懸けた想いと消えた声Ⅵ
渚を探しはじめて、約10分がたとうとしていた。
「いねぇな」
「探しはじめてまだ大して時間もたってないだろ」
と、敏樹の言葉に反論しつつも、千尋も内心では焦りを感じていた。
さすがに学園が広いと言っても渚がいく場所はそう多くはない。それに渚は有名人なだけはあって、珍しい行動に出ればすぐに噂になる。
だから、学園に渚が居るのならばすぐに見つけられるとふんでいたのだ。
だが、現時点で手がかりさえ無い状況だ。
胸のなかを不安が駆け抜ける。
「帰ったんじゃないのか?それか用事ができたとか」
敏樹は頭の後ろで手を組み、まの抜けた声でそんなことを言った。
ずいぶん、呑気なものだ。
「で、でも~」
千尋たちと一緒に渚を探していた三人組の一人が、目を潤ませながら抗議の声をあげた。
「てか、用事ができたなら先生にさすがに言うだろ。実際問題、鬼ヶ島ちゃん、これ落とすとヤバイんだし、先生に聞けば分かるかもよ」
「うん。私たちもそう思って先生に聞いたの」
「でも、先生も聞いてないって」
「だから、探しにきたの」
三人組がこう言っているのだから間違いはないだろう。
では、渚はどこにいるのだろうか。
不思議と千尋は敏樹の様に安易にかまえることができなかった。
何故か、胸のなかの靄を消すことが出来ない。
「あら、どうしたの?」
そんな千尋たちの前に現れたのは、我らが生徒会長さまだった。




