懸けた想いと消えた声Ⅹ
人通りの少ない裏通りに静かに腰をおろした空き地。
そんな場所に似合わない男たちの歓喜の声と鈍い打撃音。
そこには男の群衆に囲まれた渚の姿があった。
「佐熊さん!!もっとやっちまえ!!」
佐熊と呼ばれた男は男たちの壁から一歩前に出て、渚の顔を覗き込むように腰をおろした。
「おいおい。鬼姫が随分な格好じゃねえか。え?」
「あいつらは…何処…だ」
渚は身体中を傷で飾りつけているにも関わらず、そんな事を声を震わせながら口にした。
「おお!感動だね。そんなにあの男が大事かよ!!」
佐熊は痛烈な蹴りを渚の腹部にいれる。
渚は苦痛の表情をうかべ地面に手をつくが、すぐに立ち上がった。
しかし、その表情は朦朧としており、足は今にも崩れ落ちそうなほどに震えていた。
「ちっ!いい加減、墜ちろや!!」
佐熊が最後のおとそうと拳を振り上げた時だった。
「ぐわっ!!」
響いたのは男の野太い悲鳴と渚と佐熊の間に飛来する男の落下音。
「さ、佐熊さん!!」
手下と思われる男があわてて、佐熊の前に出てきた
。
「どうした!!」
「そ、それが男が二人やって来て、見張りの奴等が止めたんですが、そいつら突然殴り付けてきて」
「その結果がこいつか」
そういって佐熊は目の前に転がる男を足で指す。
手下の男はゆっくりと頷いた。
「俺らに楯突くとはいい度胸じゃねぇか」
「ただ単に単位の危ない生徒を取り戻しに来ただけですよ」
佐熊の声に答えるように男たちの壁の一片が崩れる。
「間宮千尋…女の子一人をもらい受けに来ました」




