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STAR☆MYTH  作者:
第2章 医者のたまごと旅の僧
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棒殴り

 カーリンが来てくれたおかげで、険悪だったダルドとウィルを何とかなだめることができた。なだめる、というより、とりあえず引き離しただけだけど。


 そこで一度、それぞれが今どういった事情なのか話してみることになった。どう考えてもあたしを中心にややこしいことになっているわけで、敵対する必要なんてないはずなのに険悪ムードなんてごめんだもの。




◆棒殴り◆





「んじゃ、リン族の里に来た旅の僧って、やっぱウィルだったんだ」


まずは、いつもは来るヤハマの地に現れなかったウィルの話。姿を見せたときに察した通り、リン族の里を放ってヤハマの地に来るのは気が引けて、落ち着くまではとここに残っていたらしい。


「やっぱりってことは、予想はしてたのか? この頭で」


こらウィル、あたしの額をつっつくな。


「でも、何でこんなところにいんの、ウィル。ヤハマの地に来なかったし、もうミーノの谷に行っちゃったのかと思ってたよ」


つつくウィルの手を払いのけて、あたしは尋ねた。


「ああ…まあなんていうか、成り行きで」


成り行きかい。


「…さすがセイラの知り合いだよな」


聞こえてるぞ、ダルドっ。あたしは奴の頭に一発、張り手を入れた。


「まあ、それでカーリンがここにいる理由もわかったね」


「ええ、ウィルさんのお手伝いさせてもらっているんです。任せ切りというわけにもいきませんし」


頷くカーリン。


「しっかし、ウィルが女の子と、なんて。珍しいこともあるもんだね」


ウィルは…なんていうか、いつもレディーファースト。戦闘になったとしても、絶対女の子には戦わせない。つまり、フェミニストなのだ。そのウィルが、女の子と一緒に戦いに来ているとは。


「セイラ、ジェラってる?」


「…どこをどう聞いたらそう取れるのか聞きたい」


寄ってくるウィルに、あたしはジト目になった。「ちぇー」とウィルは口を尖らせ、そっぽを向いた。ううむ、こいつ相変わらずだな。


「ところでセイラ。君こそなんでここに? ヤハマの地からミーノの谷へ行くにはちょっと道がそれてるんじゃないのか?」


「うーん、まあかれこれしかじか、わけがあってね」


あたしは言葉をにごらせる。ウィルに知られても特に困ることはないのだが、カーリンにはちょっと、ね。


 ちら、と思わずカーリンへ視線をやると、「ふぅん」と呟くだけで、ウィルはそれ以上なにも突っ込んでこなかった。


 さっきウィルには、ダルドが邪鬼と敵対関係ということも言ってあるし、何となくは察してくれているんじゃないだろうか。あいつ、頭はいいし。


「ま、詳しくは後で話すとして…とにかく今は、そこのダルドと一緒にミーノの谷に向かってるんだ。かれこれ1週間くらいかな」


「…まあ、そんなもんだろ」


ね、とダルドの顔を覗き込むと、ダルドが頷いた。


「あのう、セイラさま」


それぞれの話があらかた済んだのを察した頃、カーリンがおずおずと口を挟んだ。


「なあに?」


「あの、わたしの力で良ければ、治せますけど…その、痣」


言われて思い出す。そういえば、さっき四天王の男にやられたままだ。両腕や、短パンからブーツの間の太ももに、何かが巻きついたような痕がくっきりと残っていた。


「うげ」


自分の姿を見下ろして、思わず口から出た。うーん、もう痛みはないけど、何だかえぐいな。


「失礼しますね、セイラさま」


カーリンがあたしの前にしゃがみこみ、左腕をとった。そこに彼女は自分の右の手のひらをかざした。桃色の光と、日向ぼっこをしている時のような暖かい感覚が、あたしの左腕を包んだ。あ、なんか気持ちいい。


 みるみるうちに、真っ青になっていた痣は薄くなり、あっという間に痕も残さない。


 ほほう、ウトチテレコの時に見てはいたが、実際やってもらうと改めて凄さを実感する。痛みも緊張もまったくなくて、暖かさが心地よい。


「そうだ、ダルド」


あたしは自身の痣を指差して、


「これ。なんだったの? あんたなら、何か知ってるんでしょ」


ダルドは頷いた。しかし彼が答えるより早く、ウィルが口を挟んだ。


「もしかして、“影使い”じゃないか?」


「…知ってるのか」


「さっきの攻撃技と奴の格好を見ればすぐにわかる。これでも旅の僧だからね。…わかった、セイラ。説明するよ。影使いっていうのは、呼び名の通り影を操る悪魔のことを言うんだ。セイラ、何か変なものに捕まっただろう? あれの正体は影なんだよ」


「影って、足元にある、これ?」


あたしは自分の足元にある黒いそれを指差した。


「そう、それだ」


今度はウィルに変わってダルドが答えた。


「少し前まであいつは、影を操るといっても、影を作り出している奴…たとえば今、セイラの足元にある、これ」


ダルドは両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、あたしがさっき指差した自身の影を足で指した。


「これを動かして、セイラを捕まえるとか、攻撃するとか。そんな程度だった」


「…さっきもそうじゃなかった?」


しかしダルドは頭を振る。


「違うな。オレはおまえに、『木の陰に隠れていろ』って言っただろ」


ああ、そういえば。そしてあたしは、それに従っていた。


「じゃあ、さっきのあれって」


「木の影だった。あんなどでかいものまで操れるようになってるとはな…。正直、予想外だった」


ダルドが最後にあいつと会ったのがいつかは知らないが、そう昔ではないだろう。


「それに前は、さっきみたいに地面へ吸い込む、なんて芸できなかったはずだ。ありゃあもう油断できねぇぜ」


そんなにすごいのか…。


「もう捕まるなよ。オレは助けないからな」


「はいはい、分かってますよーっだ」


そんな会話をしている間にカーリンの治療が終わり、全身にあったあたしの痣は、見る間にすべて消えてしまっていた。





「…そうか…あいつが旅の僧か」


それからしばし。あたしの感じ取った邪気の気配をたどってくると、その声が聞こえてきた。


 この声はドント。切り株のひとつに腰掛けている。そばに立っているのは、どうやら女の子のようだ。横顔がこちらから見える。


 その女の子、年はあたしと同じくらい。腰まで伸ばした茶髪の髪をおさげに結い、目つきは鋭い戦士の目。しかし武器を身につけている様子はなく、服装は襟の立ったシャツと、ゆったりめのズボンの裾をブーツで保護しており、なかなかサマになっている。


 体つきが女を主張していなければ、切れ長の目をした綺麗な男の子としても十分通用しそうである。


「フィーネルだ」


下からカーリン、あたし、ダルド、ウィルの順で木の陰から様子を伺っていると、頭の上で、ダルドとウィルが小声をそろえた。


「知ってるの?」


「あいつも邪鬼軍四天王さ。“棒殴りのフィーネル”だ」


ダルドの声に、警戒の色が濃い。何でも邪鬼軍四天王の中では上から三番目だが、四番目のドントとは圧倒的な実力の差があるそうだ。


「“棒殴りのフィーネル”か…。どうりで強さが半端じゃないと思った」


そう呟いたのはウィル。


「戦ったことあるの? ウィル」


思わず尋ねる。それはびっくりだ。


「フィーネルがここらへんの魔物たちをリン族の里に送っていたんだ。僕が戦わないはずないだろう」


ふぅん、あいつがね…ってそうじゃなくて。


「フィーネル…だっけ。あいつ女じゃん。女の子と戦ったの? ウィルが?」


「う゛…戦ったというか、防戦一本だったけど…」


「…やっぱり」


あたしには、ウィルが女の子を相手に戦えるとは思えない。


「おまえの言ったとおり、僧侶がひとり天リン族の女と一緒にまわりをうろついている」


ドントがフィーネルに言った。ウィルとカーリンのことだろう。


「だから言ったろうが」


フィーネルの声は、女の子にしては少し低めだった。ハスキーボイスっていうのだろうか。


「だが、僧侶だけじゃなかったぞ。星天使がいた」


ドントがにやりと笑う。フィーネルの肩が、ぴくりと動いた。


「…間違いないのか?」


「ああ、間違いない。金髪金目だったからな。年の頃も合う。それと、一緒にダルドもいたぞ」


「なるほど。じゃあドルダの報告もまんざら嘘っぱちでもなかったってことか」


「だろうな。あのダルドが『セイラ』なんて名前で呼んでたわけだしな」


そう言っていやらしい笑いをするドント。


 その時また頭上で、ダルドが剣の柄に手をかけた。


「…あいつら斬っていいか?」


ダメに決まってんじゃん。


「まあその話は後にして…」


フィーネルが一番手近な岩に手をかけた。彼女の腰くらいまである、大きな岩だ。


「そこだぁっ!!」


フィーネルが、あたしたちの方に向けてその岩を投げつけてきた!


 やばいっ、もしかしてバレてた!?


 どがごおぉぉおおん!! と、ものすごい轟音をたてて地に当たり、岩はばらばらに砕け散った。地面もしっかりえぐられている。


 あたしたちはというと、とっさにその岩をばらばらに飛びよけていた。カーリンはウィルに助けられたようだが。


「セイラっ!」


ウィルの声が、耳に届いた。


「あたしは大丈夫っ!」


着地に失敗して転んだものの、あたしはすぐに立ち上がった。


「さっきから、そこでこっそり覗いてただろ」


砂煙の中からフィーネルが現れ、あたしたちを睨む。


「誰かと思えば…星天使にダルド。それに、例の僧侶と天リン族か」


ドントが、座っていた切り株から腰を上げた。


「ドント。おまえ、ルージュは?」


「連れてきているわけないだろう。向こうでオレの留守を預かってる」


「…なるほど。行くぞ、ドント」


フィーネルがくるりと後ろに方向転換した。


「そうだな」


ドントも彼女に続く。


 …おい。


「ちょっと…うわっ!?」


フィーネルがあたしたちの方に向かって何かを投げ、それが地面につくと急に大量の煙を出した。


 そして煙が晴れたとき、フィーネルたちの姿はどこにもなかった…。






 結局あたしたちは、リン族の里にあるカーリンの家へ舞い戻っていた。


 あのドルダってやつに見つかってから、どうもあたしは狙われがち…っていうか狙われてばっかりだ。こうなりゃ今のうちに、敵さんについて少しは知っておこう、ということになったのである。


「邪鬼軍のシステムを説明するとだな」


話す中心は勿論、邪鬼軍に詳しいダルドだ。


「まず、一番上はいうまでもなく邪鬼だ。その下に、フィーネル、ドルダ、ドント、ローザの四天王がいる」


「ローザ!?」


ウィルが突然絶叫した。


「知ってるの、ウィル?」


「あ、いや…何でもないさ」


笑ってごまかすウィル。何かありそうだが、とりあえず今は時間がない。いつまたフィーネルたちが来るかわからないのだ。あとでゆっくり問い詰めてやろう。


「…話を戻すぞ。その四天王だが、四天王ってのは名ばかりで、連携だの何だのっていうのはまったくなっていないのが実情だ。実力もバラバラだしな。まあ、詳細はまた後にしよう」


まずは全体像だな、とダルドは続ける。


「それで、その四天王たちの下には、さらに部下がいるんだ。フィーネルの下にはエルードル、ドルダの下にはデールビラ、ローザの下にはライド、ドントの下にはルージュってかんじにな」


ふむふむ。


「こいつらは邪鬼軍の中でもずば抜けて強い。…ま、幹部は大体これくらいだろ。もっと詳しくもできるんだが、セイラが混乱するだけだと思うから省く」


なかなかいい心構えだ。


「あとはさらに下の連中なんだが…邪鬼軍内での連絡の取り合いや、天使たちの行動の見張り、幹部連中が『邪魔者』と判断したやつを始末する…まあ、とどのつまりは雑務だな。要は下っ端連中だから、まとめてかかってきたところでオレたちの敵じゃあないだろ」


ものすごい自信である。


「それにしても、何でダルドくんはそんなに詳しく知ってるんだい?」


ウィルの疑問はもっともである。あたしたちの中で邪鬼軍に詳しそうなのはダルドだけだったから、と思って聞いてみたのだが、予想以上の知識を持っている。システムだけでなく実情まで知っているとは。


「行き当たりばったりに、あんな怪物、相手にできるかよ。…情報源は明かさねぇぞ」


続いて口を開こうとしたウィルは、それを察したダルドに念を押され、言葉をつぐんだ。


「まあ、それはともかく。じゃあさっきあの悪魔たちが退いたのは…」


「多分、ルージュとかエルードルとか、呼びに行ったんじゃないのか?」


カーリンの質問に答えるダルド。ええと、ルージュはドントの部下、エルードルはフィーネルの部下だっけ。


「ダルドくん。敵の攻撃法とかはわかるかい?」


ウィルが訊くとダルドは頷き、


「ああ、大体な。なら、四天王の詳細について話を進めるぞ」


まず、とダルドは切り出した。


「四天王の部下っていうのは、要は四天王候補の連中だ。4人の中でも順位がついていて、席が空けば上から順に四天王入りする」


続けてダルドは自分の右手を出し、人差し指を立てた。


「そして四天王は上から順番に、ローザ、ドルダ、フィーネル、ドント。しかし四天王といってもさっき言ったとおり実力はバラバラだ。まずは一番下のドント。こいつはさっき会ったし、説明もしたから分かるな。影使いだ。そしてドントの下についているルージュは、邪巫女だ。呪いを得意とするらしいが、オレもまだお目にかかっちゃいねぇ」


ダルドの中指が伸びる。ちら、とウィルに視線をやり、


「四天王の三番目、フィーネルは武闘家。おまえは会ったことあるらしいけど、(こん)…身長近くもある長い棒を武器にして攻撃してくる。一見細身だが、あいつの怪力は本物だ。さっき、投げた岩が粉々になったのを見ただろ」


確かにあれはビビったな…あたしには無理だし。


「三番目と四番目、って言い方はしたが…正直な話、フィーネルとドントの実力差は明らかだな。三天王、って言った方が正しいかもしれねぇとオレは思ってる。それで、フィーネルの部下のエルードルは、普通の悪魔に見えるがその正体はアンドロイドだ。フィーネルよりもずっと強い怪力で、一発で地面が割れる」


「アンドロイドって何?」


「人工的に作られた生物のことだよ。…でも、実際にいるのを聞いたのは初めてだ…」


あたしの問いに答えながらも、ウィルは驚きをかくせないようだ。


 続いてダルドの薬指が伸びたが、ダルドはあまり言いたくなさげにその名を告げた。


「四天王の二番目、ドルダ…はセイラには言うまでもないがオレと同じ魔剣士だ。こいつの話はここで終わり」


すぱっ、と話を突然切る。何だろう、絶対ドルダとダルドって変な因縁があるはずなんだけど、そのあたりの事情はまったく話してくれる気はないらしい。あたしは知ってるからいいけど、ウィルとカーリンはちょっとびっくりした様子だ。しかしそこをツッコむ猶予を与えはせず、ダルドは続ける。


「その部下、デールビラは召喚士。いつもセコイ魔物を大量に出してくる。デールビラ自身の力はそう大したもんじゃねぇが、いくらでも戦力を呼べる点が厄介ではあるな」


「ショーカンシって?」


「魔物を呼び出すのさ」


再びあたしの問いにウィルは答えてくれる。


 ダルドの小指が伸びた。


「最後、四天王のトップにいるのがローザって名前の邪巫女だ。つっても、同じ四天王のドントとは格が違う。ドントは影を操るだけだが、ローザは闇を操るんだ」


闇…?


「ローザは、邪巫女や邪僧たちのリーダー的存在だろう。それくらいなら簡単にやってのける…」


「なにウィル。やっぱりローザってやつのこと知ってるの?」


あたしがもう一度尋ねると、ウィルは珍しく言葉を濁らせて、


「その、実は…旅をしている最中、風の噂に聞いたんだ。邪巫女のローザが、イリア様を打ち倒すために邪鬼の味方をした、と…」


「イリアを?」


思わずあたしは聞き返した。


 イリアはあたしの友達で、ミーノの谷に住んでいる天使の巫女だ。あたしよりも年下だが、ずっとしっかりしていて大人っぽい。


 確かにイリアは強い魔力を持っているし、最高巫女頭という、巫女僧侶の取締役をしていて地位もある。でも、恨みを買うような子じゃないのに…。


「イリアってのは確か、巫女頭だな。確かにローザのやつ、何があったか知らねぇが、やたらイリアって巫女を目の敵にしていたぞ」


ダルドは顎に手を当て、眉間に皺を寄せる。


「ライド…ああ、ローザの部下で、光を飲み込んで闇を生み出す、ってローザと組むと厄介なことこの上ない能力を持った邪僧なんだが…必ずそいつを置いて、ひとりで出て行くんだ。どうやらミーノの谷に行って、イリアって巫女にちょっかいかけているらしい、って噂はあったがな」


「えー、イリアにそんな話、聞いたことないけどなあ…」


あたしは腕を組む。まあ、イリアはあんまり自分の話はしない子だから。こっちが聞かないと「聞かれなかったから」って理由で何も言わんという、けしからん性格してるやつではあるのだが。


「よし、一回まとめよう」


ウィルが、ぽんと手を叩いた。


「邪鬼軍は邪鬼をトップにおいて、四天王は上から“邪巫女のローザ”、“魔剣のドルダ”、“棒殴りのフィーネル”、そして他と実力は劣るが一番下に“邪僧のドント”。その下に四天王候補、兼、直属の部下として、邪僧ライド、召喚士デールビラ、アンドロイドのエルードル、邪巫女ルージュの4人がいる、と」


ダルドが頷くのを確認し、ウィルは続ける。


「じゃあ次は、僕らがどう対抗するかだけど…」


言いかけたウィルの言葉が止まる。外から突然、悲鳴が聞こえたのだ。


「来たかっ!」


ウィルが飛び出し、続いてあたし、ダルド、カーリンも飛び出す。


 外では魔物が数匹、リン族の里を襲おうとしていた。


「セイラさま、あれ!」


カーリンがシャウナの上を指差した。その魔物の頭上には、4つの人影が見えた。


「フィーネルとドント…それに、知らない悪魔がふたり。女と男だよ」


自慢じゃないが、あたしの視力は獣並み。しっかり魔物の頭の上にいる4人の姿をとらえていた。


 女の方は、青い髪のポニーテール。茶色いハイネックのジャンパースカートの下に紺色のズボンをはいた、20歳くらいの悪魔だ。


 男の方は緑の髪が少しぼさぼさに伸び、青い服に迷彩柄のズボン、黒い編み上げブーツをはいている。年は判断がしにくいが、あたしたちよりは上に見える。20前、といったところだろうか。


「ダルド! 星天使! ここにいるのはわかってんだ、とっとと出てきな!!」


フィーネルが怒鳴った。


 あちゃー、やっぱりあいつらの狙いはあたしらか。


 あたしは少し頭を抱えた後、そいつらに向かって怒鳴った。


「ちょっとフィーネルっ! 一体何の用だがしらないけど、さっきからここにいるじゃんか! ちゃんと見なよっ!!」


当然、連中の視線はあたしの方へ集中した。来るなら来いっ!


「なんでぇ、んなとこにいたのかよ」


フィーネルが魔物の頭から降りて、あたしたちの目の前に着地した。ドントとふたりの男女もそれに習う。


「…何だ、誰かと思えばデールビラとエルードルだったのか」


そう言ったのはダルド。このふたりがデールビラとエルードルらしい。ということはこのエルードル、アンドロイドということになるようだが、それにしちゃ他の悪魔と変わらない。


「…ちょっと待った。ねぇダルド、デールビラってさっきの話じゃドルダの部下じゃなかった? 何でルージュじゃないの?」


あたしはダルドの肘のあたりをつついた。


「そうだけどオレが知るかよ。ルージュは遠くてすぐには呼べなかったとかそんな理由じゃないか?」


なるほど。


「セイラ。ここで戦うとまずい。とりあえず、森まで誘導しよう」


ウィルが耳打ちしてきて、あたしも頷いた。確かにここは集落のど真ん中だ。


「レッツゴーダルド!」


あたしはダルドの長髪を引っつかみ、ウィルとカーリンと森の中へ走っていった。


「いてててて、ひっぱんじゃねぇセイラ!」


ダルドの怒鳴り声は、とりあえず無視! 今はそんなことを言っている場合ではないのだ。フィーネルたちは、すでに追いかけてきている。


「きゃっ!?」


森の中を疾走し始めてから大して経っていない頃、突然カーリンが倒れた。その足には、おそらくドントの技なのだろう、影だと思う物体(なのか?)が巻きついていた。


「オーロラ!」


ウィルの放った光でカーリンの足に巻きついた影が一瞬消え、ただの影に戻った。


「そこまでだぜ、ダルド、星天使!」


ついに、フィーネルたちに追いつかれた。



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