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絶対妹大戦  作者: 長門葵
4章~緊張観覧席の憂鬱~
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緊張観覧席の憂鬱Ⅴ

千尋(ちひろ)(なぎさ)とおちあって早一時間。


千尋の連れである麻貴(まき)と渚はそれまで楽しそうに話していた。


二人とも運動好きという面で相性が良かったのだろう。


千尋もそんな二人を見て安心していた。




・・・が!!



そんな楽しいのほほんとした空気がなぜか今は無い。


そこには吹き荒れる嵐のような鋭い殺気が満ちていた。


なぜ、こんなことになったのだろう。


それはスタジアムに入ってからの話だ。






「さて、どこが空いてるかな」


「あ、見てください。結構前の方が空いてますよ」


二人は千尋の手を握ったまま、楽しそうに自由席の前の方へと駆けて行った。


「おお、結構良い位地かも」


「うん、すごい見やすいね」


「早く来ただけはあるな」


三人は笑顔で頷いた。


さっそく座ろうとした時、渚が胸を張って


「私が通路側に座ろう」


と言った。


千尋がその行為に甘んじて、一番奥の席に座ろうとすると渚がそれを止めた。


「その、なんだ・・・お前はこっちに座れ」


「え、なんで?」


「その、ええっと、あれだ・・・妹さんは僕の隣じゃ気を使ってしまうだろ」


「あ、そっか。なら・・・」


そう言って千尋は渚の隣に腰を下ろした。

そこまでは良かったんだ。麻貴も「楽しみぃ。番長のホームランこないっかなぁ」と楽しそうにしてた。


そして、野球の試合は始まった。


すぐに周りは人で埋まったが、良いことに千尋の周りは小さな子供ばかりで試合を見るのに支障となるものはなかった。


販売員がが隣を通ると渚がそれを呼びとめた。


「僕は塩ポップコーンを食べるけど、何か食べる?」


「う~ん、じゃあキャラメルの方を一つ。あとコーラを二つに白ブドウを一つお願いします。麻貴は何か食べる?」


「私はいいや」


麻貴は試合から目を離さず、千尋の声に返事する。


「二千円になります」


「はい」


渚が財布を出す前に千尋はすばやく支払いを済ませた。


「すまん。僕のも分を払うよ。いくらだ」


「いいよ。これぐらい男に払わしてくれなきゃ恰好がつかないだろ。それよりコーラでよかった?」


「え、そんなポップコーンも払ってもらったのにジュースまでももらえないよ。そ、それに、僕・・・炭酸苦手なんだ」


「じゃあ、こっちの白ブドウを飲んでくれない?」


「へ?」


「いや、さすがの俺でもこんなには飲みきれないからさ。もらってくれるとうれしいな」


「あ、うん。ありがとう」


「どういたしまして。って言ってもお願いするのはこっちなんだけどね。あ、麻貴はコーラでいいよな」


「うん。ありがとうお兄ちゃん」


千尋が言ったことは大半嘘だろう。すくなくとも渚はそう感じた。麻貴は普通に千尋の手からジュースを受け取っていたから、千尋にとって当たり前のことなのかもしれないが少なくともそこまで気を使える人を渚は知らない。


「番長だ。ばぁぁんちょぉぉぉう」


「おお、やっぱりテレビで見るのより迫力あるな」


申し訳なさでうつむいてる渚の気持ちをいざ知らず、千尋は座りながら感嘆の声を上げる。渚はそんな千尋をみて何かを決心したかのようにうなずいた。


「な、なぁ、間宮」


「ん?なに」


「そっちはおいしいか」


「うん。やっぱり、こういうの見ながらの食べるのはポップコーンだね」


「そ、そうか。私にもくれないか」


「ああ、どうぞ」


「ん、ありがとう」


そう言って渚は千尋の手に持つ容器から少量取り出して口に運ぶ。


「ん、なかなか」


「やっぱり、キャラメルだよね」


「こっちだっておいしいぞ」


少し対抗するような口調で言う渚。そのまま、少し指でつまみ千尋の前につきだす。


「ほら、口をあけろ」


「え?」


「は、早くしろ」


「あ、あーん」


そのままポップコーンを千尋の口に放り込む。千尋は何回か味わうように口を動かした。


「ど、どうだ」


「ん・・・結構、おいしいね」


「そ、そうだろ」


渚は嬉しそうに笑った。それを見て千尋は少し顔が熱くなるのを感じた。


「むぅ、お兄ちゃん。私も食べたい」


「ほら」


千尋が容器をさしだすと麻貴は頬を膨らませ、じっとそれをみつめた。


「食べさせて」


「え、いきなりなんで」


「た・べ・さ・せ・て」


「まったく、しょうがないな」


そういいながら麻貴の口元までポップコーンを運ぶ。麻貴はそれをあ~んと言いながら口を開け、おいしそうに食べた。


渚は本当に仲のいい兄弟なのだなぁと思って見ていた。


しかし、次の瞬間その考えは変わった。


麻貴は挑発的な視線で渚を見た後、千尋の腕に抱きついた。


「ありがとう、お兄ちゃん」


「なっ!!」


「ま、まきぃ?」


千尋は驚きの声を上げた。麻貴はそれでも離れようとはしなかった。


「・・・っく」


渚はくぐもった声を漏らした。


その後、渚は顔を真っ赤にしながら千尋の手を握った。


「なぁ!!何してるんですか、鬼ヶ島さん!!」


「ちょうど盛り上がってきたんだ。いいじゃないか?」


すこし声を上ずらせながら、渚は立ちあがった。

周りもちょうど番長と言われる選手のヒットで波を起こしている時だった。


「ま、麻貴は何しているんだよ。お、鬼ヶ島も対抗してそんなことしなくとも・・・」


「「間宮(お兄ちゃん)は黙ってて」」


「・・・・・・・はい」


なぜか怒鳴られてしまった千尋はその場で字の如くで恐縮してしまった。


「それより、こっちの白ブドウ飲んでみないか?」


「そ、それは・・・」


「わ、私はお兄ちゃんのコーラ飲みたいな」


「お、お前は自分のがあるだろ」


「むむむ」


「そうだぞ。麻貴ちゃんは自分のを飲みたまえ。ほら間宮、飲んでみろ」


無理やり口にストローを差し込まれ、白ブドウのジュースを飲みこまされた。


「あ、か、関節キス・・・」


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


千尋はもちろん、その事態にやっと気付いた渚も顔を真っ赤にしてうつむいた。


「くっ、やりますね鬼ヶ島さん」


「麻貴ちゃんこそ」


なぜか二人の間で火花が散っていた。



それから試合が白熱するのと同時に二人の小競り合いも激しくなっていった。千尋としては両腕に抱きついているのは美少女なわけでうれしくないわけがないのだが、一人は義妹でもう一人はクラスメートだ。そんな状況を素直に喜べるほど無神経な性格を持ち合わせてはいない。


「おお、見ろ。番長だぞ、間宮」


「やっぱりでかいね」


「そ、そうだな」


でかいねと言う麻貴のセリフに違う物を想像してしまった千尋。すぐに顔を真っ赤にしてしまった。


(それにしても麻貴のも成長してるんだな、それに鬼ヶ島も意外と・・・。ってこんなこと考えたらただの変態じゃないか!!)


頭を振り、懸命にその考えを消去する。試合も中盤。早く終わってくれと千尋は心の中で願った。


「な、間宮」


「うん?な、なんだよ」


「僕な、お前がお昼に誘ってくれた時、すごくうれしかった」


「へ?」


「だから、今日はお前と出かけられて良かったよ。本当にあり・・・」


「危ない」


渚の声を観客の声が打ち消した。


次の瞬間、渚の頭に何かがすごい速さで衝突した。


「お、鬼ヶ島!!」


渚はそのまま後ろに倒れそうになったが、すぐに千尋が抱えるように支えた。


すぐ近くに自分の頭に衝突しただろうボールが転がっていた。


それはアナウンスで番長が売打ったホームランボールだったらしい。


「おい、鬼ヶ島!!」


「ナイス・・・・ホームラン」


渚の意識はそこできれた。



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