年二回の大騒ぎⅩⅤ
円卓の上に並ぶ魚たち。
その姿にその場にいた女性陣は息をのむ。
木製の船に鯛の姿盛りに薔薇のように花開く鮪の刺身。
アジやヒラメなどの白身魚は扇状に並びそれらの見栄えをたたせ、エビやウニ、ホタテなどの貝類が船に乗り鯛を飾り付ける。
その横には納豆を春巻きの皮で包んで揚げた物やしそやエビなどの天ぷらが並びさらに食欲をそそる。
『・・・・・・・・(ごくり)』
「じゃあ、さめる前に食べちゃおうか」
千尋がそういって巨大な桶に入った酢飯に杓文字を投入する。
が、誰も手を動かさなかった。
「どうした?早く食べないと午後の作業が終わらないよ?」
「や、だって」
「これほどのきれいにできたものを崩して食べれるほどの無神経は香菜ぐらいですわ」
「なんだと!!」
「そこけんかしない!」
「「は〜い」」
「しかし、これじゃたべずらいわちーくん。だから、私に食べさせて」
茉那と加奈のけんかを止めた詠子はいきなりにそんなことを真顔でいった。
一瞬の静寂。
そして、ときは動き出す。
「な、ななな、何を言ってるんっですか詠子さん!!」
「のんのん。お母さんでしょちーくん」
「あ、ごめんなさい。・・・って、そうじゃなくて!」
「あ、言い方が悪かった?あ〜んして」
「いいかたじゃなくて!」
必死に抗議する千尋だか、詠子はニコニコと笑うだけで考えを変える態度を一寸も見せなかった。
「お母さん!何考えてるの!」
そして、ついに長女絢が立ち上がった。
「たべ、たべさせてもらうなんて!お天道様が許しても私が許しません!」
びしっ!と音が聞こえそうなぐらいのびきった指。
その絢の頭には角が生えている気がした。
しかし、詠子は気にしてる様子もなく唇に指をあて首を傾げた。
「でも、私にはこの芸術品を壊す勇気はないもの。それにみんなはちーくんにあ〜んしてもらいたくないの?」
「「「「「へ?」」」」」
詠子のなげた疑問に姉妹全員は目を点にする。
そして、数秒妄想の世界に飛び、一斉に頭から湯気をたたせる。
「みんなやっぱり反対?」
再度の確認に姉妹は首が飛びそうな勢いで横に振る。
「じゃあ、ちーくん。おねがい」
外堀を埋められた千尋に逃げ場はなくなった。




