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絶対妹大戦  作者: 長門葵
14章~水も恋も流れは廻るのだ~
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水も恋も流れは廻るのだ!ⅩⅩⅢ

 千尋(ちひろ)たちは大衆食堂かもめをあとにして、再度、プールにやって来ていた。


「うわー。思ってたよりすげぇな」


 千尋は目の前の光景に感嘆の声をあげる。


 様々な色に光るバスケットボールほどの大きさの球体が人の作り出す波に揺られ、淡い雰囲気を作り出し、時計台が青やオレンジ色などに光ながら大人びた空間を産み出していた。


「なんか、パレードみてるみたい」


 茉奈(まな)がこぼした率直な感想に皆、首を縦に振る。


 昼間のプールとは違う、落ち着いた顔を見せた遊び場で、五人はその場を眺めているだけ、恋慕とはまた違ったときめきを、心のなかに感じていた。


「せっかくだし、少し泳ぐか」


 千尋はそういって、プールのなかに入っていく。茉奈と香菜も小さく頷き、その後に続く。


「ほら、(なぎさ)もせっかくだし泳ご」


 千尋はプールの中からプールサイドに座る渚に手を伸ばす。渚はほころばせながらその手を取ろうとするが、周りの視線を気にして顔を赤らめながら手を引いた。


「じれったいねぇ」


 敏樹(としき)がそういって渚の背中を押す。少し前屈みになっていたせいで渚は簡単にプールのなかに落ちていく。


「うぇっぷ!前園、てめぇ、なに…すんだ?」


 いきなりの横暴に掴みかかろうとする渚だが、台詞の途中でとっさに自分が掴んだものに気づく。


「大丈夫か?」


「っ!」


 千尋の手を握り、胸元に収まる自分の状況に顔を真っ赤にしながら、ものすごい勢いで首を縦にふる渚。


 少し背伸びをすれば顔がぶつかりそうな距離。


 渚は地団駄を踏む自分の心臓の音だけしか聞こえなくなり、惚れた男の顔だけを見つめた。


 そんな態度になんだか千尋も気恥ずかしさを感じて、顔を反らそうとした。すると後ろから何者かに首を急に絞められた。


「にぃちゃん、あっちいってみようぜ!」


 香菜が後ろから抱きついてきていた。


 千尋と渚を引き離すように後ろに引っ張る香菜。そして、千尋が倒れるギリギリのところで耳元に顔を近づけ、千尋だけに聞こえる声で囁く。


「渚の姉ちゃんだけじゃなくて、あたしにも構ってくれないとイタズラしちゃうぞ」


「っ!!」


 香菜からばっと離れる千尋。香菜はにししと小さく声を出しながら笑った。普段の香菜から想像もできない台詞。周りの雰囲気もあり、すごく大人っぽさを感じた。


「香菜、そんなにお兄さまを困らせてはいけません」


 そんな茉奈のいつも通りの台詞に安心感を感じていた千尋だが、そうは問屋は卸してくれないらしい。


 茉奈が千尋の手をそっと握り、胸元まで引き寄せる。


「せっかくですし、時計台のもとまで行きませんか。もちろん、お兄さまのエスコートで」


 くすくすと含みのある笑みを浮かべる茉奈にどきまぎしてしまう千尋。


(なんか……何時もと違う)


 プールの中にいるのに、顔が暑く感じるのはきっと千尋の勘違いではないのだろう。


「お兄さま?」


「あ、ああ!時計台だったな。行ってみようか」


 茉奈に顔を覗きこまれて、あわてて顔をそらす千尋。普段と違う双子にときめいてしまったことをばれないように反対側にむけると、渚が不機嫌に頬を膨らませていた。


「ど、どうしました?」


「なんでもないよ馬鹿」


 そう言いながら渚は茉奈と反対側の手を握る。


「じゃあ、あたしは背中をもらうぞ」


 そう言って、香菜は改めて千尋に抱きつく。


「よっ!大将!昼間に続き夜も花だらけで良いご身分だな」


「ははは」


 わざといじってくる敏樹に額に青筋を浮かべながら乾いた笑い声を返す千尋。言い返したいところだが、そうした場合、女性陣の機嫌が面倒な方向に曲がっていくのを経験で推測した千尋は、覚悟を決めて時計台に視線を向ける。


「では、行きましょうか。お姫さまたち」


「……大将、その台詞はくさくないか?」


 急に真顔になって、指摘をしてきた敏樹。


 そんなやつをあとで殴ろうと心に決める千尋だった。


 昼間よりも何故か敏感になった感覚と理性を戦わせながら千尋は三人を引いて歩く。


 歩く度に揺れる自分の体が女子の体に当たる。水の抵抗とは違ったやわらかさに声をあげそうになる。


「おー、すごいな」


 千尋が葛藤して煎る間にどうやら時計台のもとまでやって来ていたようだ。


 目の前には色とりどりの光をまといながら、壮大にたたずむ時計台がこちらを見下ろしている。


 遠くでは見たときとはまた違ったきらびやかさを感じた。


「あ、にぃちゃんにぃちゃん」


 香菜がなにかを見つけたようで、後ろでぴょんぴょんと跳ねる。千尋は捕まれた肩に痛みを感じながら、体制を崩さないように踏ん張って香菜が指を指す方向に視線をむけると、昼間にはなかったものが時計台の麓にあった。


「見に行ってみるか」


 そういって千尋は時計台のある島に上がろうとするが、渚と茉奈が手を離してくれなかった。(香菜はすでに離れて島に上がろうとしていた)


「あの、茉奈さん?渚さん?手を離してくれないと登れないんだけど」


 そう千尋が言うと、茉奈と渚は視線を交わす。


「渚さん、先にどうぞ」


「香菜ちゃんは先に行ったぞ。僕はあとで千尋と行くから先に上がってて」


 バチバチという音が聞こえそうな感じで火花を散らす乙女二人。千尋はため息をついて、敏樹の方へ顔を向ける。


「すまん、前園。香菜見ててくれ」


「あいよ~♪」


 軽い口調で答えて島に上がっていく敏樹を見送ってから、千尋は勢いよく水のなかに潜った。引きずられて水のなかに引き込まれた茉奈と渚は驚いて手を離した。


「ぷはっ」


「い、いきなりなんですの、お兄さま」


 驚く二人の頭部に、千尋は自由になった両手でチョップをくわえる。


「おふざけすぎです。ほら、さっさと行こ」


 そういって千尋は先に島に上がって、香菜たちを追いかけていく。残された二人は不服そうにしながらも千尋のあとをおっていった。


 時計台の麓には二つの箱が用意されていた。


 片方の箱には大量の貝殻が入っており、それは開かれた二枚貝でハートのように見える形だった。


 貝殻の入った箱に説明用の木板がつけてあり、そこにはこんなことが書かれていた。


『オープン記念!縁結びの貝殻。ハートの形をした貝殻に想い人と自分の名前を書くと永遠に結ばれるかも!?書いたらもう片方の箱にいれてね!』


「かもって……いいのか?」


「いいんじゃねぇの。無料だしさ、こんなのはやることに意義があるのさ大将」


 男子たちはそんなことを言ってる中、女子たちはキラキラとした目で貝殻に自分の名前を書いていく。


「せっかくだし、俺らも書こうぜ」


 敏樹がそう言うと、千尋は頷いた。


「そうだな、記念に」


 そうして各々は貝殻に名前を書いてもう片方の箱に貝殻を入れる。女子たちは自分たちの分を書くのに必死だったらしく、千尋が箱に入れた貝殻に驚いていた。


「お前、書いたのか」


 渚が信じられないといった目線で千尋を問い詰める。それに香菜と茉奈も追従する。


「にぃちゃん、誰が好きなんだ!」


「誰の名前を書いたんですの!」


 千尋は三人の視線から逃げるように背を向けて答える。


「内緒。こういうのは言わない方が効力あるって言うしな」


 そう言い残して、プールに戻ってく千尋。


 女子三人はその背中に期待と不安の眼差しを向ける。


「俺のは気にならないの」


 敏樹がおちゃらけた感じでそう言うと、女子三人は息を揃えて答えるのだった。


「まったくないぞ」


「微塵ほども興味ありません」


「しね」


「えーひど」


 泣き真似をする敏樹をおいて、三人は千尋の後を追いかけるのだった。

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