水も恋も流れは廻るのだ!ⅩⅩ
(。・ω・)ノこんちゃーす!長門葵です
今回は(『も』の間違い)ぶっとんでますよ!
色々と背景もわかるかもしれない回なので、ぜひぜひ楽しんでってください(*≧∀≦*)
では、本編スタート!
千尋はドアに手をかけていた渚に声をかけ、俊樹に聞いた話を伝える。怪訝そうな顔して渚は小さく頷いた。そして、千尋と渚は店の外に出る。
「折角の休憩だしそんな気を張って周りを見渡さなくても」
「わかってる」
と口では言いつつもネズミ一匹逃さない感じで辺りをキョロキョロと見渡す渚。千尋は苦笑を浮かべながら、歩き出そうとした。その瞬間だった。
「いた」
渚に腕を捕まれた。足をあげたタイミングで引っ張られたので盛大にしりもちをつく千尋。
「す、すまん」
「いてて、なんだよ急に」
尻を擦りながら立ち上がる千尋に渚はとある方へ指を指す。その指の先には、窓の前に佇むお嬢様が。そう、議題になっていた西隆寺・A・マリアだ。真っ白の日傘をさして、哀愁漂わせるその立ち姿はなんとも絵になるワンショットではあるが、じぃーっと窓から中を見つめるその行動は不審者そのものだ。よく通報されなかったな、と斜め四十五度ほどずれた感心をする千尋。
そんなマリアに恐れ知らずの渚はずかずかと近づいていく。肩で風をきるその歩きっぷりはまさに不良さまである。
「おい」
「……」
マリアの隣まで行き、ガンつけながら声をかける渚。しかし、マリアは反応しない。
「おい!聞いてんのか!」
「………」
次第に声が大きくなる渚。しかし、マリアはいっこうに反応しない。そこにあるのは人形だと言われても信じてしまうほどにうごかなかった。流石にイラつきが募っていく渚。その様子をはらはらしながらも千尋は見守っていた。
ついにイライラがマックスに到達して、渚がマリアの肩を掴む。するとマリアは小さく短い悲鳴をお供に跳び跳ねた。
「盛り上がってると思って敵情視察にきてあげました光栄に思うことねそれはそうと嬉しそうわらっているけどこんなのは一日限りよ去り行く同業者に対する私の優しさにかんしゃ……って、先程いらしてお客さんじゃないの」
あわてて早口によくわからない理論をまくしたてていたマリアはほっと胸を撫で下ろす。
「で、なんのようかしら?」
マリアはどこからか取り出した扇子を広げ、口許を隠しながら聞いてきた。
「それはこっちの台詞だ。そんなところで立たれたら営業妨害だ。用があるならさっさと言え」
噛みつかんばかしに敵対心と歯をむき出しにして、渚はマリアをにらむ。マリアは悲しげに瞳を潤ませて、うつむく。
「用ならもう……無くなりましたわ」
そうこぼし、マリアはドレスを翻して振り返る。
「では、ごきげんよう」
そう言って歩き始めるが数歩行っては振り返り名残惜しそうに店の方を見る。ドレス姿だけあり、一歩の距離が短く、一メートルも動かないうちに振り返るものだから、千尋と渚はいたたまれない気になった。
お互い顔を見合わせて小さく頷くと、千尋がマリアに駆け寄った。
「待ってください」
「……なんですの」
なんとも破棄のない声。最初会った時とえらく違うもので声をかけたものの次になんて言葉をかけるべきか千尋は戸惑った。
「少しお話ししませんか」
言葉選びに迷走していた千尋のかわりに、渚が優しい声音で言った。さきとはうってかわった態度にマリアはくすりと笑って答えた。
「思った通り、あなたは素敵な女の子ね」
いきなり誉められた渚は目を丸くしながら顔を赤らめる。その姿を見てさらに頬笑みを膨らませるマリアは目先にあるカフェを指差す。
「折角の御厚意、ありがたく受け取らせてもらいますわ。あそこのお店は静かで雰囲気も良いですの。奢りますのでお付き合い下さい」
なんともきれいなお辞儀をするマリア。そして、上体を起こすと先程とはかわり、すたすたとカフェに向かっていく。千尋と渚は慌ててその後ろをついていった。
「いらっしゃいませー、お好きな席にどうぞ」
ショートカットお姉さんが笑顔満タンで挨拶をしてくれた。そのお姉さんとは違った静かでゆったりとしたジャズが店内の中を満たしていた。良い意味でギャップがあり過ごしやすい雰囲気のお店だった。
「早速ですが、あそこで何をしてたんですか」
千尋は席につくと、単刀直入に質問をぶつける。すると、マリアは扇子で口許を隠しながらくすくすと笑った。
「節介な男性は好かれませんよ。そこのかわいらしいお嬢さんに愛想つかされたくないなら、覚えとくといいですわよ。くすくす」
「なっ!僕とこいつはそう言う関係じゃむぐ」
慌てて否定する渚の口をマリアは扇子で塞ぐ。
「他のお客様の迷惑になってしまいますわ。それより、先に注文をしてしまいましょ。すみません」
マリアが手をあげると先程のお姉さんがとことこはや歩きで近づいてくる。
「わたくしはホットのストレートティーとガトーショコラを。お二人はどうします」
「じゃあ、アイスコーヒーを。砂糖とミルクは抜きで」
「コーラフロート」
態度がコロコロ変わるマリアにもやもやした気持ちを抱えながら千尋と渚は注文をする。そして、注文した品が届くまで三人は無言だった。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「はい、ありがとうございます」
マリアはにこりとお姉さんに微笑みを向けて、お姉さんが遠ざかるのを待った。そして、紅茶を一口飲むとぽつりぽつりと水面に波紋を一つ一つ生み出すように静かに話し始めた。
「わたくしは……あの人の最初の、お客さまでしたの」
千尋と渚は静かに言葉の続きを待った。マリアはガトーショコラをフォークでゆっくりと切りとり、それを上品に口に運ぶ。そして、再度紅茶で口内をすすいだ。
「ここにお店を出すことが決まる前ですの。父の友人が彼と仲良くしていて、店を出すつもりだからなにかアドバイスをしてほしいと言われましたの」
その日を思い出すように遠くをみて、それから自傷的な笑みを浮かべるマリア。
「わたくしもひとつのお店を任されてる身ですから、辛口に批評して現実を教えてあげようと思っていましたの。でも、その日出された料理に私は吐き出そうとしてた戯れ言を呑み込むことになりました。その日出された料理はロールキャベツでした。優しい太陽みたいなお料理でしたの。鶏と豚の合挽きで作られたタネはフォンと肉汁が見事にマッチしてしっかりと味を主張しているのに、それを包む春キャベツの甘味とかけられたトマトソースの酸味とまろやかがしつこさを感じさせない素晴らしい味でしたの。きっとトマトソースも野菜がどろどろになるまで煮込んだポトフをベースに作ったのでしょうね。少しだけ残った野菜とベーコン、それとトマトがそれぞれの食感が違った感覚を私に与えてくれましたわ」
(じゅるり)
「渚、涎」
「す、すまねぇ」
千尋は腰に巻いたウエストポーチからハンカチを渚に渡す。渚は急いで口元を拭く。それをみてくすりと笑うマリア。それにつられて苦笑を浮かべる千尋だが、内心では仕方ないと思っていた。なにせ千尋も話の途中でお腹がなりはじめ、それがばれないように必死に服の上からお腹を押さえていたからだ。
「あの人はそれを食べる私たちを見て、幸せそうに笑っていました。その時、わたくしは思いましたの。この人は評価されるべき人だと。だってそれだけの感動を与えられるだけの手間暇をかけられる人は多くないわ」
マリアはティースプーンで紅茶を二、三度回す。
「だから、わたくしはお父さまにその場で頭を下げたわ。この人に出資させてほしいと。お父様は快く承諾してくださいましたわ。でも、あの人自身がそれを断ったの」
千尋は少し驚いた。
なにせ幸太からは色んな人から助力をしてもらったと言っていたからだ。泥水をすすっても叶えたい夢だったんだと感じていた台詞だったのに、こんな大きなチャンスを見逃すなんて可笑しいと感じてしまったのだ。
そんな千尋の考えを見透してか、マリアはまた皮肉じみた笑みをこぼした。
「あの人は確かに色んな人の助けを借りたわ。それこそ、ここの運営の方々に自分の名前を売るために平気で土下座をしたぐらい。でも、お金だけは一銭も他人に出させなかったわ。本当に素晴らしい方だとそこで改めて認識しましたわ。でも、問題はそこからでしたの」
話の続きが気になり、生唾を飲み込む千尋と渚。
「あの人があの場所を獲得して店を開くことになってからですわ。わたくし、お祝いをしようとここに出向きましたわ。そこで、たまたま聞いてしまったの。あの人がお店を一人で経営するつもりだって。わたくしは耳を疑いました。そこから部下を使ってお店の状況を調べさせましたの。そしたら、本当に一人でこのお店を切り盛りするつもりだってことがわかりましたの。そんな馬鹿げたことがあります?このお店だってそこそこの広さ、経営だってしたことないお人がそれを一人で回すなんて無理に決まってる。それにあの料理だって、コストを考えれば一日、百は優に越えなければ収益だってでない!それを一人でなんかやったらあの人が壊れてしまうわ!」
語尾は少しずつ強くなり、握られていたティーカップがカタカタと音をたてる。心の底からの本音なのだと、幸太を本気で思っている言葉なんだと千尋たちは感じた。だからこそ。だからこそ、哀れみと哀しみを含んだ瞳で、話の続きを語った。
「だから……彼のことを思って、妨害工作に出たと」
マリアは肯定も否定もしなかった。しかし、その沈黙が答えだ。渚が会話を投げだすように悪態をついた。
「馬鹿だな」
その言葉にマリアはまた自傷じみた笑みを浮かべる。
「そう言われても返す言葉がありませんわ。でも、あのときは最善だと思ってしまった。彼はどうやらわたくしのことを覚えていなかったようですし、それを良いことにめい一杯飾り付けて彼のもとにいきました。そちらの方が彼が力を借りやすいとおもったからですの。そして、場所を譲れやうちの傘下に入れなどなれない道化も演じてみましたの。そうすれば、彼がわたくしに恩を感じずに済むと思って。でも、どれも歯車が合わず、作戦はすべて失敗しましたわ。唯一得たのは彼の怒りぐらい」
マリアは瞳を潤ませて、ティーカップをすがるように両手で包んだ。そんな姿に千尋はいたたまれなくなり、顔を背けた。マリアは嗚咽混じりに話を続けた。
「……私が空回りしてる間に……どんどん彼は……茨の道へ行く準備を進めていきました。……それはもう……死神が手招きをしてるみたいに……順調に」
そして、マリアは頬に一閃の光を流しながら、笑った。
「だからわたくしは考えましたの。彼の道をわたくしが閉ざしてしまおうと」
その笑みはなんとも慈愛に満ちたものだった。しかし、千尋にはその表情が彼女の言う死神そのものにしか感じられず、身震いをした。
しかし、そんな表情はすぐに姿を隠した。マリアは顔を伏せた。その表情はまだ笑顔だった。しかし、それは先程のものとは違い、まるで紅茶の水面に映る自分を拒絶するかのような嘲笑だった。
「でも、あなたたちと働いて、笑う彼をみたときに私は間違えていたのだと気づかされましたわ。最後の最後まで格好がつきませんが、それが気づけただけで最後の失敗だけは喜んでも良いんじゃないかと思いましたの」
まだ笑みを崩さないマリア。しかし、その瞳からは本音を語るように涙がこぼれ落ちていく。
千尋は何度も口を開いてはそれを閉じる。千尋にはかける言葉を作り出すことができなかった。きっと、今、思い描いた台詞は彼女に意味をなさない。どれだけ饒舌に慰めても、どれだけ厳しく叱ったとしても、狂気に心を浸した彼女の助けにはなることはないだろう。千尋は無力な自分に悔しさを感じて唇を噛む。
「馬鹿だな」
そんな千尋を否定するように、渚が同じ台詞をマリアに投げつける。
「な、渚。ちょっとそれは」
「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」
目を丸くして慌てて止めに入る千尋だが、渚は聞く耳を持たなかった。
「何が失敗するだ。何が間違えてるだ。男が頭下げてまで格好つけようとしてんのに、何でてめぇは上から目線で語ってんだ。手助けしてえと言っときながら、てめぇは男が泣きつくの楽しみに待ってたんだろ?ワタクシが間違えてただぁ?当たり前だろ!男が弱って、しっぽを振りながら助けを求めてくるのを待つことが正しいわけあるか。んなもん、性悪でビッチなクソがやることだ。そんなことしてたら嫌わへんのは当たり前だ、ボケ。てめぇがやるべきは上から餌をあたえて男を甘やかすことじゃねえだろ。頑張る男を支えて、男がかっこつけるのを隣で見てやることだろ!確かにこれから失敗もするだろ。あのあんちゃんはお人好しだからな。きっとこれからも傷だらけになるだろうよ。でも、だからこそ、尻を叩いてやるのがいい女じゃねぇのかよ!あぁ!?」
最後にテーブルをバンッと力強くはたき、言葉をしめる渚。その怒号に周りの視線は集中し、マリアも目を真ん丸にし、絶句している。しかし、番長モードの渚にそんなことは関係ない。
「行くぞ」
「え?え?」
渚は唐突にマリアの手をつかみ、走りはじめた。状況の掴めないマリアはひたすら疑問符をこぼすだけだった。
取り残された千尋は苦笑しながら、周りのお客さんに頭を下げる。
そして、一緒に残っていった伝票を見て、ため息をひとつ。
「こんなこと、前にもなかったっけ」
千尋はデジャブに襲われつつ、泣きながら財布の紐をほどくのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
お嬢様の本音、いかがでしたか?
自分はぶち壊しすぎたかな?って少し反省してます。上っ面だけで。
まぁ、そこも含め楽しんでもらえれば幸いです。
さてさて、次回でお店編は最終回!この章も残すところわずかになってきました。
ロリコンの皆さんに喜んでもらえるようにお店編が終わったら、双子ちゃんの魅力を最大限引き出してくんで、そこんとこヨロシク(*´・ω・`)ノ
ってなことで、次回もお付き合いください。
以上、最近エアコンがぶっ壊れて凍えてる長門葵でした!
【感想・レビュー・指摘、随時募集中です。ドシドシ送ってください】




