懸けた想いと消えた声ⅩⅨ
「二人ともとりあえず1週間の停学な」
「「な」」
傷だらけの千尋と渚は職員室できれいなハモリを決めていた。
「だってな、そんなボロボロで来られてな?」
担任は苦笑しながら、机の上に並ぶ書類に目を通す。
「だから、それは説明したじゃないですか。二人で一緒に階段からこらがってそのままラグビー部の練習に巻き込まれた結果けがをして保健室に行ってて遅れたって」
必死に早口をまくし立てる千尋。
教師は深いため息をついた。
「その話は先ほど前園からも聞いた。だけどなぁ。運動神経抜群の二人が同時に階段から落ちるなんて話を信じろってのも無理な話だろ?百歩譲ってそれがほんとでもそんな傷をしたのをそのまま見逃すってのも世間体に悪い」
「で、ですが、鬼ヶ島の追試はどうなるのですか」
「ん?普通は遅刻したんだ。留年確定だろう」
「でもきちんとした理由がある。ラグビー部に聞いてみてください。すぐに俺たちの言葉が本当だってわかりますから」
鬼気迫るように担任に言い寄る千尋。
その後ろの渚は申し訳なさそうに縮こまっていた。
「もう、いい。僕が全部いけなかったんだ」
渚は教師から千尋を引き離さす。
「渚」
二人とも現実を前に、泣きそうな様子で落ち込む。
「おいおい。そんな落ち込むな二人とも。普通ならといったろ?」
担任の言葉に二人は一斉に顔をあげた。
「どういうことですか!?」
「お前らの言い訳を信じたわけではないが、なぜか今回は追試に出る直前で保健室にこもる生徒が多くて人数が集まらなかったんだと。だから、追試は1週間後になった」
担任は少し意地の悪そうな笑みを浮かべて、渚の頭を書類をまとめた紙筒でたたく。
「いい友達をもったな」
「はい」
うれしそうに笑う渚をみながら、内心、停学1週間とこの怪我のことを家族になんて話すかを考える千尋。
「ま、いっか」
と目の前の難問はその声といっしょにとけていった。
それだけで今回は良しとしたい。




