色彩ぼやけた視線の先
「ん・・・朝か」
朝の気だるさが頭の上をぐるぐると回る中、千尋はベッドから降り立ち上がった。
「早く起きなきゃ。弁当作んなきゃ」
時刻は朝の4時。
早すぎる気もするが、さすがに料理なれをしていない千尋には弁当を作るのに時間は余るぐらいがちょうどいいのだ。
千尋はキッチンにたどり着くと手を洗い、エプロンを装着する。
「され、始めますか」
そう自分に喝を入れ千尋は調理を始めた。
「おはよう」
絢がリビングに起きてきたのは朝の6時。
たいていその時間には詠子がキッチンで食事の準備をしているものだが、今日はなぜか詠子はリビングのテーブルでお茶を飲んでいた。
「あ、絢。おはよう」
「う、うん。何してんの」
「ん?ああ、今日はちぃくんが朝ごはん作ってくれるらしいから、それまで待機をしているのだよ」
「え!?お兄ちゃんが」
絢は静かにキッチンを除くとそこにはきれいに飾られた食事の数々が。
パエリア、シーザーサラダ、コーンスープ、豆の煮物、ナンとスープカレーとドライカレー、ハニートスト、そのた世界各国の料理が少量ずつ、しかも小皿に分けられていた。
「お、お兄ちゃん。何してるの?」
「おはよう、絢。ちょっと弁当を作ろうと思って。ついでだから朝ごはんも一緒に作っちゃおうと思って。もうできるから待ってて」
千尋はフライパンでつくられたソースを薄切りの牛肉の上にかけ、一息つく。
「よし、できた。絢、ちょっと運ぶの手伝って」
「う、うん」
絢と千尋は小皿に分けられた数々の料理をリビングまで運ぶ。
「あ、詠子さん起きてたのですか?一声かけてくれればいいのに」
「だって、ちぃくん真剣だったからおじゃましちゃいけないかな?と思ったから」
「そんな気にしなくていいですよ」
そういいながら千尋は詠子の前に料理を並べる。
「おお、これは私の好物ばかりだ」
詠子が目を輝かせ目の前の料理に唾を呑んだ。
「あ、絢。それは葵の前。そっちの皿は茉奈。そっちのは・・」
絢に指示を出しながら、千尋はすばやく料理を並べる。
ちょうど並べ終わった直後にその他の妹たちがリビングに入ってきた。
「おはよう」
「ふぁ~、朝練だりぃ」
「ZZZZZ」
「香菜、リビングの前よ」
それぞれの朝の挨拶(?)をすませてリビングの定位置に座る。
「おはよう。でも、座る前に皆、顔洗ってきなさい」
「「「「はぁ~い」」」」
千尋の声に四人とも素直に返事して洗面所に向かおうとしたが、全員がすぐに足を止めた。
「どうした?」
四人が一斉に勢いよく振り向く。
「「「「なに、その格好!?」」」」
「え?エプロンだけど・・・変か?」
千尋がエプロンを少し持ち上げると、ぶんぶんと音を立てながら首を横に振る。
「す、すごい・・・」
「いいと思います」
「なら、よかった」
茉奈と香菜は顔を真っ赤にしながらさらに首を縦に振る。
「そ、それよりにぃに」
「まさか、朝ごはんは・・・」
「俺が作った」
「「「「・・・・・・・・ごくっ」」」」
そこで四人の妹たちは一斉に唾を飲む。
「ごめんな、絢のじゃなくて。でも、そこそこ美味く出来たと思うんだ」
照れながら鼻の頭をかく千尋。そして、はにかみながら言った。
「だから、食べてくれるとうれしいな」
「「「「ハイ、イエッサー」」」」
全員が一斉に洗面台に行ったかと思うと、洗面台から大声が聞こえ、すぐ全員がめちゃくちゃになりながらも戻ってきてすばやく席に着く。
「全員そろったし、じゃあいただきます」
詠子の一言に合わせて全員が一斉に手を合わせ
「「「「「「いただきます」」」」」」
復唱した。そして千尋を抜いた全員が箸を持ち目の前の料理を掴む。
ぱくっ
一斉に口に放り込む。
しばらく続く無言。
「ど、どうかな?」
心配そうに妹たちを見まわす千尋。
「う、う、う、う・・・」
「う?」
「「「「「「うめぇぇぇえぇぇぇえぇええぇえぇぇぇぇぇぇ」」」」」」
次の瞬間、総出で絶叫していた。
「なんて、美味しんだ」
「クッキン○パパも驚きだ」
「鼻が落ちちゃいそう」
「それを言うなら頬でしょ。でも、確かに頬が落ちそうな美味しさね」
「にぃに。いますぐお店を開こう」
「・・・負けた。だからお兄ちゃんに料理させたくなかったのよ。こんな美味しいなんて反則だよ」
ここが千尋に賞賛(絢だけは泣いて悔しがっていたが)を送る。
千尋はそれに応えるようにはにかむ。
「よかった。皆の口にあって」
そのまま、食事はものすごいスピードで進む。いつもの倍の速度ぐらいで進んだろう。そして倍のスピードで食事は終了した。
「ふぅ~、食った食った」
全員が満足そうな顔で椅子にもたれかかっている。千尋は食器を片づけながら言った。
「おまえら、そろそろ準備しないと遅れるぞ。麻貴は朝練があるんだろ。早くしろよ」
「だって、にぃにの料理が美味しすぎて」
「食べすぎちゃったんだもん」
「しかも、私たちが好きなのばっかりだし」
「さすがお兄ちゃんだわ」
「しかも、しっかりバランスも考えて、配膳されてるし」
「ちぃくん・・・恐ろしい子」
千尋は苦笑いを浮かべながら、エプロンを置いてリビングに戻る。
「まったく、自慢の妹たちはしっかりと朝の準備もしっかりできないのか。なんか、がっかりだな」
わざとらしくそう声にだすと、妹たちはびくっと反応した。
「あ、あと20分で俺は家出るよ」
それが拍車をかけたようで、妹五人は一斉に動き始めた。
「ちぃくん・・・恐ろしい子」
詠子は先ほどのセリフを違う意味で呟いてしまった。




