懸けた想いと消えた声ⅩⅤ
「ちょっと八雲先輩。俺らの自己紹介がまだですよ」
八雲の拳を避けながら、千尋はそんなことをふざけて言う。
「そうだぞ、下野。早いやつは女に嫌われるぞ」
「いいんだよ。早かろうと遅かろうと回数で満たしてやれば」
「「なんの話だ!!」」
隣の会話に八雲、千尋ともに動きを止めて、ツッコむ。
「まったく…ませてるな千尋」
「やっさんは奥手中の奥手だからな」
「「……」」
今度は二人して顔を真っ赤にして、動かなくなった。
「なぁ、間宮よ」
「奇遇ですね、八雲先輩」
「「ちょっと休戦で」」
二人の怒りの矛先が隣で殴りあいをする二人へ。
*****
「改めて、間宮家長男の千尋です。以後、よろしくお願いします」
千尋は律儀に一礼をし、もう一度八雲と向き合う。
それに続いて、頭にこぶのできた敏樹が
「前園敏樹です」
涙目でそれだけをいった。
「色々、あったが改めてよろしく」
八雲は微笑みながら、かまえた。
その隣で敏樹同様に頭の上にこぶをつくった下野が涙をこぼしながら屈伸をしていた。
「ふっ」
息を吐く音とともに戦況は動いた。
一瞬にして、八雲が千尋との間を詰めた。
繰り出された拳に千尋は後ろに跳ぶと同時に八雲との距離をとった。
それを素早く察したのか、八雲は腕を振り抜くとそのまま上体を回し、回し蹴りを繰り出す。
流石に避けきれず、なんとか腕を使って直撃を防ぐもののその蹴りの威力は高く、勢いを殺しきれず、千尋は空き地を囲う塀まで飛ばされた。
「ぐはっ」
千尋の口から我慢しきれず、空気が漏れ出す。
「まだまだ」
すぐに八雲は距離を縮め、拳でとどめをさしに行く。
その拳を地面を転がることで千尋は難を逃れた。
「いつまで逃げられるかな
八雲の直線的な殴り。
自分の優勢にすこしの余裕を持ってしまった。
悪くいうとそれは油断だ。
それを千尋は見逃さなかった。
千尋は八雲の攻撃を避けると、その腕を掴み、攻撃の勢いを殺さず、背中に八雲の上体をのせー
「やぁっ!!」
ー投げた。
綺麗な背負い投げだった。
完璧ともいうフォームで、八雲を地面に叩きつけた。
「 」
叩きつけられた八雲は声も出ず、八雲はそのまま意識を失った。
千尋は息をくと、と隣を確認した。
どうやら、敏樹はいち早く終えていたらしく、痙攣して倒れている下野をメチャクチャな速度で写真に納めていた。
「さて、これであとはお前だけだ」
千尋は元凶を指差した。
「はっ!おもしれぇ」
その元凶は独りになっても、未だに笑みを浮かべていた。




