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絶対妹大戦  作者: 長門葵
14章~水も恋も流れは廻るのだ~
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水も恋も流れは廻るのだ!ⅩⅡ

 両手と肩の上に華を持つこととなった千尋は、人ごみの中で何とか進んでいた。


「おい!前園」


 先行してしまったために人の壁によって姿の見えない悪友に声を飛ばす千尋。


「なんだい!」


 途方もないほうから聞こえる声に何となくの距離をつかみ、千尋は声を張り上げ指示を出す。


「パンフレット!三頁め!大衆食堂かもめ!そこで落ち合おう」


「ほいほいっと・・・ほんとにあるよ。了解!先に行って席とっとくは」


 手のひらだけをぴょんぴょんと見せて了解の意を示した敏樹はそのまま、すっと姿を消した。それを視認すると千尋は自分にすがりつく女の子の顔をそれぞれ見渡す。


「こんな人ごみの中、急ぐと危ないからね。俺たちはゆっくり行こう」


 渚と真菜はちいさくこくりと頷いた。香菜は鼻歌交じり体を左右に揺らし聞いてる様子がひとかけらもなかった。


「でも、お兄さまも言ってくださればよかったのに」


 真菜はくすくすと笑いながら、千尋のわき腹をつつく。


「なにをだよ」


 少しむっとした表情を作りながら、千尋は聞きなおした。


「だって、パンフレットを暗記するほど今日が楽しみだったなんて。お兄さまもかわいいところがありますね」


「そうなのか!にぃちゃん」


「あ~、うん。それは・・・」


 苦笑しながら千尋は少し言葉を詰まらせた。


(言えない。二人のお嬢様が暴走するだろうから、先に行く場所だけは決めといて、被害を最低限にしようとしてたなんて)


「そ、そうなんだよ、あはは」


 棒読みすぎる肯定。


 しかし、その言葉がうれしかったのか。双子は気にする様子もなく、頬を緩ませていた。


「その、なんだ・・・すまんな、間宮」


 渚が顔を俯かせながら謝罪の言葉をこぼす。


 何のことだがわからなかった千尋は、渚の顔を覗き込むように少し首を傾け、言葉の続きを待った。


「せっかくの家族水入らずを、邪魔してしまった」


 申し訳なさそうにする渚に、千尋は微笑んだ。


「そんなことはないさ。夏休みらしいことがまだできてなかったし。まぁ、夏休みを満喫できてないのも、すべて親父のせいだけど。そう思うとむかついてきたな。今度、帰ってきたらただじゃ置かないぞあのくそ親父」


「お、なんかわかんないけどにぃちゃん燃えてるな!」


 怒りをメラメラと燃やす千尋の傍らで渚は、顔を赤らめながら微笑んでいた。


 そんな時間を十分と少し過ごすと、なんとか人ごみに隙間ができた広場まで進むことができた。


「ふぅ~、なんとかあの人ごみを抜けられたな」


「すごかったですわね」


「みろ!人がゴミのようだ」


「やめなさい香菜。あと降りろ。さすがににぃちゃん疲れた」


「うぃ~」


 サルも顔負けな勢いでするすると千尋の上から降りる。


「君たちも手を離してもらえるとうれしいな。正直、腕がしびれてきた」


「むぅ~、雰囲気がないですわお兄さま。でも、困らせたいわけではないので離れてあげます」


「そ、そそそ、そうだな」


 相反する態度で千尋の腕に抱きついていた二人は名残惜しそうに千尋から離れる。


 渚の態度に少し疑問を抱いた千尋は、膝を曲げて渚の顔をのぞきこむ。


「どうした。顔が赤いけど熱中症か」


「そ、そんなんじゃ!」


 反発するマグネットのように後ろに飛ぶ渚。


 いくら広くなったといえ、人でごったがえしていることは変わらない。


 飛んだ勢いで後ろの人に衝突しそうになる。


「あ」

 

 渚が目をつぶった瞬間だった。


 何者かに手を引っ張られた。


「あぶねぇな」


 渚が目を開けるとそこには千尋の胸板が眼前に迫っていた。


「人が多いんだから気をつけろよ」


 胸に抱かれる形で千尋の腕の中に納まる渚。自分でもわかるほど、顔があつい。


「やっぱ顔が赤いぞ。大丈夫か」


「だ、大丈夫だ!はなせ!」


 高鳴る鼓動を水着の上から押さえる渚。


 そんな様子に千尋は元気そうだし大丈夫だろうという、なんとも方向違いの勘違いに自分で納得し、目的地の方向へ向きを変えた。


「さて、前園待たせてるし行くか」


「そうですわね」


「腹減った~」


 千尋は二人にそっと手を差し出す。


 二人は何の気もなしにその手をとる。


 そして、手をつなぎ歩み始める三人。


 兄弟としては当たり前の振る舞い。しかし、渚にはその光景がうらやましく思えた。


 自分の気持ちには気づいたつもりだったが、それでもはじめての感覚だった。


 渚の胸にはぽっかりとひとつの風穴が開き、その中へ次々と感情という風が生ぬるい吐き気を運んでくる。


 いつのまにか、あんな小さな子に出さえ嫉妬の炎を燃やしているなんて。


 まだ、整理のつかない気持ちに渚は唇を噛むのだった。

 

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