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絶対妹大戦  作者: 長門葵
14章~水も恋も流れは廻るのだ~
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水も恋も流れは廻るのだ!ⅩⅢ

 大衆食堂かもめ


 餌に群がる蟻の軍隊に比喩しても失礼にならないだろう人ごみを抜けて、何とかたどり着いた目的地。


 しかし、その店頭には周りとは比較できないほど人が|いなかった≪・・・・・≫。


「ど、どういうことだ」


 疑問符を頭上に何個も浮かべて、不安が顔に出てしまった。


 しかし、そんな千尋の不安を察することもなく、香菜と茉奈は鼻歌交じりにスキップしながら、店内に入っていく。


「ほ、本当にここにするのか」


 渚もどうやら千尋と同じ不安を抱いたらしい。眉間にしわを寄せて、子供なら瞬間で泣かせてしまうような目つきで店を見つめる。


 見た目は普通のお店。


 大衆食堂という名前がふさわしく清楚で、けれど豪華すぎず、誰も慣れ親しみやすい見た目をしていた。可愛らしいかもめが看板で木製のふきだしで『ようこそ』と書かれていた。しかし、そのかもめは日差しのせいか、表情に影がかかっているように見えた。


「とりあえず・・・入るか」


「・・・(コクリ)」


 渚も人を殺すような眼光をしていたが、不安は拭い去れないようで千尋が羽織っていたパーカーの袖をぎゅっと握っていた。


 千尋は恐る恐るドアを開ける。


 中に入るとがらがら。閑古鳥でさえ目をそらしてしまうような有様。


 そんな中、中央の大きな円卓で椅子を傾けながら座っていた敏樹が千尋に気づいたのかへらへらしながら手を振っている。


「よう、大将。遅かったじゃねぇか」


「悪い悪い。それより茉奈と香菜は」


「ああ、さっき入ってきたけどテンションがあがってんのか。誰もいないことをいいことに奥にかけていったぞ」


「止めろよ!」


 慌てておくにある厨房のほうに千尋は走っていた。それを敏樹はへらへらとしながら手を振って見送る。


「いい加減にしろよ」


「いて」


 渚が拳骨を軽く俊樹の頭に当てる。


 ため息を軽くこぼしながら、渚は敏樹から一個席をあけた位置に座る。


「なんだよ、渚っち。壁を感じるぞ」


「馴れ馴れしいぞ。吐き気がする。ぺっ」


 つばを吐き捨てるような仕草をする渚。敏樹は「そりゃないぜ~姉御」とおちゃらけた態度をとる。


「・・・また面倒なことを考えているな」


 頬杖をつきながら、渚はつぶやく。敏樹は歯を見せて笑う。


「なんでそう思うん?」


 渚はあきれたように、再度、ため息を吐く。


「どう見たって何か問題があるだろうこの店。先に着いていたら、普通連絡のひとつでもよこすのが普通だ。お前に常識を問うのは非常識だと思うが、僕ならそうする」


 とても失礼なことを言われているが、俊樹は一向に気にするそぶりを見せず、にやにやと笑っていた。


「この人ごみだ。連絡がつかないだろうと着くのを待っていた・・・ってのはどうよ」


「どうよ、と聞いている時点でそんなこと考えていなかった証拠だろ」


「中々聡いじゃないか、ワトソン君」


 敏樹はそういいながら、スマートフォンをいじり始める。


「これ見てちょ」


 敏樹に指摘されてスマートフォンを覗き込む。画面にはグルメサイトが開かれていた。どうやら大衆食堂かもめのページらしい。このテーマパークは開かれてまだ数日しかたっていないのに、そこには多くの口コミが書かれていた。しかも、大半が悪口だ。


「これは酷いな」


『あんなもの飲食店とはいかない』


『接客も味も三流以下』


『あんな店、二度と行かない』


 その他エトセトラ。


 ここまで酷く書かれた店を渚は見たことがない。


「ね、面白くなりそうでしょ」


 敏樹は微笑みながら、先ほど駆けていった千尋の幻影の背中を見つめた。


 一方、千尋はその頃-


「捕まえた!」


 厨房の入り口まで入り込んでいた茉奈と香菜の襟元持ち上げるようにひっぱる。


「わ、にいちゃん」


「お兄さま!い、いきなりはちょっと。まだ心の準備ができてませんわ」


 素直に驚く香菜となぜか頬を赤く染めている茉奈。


 何の準備だ、と心の中であきれた感想を漏らしつつ、二人の頭を軽くたたく千尋。


「まったく・・・何してんだ。いくら空いてるからってお店の人に迷惑をかけるようなことしちゃだめだろ」


「「ごめんさい」」


 素直に反省した二人の頭をなでながら、千尋は二人に問う。


「本当になにしてたんだ。こんなところで」


「そうだ兄ちゃん!」


「あれを見てくださいまし、お兄さま」


 二人は何かを思い出したように厨房の中を指差す。千尋はその指の先を覗き込む。そこにはコック服を着ている男が調理台に顔を伏せいていた。


 そして、その男の近くに赤くきらめく液体が。


「なっ!」


 楽しく賑わうテーマランドに似合わない衝撃が千尋の脳裏に走った。


 このあと、メガネと蝶ネクタイがチャームポイントの頭脳が大人な少年が現れそうな急展開にー




「ふぁっ~寝ちゃった。って、なんだこれ!ああ!ボイルトマトの缶詰こぼしちゃった!」


 なりはしなかった。


 千尋は安堵の息を吐きながら、その男の下に歩んでいきタオルを厨房にあったハンドタオルを差し出す。


「大丈夫ですか?」


「あ、ありがとうございます。じゃあなくて!いらっしゃいませ!お客様ですか!お客様ですよね・・・?」


 うれしそうに飛び跳ね、満面を浮かべた後に不安になったのか語尾が弱弱しくなっていく。忙しい人だと苦笑しながら、千尋はとりあえず頭に浮かんだ疑問をぶつける。


「どうしたんですか?こんな真昼間に寝ちゃうなんて。それにお店・・・言葉は悪いですが、繁盛してるようには見えないのですが」


「あ、あはは」


乾いた笑いを浮かべる男に怪しさを感じつつも千尋は話を聞いてみることにしたのだった。


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