色彩ぼやけた視線の先Ⅲ
千尋と敏樹が学校に着くと、まだ早いのかいつものような喧騒はなく、朝練に出ている学生たちの声だけが遠くに聞こえた。
「少し早すぎたかな。にしてもそれどこに置いとくんだ」
「家庭科室の冷蔵庫の中にでも入れさせてもらおうと思って」
「そっか。なら早く職員室に行かなきゃな」
「おう。だから、先に教室行っててくれ」
「そう言うなよ。一人じゃ大変だろ。俺も行くぜ」
「そうか。なんかすまんな」
「いいってもんよ」
千尋は台車(巨大な弁当)を引いて校庭を横切り、玄関に向かう途中でソフト部の面々が千尋に声をかけてきた。
「あ、間宮先輩だ。おはようございます」
「おぉ、間宮く~ん。おはよう」
「間宮ぁ、お~っす」
なぜか練習を打ち切り、千尋の周りに集まるソフト部員。
「いつもながらすごい人気だな。さすがと言うか・・・」
「そんなじゃねえよ。ただ妹関連で知り合っただけで俺がすごいわけではないよ」
「それ、そう思ってるのはお前だけだよ」
千尋は疑問符を浮かべながら首をひねる。敏樹はやれやれとわざとらしいポーズをとる。
「あ、そうだ。いつも妹がお世話になっています。部長さん、これ皆で朝練が終わった後ぐらいに分けてください」
そういって千尋は後ろの荷台から巨大な弁当箱とそれより二まわりぐらい小さなプラスチックケースをだした。
「こっちの大きいのがクッキーです。砂糖を使わずドライフルーツだけなんでカロリーとかは気にされないと思います。こっちはレモンの蜂蜜漬けです。こっちは少しこの前のとは違う作り方してみました。口に合えばいいですが。どうぞ」
そう言って説明をしながらソフト部部長縁下球余にそれを渡した。
「おお、ありがたい。いつもすまんな間宮」
「いいえ、こちらこそ」
「おまえら、間宮から差し入れだぞ」
『やったーーーーーーーー』
部長のその一声で後ろから大声の歓喜の声が上がった。
「せんぱい、あざっす」
「間宮のおかげで今日を生きていける(授業を寝ずに済むという意味で)」
「私、先輩(の料理)が大好きです」
「あはは、ありがとう」
少し苦笑いを浮かべながら、迫る女子たちに一人一人対応する千尋。
「おい、お前ら。練習再開するぞ」
『えぇ~』
「きちんとしなかったやつは間宮のさし入れ抜きだぞ」
『ハイ、イエッサー』
そう言って各の場所に戻って練習を再開する部員たち。
「じゃ、間宮。ありがとな」
そう言って球余も練習に戻っていった。
「?どうした、前園」
「なんで、お前はそんなもてるんだ‼」
「いや、モテてはないだろ」
「・・・っく!リア充は爆発すればいんだ」
「なにに怒ってるんだよ。意味わかんねえよ」
そんな事を言いながら千尋は敏樹を引きずりながら玄関に向かった。
その後、千尋は校庭で4つ、体育館前で10の部活につかまりそのたびに千尋は差し入れを用意していた。千尋はどこでも男女関係なくモテモテたっだ。
最後には敏樹は泣いていた。




