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懸けた想いと消えた声Ⅺ
「女の声を一人、もらい受けに来ました」
颯爽と登場とした千尋と敏樹の姿に周りは唖然とした。
それもそうだ。
たとえ不意打ちだったとしても、そこにいたのは千尋の何倍もある屈強な男たちだったのだ。
それが何人も簡単に吹っ飛ばされた。
それは驚くに価するものだ。
男たちが混乱の表情を浮かべる中、佐熊だけは嬉しそうに笑った。
「いいね。俺は嫌いじゃねえぜ、そういうの。てめぇ、名前は?」
「名前を聞くときはまず自分から名乗れってママンに習わなかったか?」
千尋は挑発的な笑みを浮かべた。
「てめぇ、佐熊さんになめた口を聞きやがって!」
不良の一人が千尋に殴り掛かった。
だが、それはいとも簡単に千尋のこぶしでいなされ、その不良は佐熊めがけて吹っ飛んだ。
「ふっ」
そして、佐熊はその不良をお手玉よろしく上空に蹴り上げた。
「あははははははははは」
「はははははははははは」
佐熊と千尋は馬鹿笑いを浮かべていた。
どん。
にぶい音ともに不良が地面に戻ってくる。
それと同時に二人の足が動いた。




