水も恋も流れは廻るのだ!ⅩⅠ
「何をやってるんですの、お兄さま」
「あはは、怒られてやんの」
「・・・呆れてものも言えない。こんなこと思ったのは始めてだ、間宮」
筋骨粒々な異人プロレスしてそうな監視員の折檻は終わり、足のしびれと奮闘しようとしたバカな高校男児である敏樹と千尋だが、懺悔の時間は終わっていなかった。
茉奈、香菜と渚が騒ぎを聞いて二人の元にやって来ていた。
茉奈は額に手をあて、香奈は腹を抱えて笑っている。そんな二人から一歩後ろで、渚が無表情のまま文字通り男二人を見下していた。
「俺、今年厄年だったかな」
「いつも気にしてなかったけど、きちんと見ないとダメだな」
敏樹と千尋は頭を落としながら、自分たちの身勝手な不幸に間違えた方向の後悔をしていた。
「まぁ、お兄さまのこんな可愛らしい姿は中々見れませんから。よしとしましょう。それよりお腹が空きましたわ」
茉奈のその言葉にプールの真ん中にそびえ立つ、芸術は爆発だと今にも言い出しそうなデザインの時計台に目を移すと時刻は一時を過ぎていた。
周りも同じようでプールで遊ぶ人も少しではあるが減り、その代わりに隣接するショッピングゾーンに人の波ができていた。
「さぁ、お兄さま。リードは男性のお仕事ですのよ」
すっと茉奈が千尋の前に手を差し出す。
お説教を受けていたせいか、いつも可愛く思う茉奈の背伸びも、頼もしく思え、その反面で申し訳なさにでその手をとり、かしずいてしまいそうだった。
千尋が目の前の手をとろうとしたとき、首に襲いかかる衝撃。
痺れた足が悲鳴をあげるなか、その招待を確かめるにも頭は足に挟まれ、動かすことは出来なかった。
「レッツゴー兄貴」
「ミニ四駆走らせてそうな呼び方してないで降りろ香菜」
「なんだよ。ノリが悪いぞにいちゃん」
そんなことを言われても色々と男としては気にしてしまう部分が触れている今の状況にどう乗れと、と心の中でつぶやきながら、あきれた表情を作る。
しかし、内心はドキドキである。
「おい、女はここにもいるぞ」
左腕を少し強めに包み込む感覚。首を動かせないので、姿は認識できない。しかし、声から、それが誰で、なんの感覚はすぐにわかった。
「僕もエスコートしていただこうか」
渚が左腕に抱きつくような形で腕を回していた。
声が上ずっている。きっと渚も恥ずかしいのだろう。
しかし、それを気にするほど千尋に余裕はなかった。
まるでパンクバンドのドラムのように数え切れない鼓動が足早に緊張を訴えてくる。さきほど、敏樹との話で女の子というものを意識したせいだろうか。それとも水着というのが問題なのだろうか。普段なら笑顔で返せるシチュエーションにもかかわらず、今は緊張を隠すのに必死に困り顔を作るのに必死な千尋。
敏樹に助けを求めようと口をひらいたが、
「お、なんかここのフードコート、著名な店もあるらしいぜ。早く行かないと席埋まっちゃうぜ」
どこから出したのだろうか。パンフレット片手に先にショッピングコーナーに向かってしまっている。
「はぁ」
小さくこぼしたため息と一緒に少し体に力をこめる。
(こういうときは開き直るのが一番)
そう心の中でつぶやくと、気分だけで顔を叩く。
「おっしゃ、いくぞ」
必要もないボリュームで喝をいれ、千尋は三本の華で着飾ったまま歩き出すのだった。




