、おい」
ニヤニヤしながら敏樹は千尋の肩をたたく。
千尋は今朝のことを敏樹に途中途中を省きながら話した。
それを聞いた敏樹はずっと笑いっぱなしだった。
「でもさぁ、千尋さんよぉ~。早くしないともうひとつ爆弾がやってくるぜ?」
「はぁ?何を言って…」
「よう、千尋。おはよう」
振り返ると鬼ヶ島渚がこちらに向かって歩いてきていた。
「ほら来た」
敏樹はわざとらしくため息をついた。
「なんだそのため息は。僕に喧嘩でも売ってるのか?」
「ちげぇよ。お前さんも大変だなと思ってな。ぷ、くくく」
肩を震わせまた笑いだす敏樹。
それがむかついたのか渚は敏樹の鳩尾を狙って回し蹴りを放つ。
「ポイズッ…ン!!」
クリーンヒットした敏樹は違う意味で震えていた。
「さて、屑が黙ったところだ。早速だが状況の説明がほしいところだな」
「状況の説明と言いますと?」
「何故、間宮さんがあんなに敵対心丸出しでこちらを睨んでいるかだ」
「ああ、それはええっと……」
「それは私が説明してあげようじゃないか。じつはかくかくしかじかで…」
敏樹が今朝聞いた話を出来る限り忠実に再現して渚にし話した。
渚は考え込んで、千尋に向き合った。
そして、きっぱりと一言。
「最低」
「なぁっ!!」
それを言うと渚は歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待てよ。おい、渚。渚ってば」
「…………」
千尋は走って渚のあとを追った。さらにそのあとを敏樹が口笛を吹きながらスキップで追った。
自分の潔白を必死に主張する千尋。
それを無視しそのまま歩き続ける渚。
それをニヤニヤしながら見ている敏樹。
なんやかんやでいつもどおりの風景だった。
絢はそれを見ながら自分そこにいなくてもそれが成り立つことに嫉妬に近い何かを感じた。
自分の中に今までにはなかった感情だ。
朝、麻貴と千尋が一緒にいた時もこの感情が湧きあがっていた。
その反面、あきらめの気持ちが半分あった。
女の子として千尋に見てもらえるように頑張ると言っていたのにもかかわらず、千尋がいつも通りにしてくれていることに甘えている自分がいる。
そんな自分に怒りを感じ、最近では諦めも芽生え始めていた。
千尋と自分の関係がこれ以上発展することは無いんだと思い始めてしまった。
そんなことを考えているといつの間にか千尋達に追い付いていた。
渚をなんとか納得せることができたらしい千尋は立ち止って何かを考えているようだった。
渚と敏樹もそれと一緒に止まっていたらしい。
絢は考え込む千尋の顔を覗き込む。
さっきまですねていたのも忘れてしまったらしい。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「いや、大したことじゃないんだが。なぁ、前園。この間のクイズの最後なんだけど…」
「…………」
一瞬だけ、真剣な顔つきになる敏樹だがすぐに笑い始めた。
「なんだ千尋?絢ちゃんのサイズを何故俺が知ってたか聞きてえのか?残念ながらそれは企業秘密だからな!話せねぇよ。それに終わったことだ。もう気にしないで行こうぜ!!」
敏樹はそう言って歩き出そうとした。
しかし、千尋がそれよりも早く敏樹の肩をつかむ。
「最後の問題は何だったんだ」
「絢ちゃ…」
「実際は違うだろ」
「……………」
真剣な顔でにらみ合い、二人は無言で動かなかった。
「お、おい。どうしたんだ千尋。前園もいつもらしくないぞ」
「ふ、ふははは」
「は、あははは」
突然、大声で笑い始める敏樹。
それにつられて千尋も笑い始める。
「まったく、お前の眼はなかなかごまかせないな」
「お前の気遣いには感謝はしてるよ」
二人があまりに大声で笑うものだから、渚と絢は余計に混乱してしまった。
「な、なんだ、お前らは。にらみ合ったと思ったら次は大声で笑い始めるし……」
「お、おにいちゃん?前園さん?」
疑問符を浮かべる絢の頭に手を置き、千尋は笑いながら話を続ける。
「で、結局、何なんだ?」
「ふっ、さすがにこれはどうかと思うぞ」
「いいよ。気にするな」
「うし。じゃあ言うぞ」
敏樹はゆっくりと深呼吸をして、自分を落ちつかせた。
そして、呟くように言った。
「間宮…千尋の初恋相手はだれか」
それを聞いて渚と絢はまた大きな疑問符を浮かべた。
「なんだそれ。すごい興味はあるが、別にそれを隠す必要なんてあるのか」
「そうですよ。そんな思春期じゃあるまいし…」
渚と絢は千尋の方を見ると、かすかに千尋がふるえていた。
しかし、すぐに千尋は笑顔で言った。
「お前、そんなもののために体張ったのか?バカだなぁ」
わざとらしいその笑顔にそこにいた全員が言葉をなくした。
「それに、あの人はもう……」
「もう……なんだい?」
突然、後ろから澄みきった透明な声が千尋の声を話を遮った。
千尋は眼を見開き、動きを止めた。
敏樹は唇を噛んで下をうつむいていた。
やがて千尋はゆっくりと振り向いた。
そこには落ちついた雰囲気の長髪の女性が立っていた。
「やぁ、千尋。久しぶりだね」
千尋の口から震える声が漏れた。
「………………結月・L・凰華」
その人を睨む千尋。
震える手は強く握りしめられ、そこからは血が流れていた。




