プロローグ
初投稿です。よろしく御願いします。
新学期をむかえて、高校二年になったばかりの僕は、これから一年間このクラスメートたちと一緒に過ごすのかと、意気揚々と、期待に胸ふくらませて教室へ足を踏みいれた。
しかし、その教室のなかに一つ、ある異様な空間を見つけてしまった。
僕は驚愕した。
クラスメートのなかに、一人の……いや、一人と言っていいのだろうか、そのなかに「それ」は紛れ込んでいた。
僕は、まず自分の目を疑った。疑わずにはいられなかった。自分の目より先に、「それ」を疑うべきなのに。
「それ」は、ほかのみんなと同じように席に坐り、同じようにこの高校の生徒をしていた。
ここは、ただの公立高校の教室。サーカスの舞台でも、動物園でもない。そこに「それ」は居てはいけないのだ。
居たらふつう大騒ぎになるはずだ! それなのに、今、僕以外に疑問を抱いている者は一人もおらず、こうして興奮しているのは僕一人だけだった。
天変地異でも起こったのかと、それとも、秘密組織が送り込んだスパイなのではないかと、銀河の果てから地球を襲撃しに来たのかと、いろいろなことを想定したがどれも現実的ではない。
机と椅子がきれいに並べられた新二年三組の教室のなかに、ぽっかりと大きな黒い穴が開いて異物が出現したような感覚で、なのにそれを誰もいっさい気にしない異様な雰囲気に教室はつつまれていた。
でも、そう感じているのはきっと僕だけなのだ。
その日から、僕は学校でずっと、「それ」を追いつづけた。
追いつづけていると、ある日、気がついたことがあった。「それ」は、何を言っているかわからなかった。何をしゃべっているのか理解できないという意味だ。話す言語が、人間の言葉ではなかった。もちろん、日本語ではないし、英語でもない、ドイツ語でも、フランス語でも、イタリア語でも、中国語でも、スペイン語でも、他のどの言語でもない。
もちろん僕は、すべての言語を習得しているわけではもちろんないし、英語の成績もあまりよろしくないけれど……でもこれだけはわかる。――「それ」の言葉は言葉として成立していないのだ。言葉を話すというよりは、うなっていると言ったほうが正しい。いや、鳴き声、か。
だからもちろん僕は、「それ」とまだ会話したことがない。しようにも、何を言っているかわからないから、できないのである。
しかし、ほかのクラスメートたちは普通に会話をしていた。あの鳴き声が理解できるのだろうか。義務教育で習わなければならなかったのだろうか。僕だけが、知っていなければならないことを、知らないだけなのだろうか。
僕が間違っているのだろうか?
「それ」のことが気になって気になって、夜も眠れない日がつづいた。
新しい生活と、人間関係で気をつかい、疲労はあったはずなのに、夜になるとそのことを思い出し、考え、混乱して眠れなくなった。
「それ」の性別は、たぶん女子だった。なぜそう思ったかは、彼女の着ている制服が女子用だったから。スカートを穿いているのだ。
近くによるのも恐ろしかった。だから、あまり近寄らないようにしていた。
遠くのほうから、こっそりと見ていた。
こっそりではあるが、じっくり見ていた。
見たことを、精一杯、理解しようとした。
理解できないことが、大半だった。
生物の研究員にでもなったみたいだった。
探偵の気分でもあった。
そして今も、僕は、彼女を観察している。