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STAR☆MYTH  作者:
第1章 ひとりぽっちの星天使
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コントラのふもとの魔物

「邪気に取り付かれた魔物や悪魔が右往左往する土地では、大抵、そこを取り仕切る上位の悪魔がいる」


ダルドの言葉通りに、あたしが一番強い邪気を感じるところまで行くと、見るからに怪しい建物がひとつ、無雑作に建っていた。


「…明らか怪しいよね、これ」


壁一面に広がる大きな扉。その開け放たれた扉から出入りする魔物や悪魔。どんなバカが見ても、絶対ここに何かある。…あたしだってわかるぞ。


 ちなみにさっきもめたのは、ダルドの方が根負けした。あたしは勝利したのだ。はっはっは!


「それで、どうする? とりあえず中の様子を伺って…」


「なぁに悠長なこと言ってんのさ、リンゲル」


不思議そうな顔をするリンゲルに、あたしはきっぱりと言った。


「強行突破するよ」






「侵入者だ~~~~~っ!!」


奥の方で、悪魔たちの動揺する声が聞こえた。これだけ手荒に堂々とつっこんできたあたしたちに、侵入者もなにもないもんだ。


「セイラ! 邪気はどこから感じる!?」


近くの魔物を斬り倒し、ダルドが言った。


 そんなこと言われたって、まわりは邪気に取り付かれた奴らばっか…ん?


「地下! 地下から、こいつらよりも強い邪気を感じる!」


「地下ぁ!?」


ダルドとリンゲルの声がきれいにハモり、ふたりは立ち止まる。


 そんな目で見ないでよ。本当に地下から感じるんだから仕方ないじゃん。


「しょうがねぇな…一番強く感じるのはどこだ?」


「ちょうどここら辺だよ。真下にいるんじゃない?」


あたしは自分の足元を指差した。


「ここか…」


ダルドは背中に背負っている剣を抜いた。…っておいおい、まさか…。


 あたしの予感を裏付けるように、ダルドは天井まで飛び上がり、そのまま急降下して剣を床に突き立てた!


 おまけに、魔力をこめて。


「どわあぁぁぁああ!?」


あたしとリンゲルは一緒に吹き飛ばされた。


 あたしたちが起き上がると、ダルドが剣を突き立てた所にひとりが余裕で通れるくらいの穴が開いていた。


「おまえら、なに寝っ転がってんだよ」


ぶっ飛ばしたのはあんたでしょうが!


「…でも、ここからならわざわざ入り口をさがさなくても入れるね」


リンゲルがすぐに口を挟み、あたしとダルドはそちらを振り向く。


「よし、行くぞ」


あたしたちは、地下へと潜入して行った。






 地下へと潜入したのはいいが、とことん深かった。ちなみに、飛べないあたしはしっかりダルドにつかまっている。


 ただ、邪気の気配がだんだん近づいていることだけは確かだった。ここの土地を取り仕切っている上位の悪魔がいることは、間違いなさそうである。


 あたしたちは、地下の底へ着地した。罠はなかったようだ。


「…随分暗いな」


リンゲルがぽつりと呟いた。


 地下は、暗かった。互いの顔を判別するくらいなら出来るが、文字を読んだり辺りを観察するにはあまりにも暗すぎる。明かりくらい用意しておいてほしいものである。


「伏せろ!」


突然ダルドに頭をぐいと下に下ろされ、あたしは勢い余って床に顔面直撃!


 …い…いひゃい…。


 その瞬間、あたしたちの頭上を何かがかすめて行った。それはあたしたちを通り過ぎ、近くの壁に当たって壁ごと轟音を立てて崩れ落ちた。


「ちっ、はずしたか」


飛んできた方から、男の声がした。


「その男がいなけりゃ、当たっていたんだろうけどな」


蛇のような目に、青い髪。黒いマントを羽織った背中から生える悪魔の羽…。


「おっと、自己紹介が遅れたな。俺はマゼゴットだ。おまえらの予想の通り、ここの土地を取り仕切っているのはこの俺さ」


「…あいつから、邪気を感じる…」


あたしが呟くと、ダルドは背中の剣に手をかけた。


「へぇ…おまえが相手をしてくれるってのか?」


ダルドの動作を見て、マゼゴットが言った。


「だが俺は…そんな気はないんでな!」


マゼゴットの影から、たくさんの魔物が一気に飛び出してきた。


 これが、戦闘開始の合図となった。







 あたしの正拳突きが、まともに魔物へ直撃した。よっし、これで10匹目!


 あたしやダルド、リンゲルの手にかかれば、この程度の魔物など朝飯前だ。だが、数が果てしない。倒しても倒してもまったく減らない。


「だ~っ、もうっ! これじゃあちっとも終わらないじゃんか!」


そう叫びつつ、あたしは魔物を2、3匹まとめてぶっ飛ばす。


 …あ。1匹が、ダルドに直撃した。


「いってぇな、何しやがるセイラ!」


怒鳴るダルド。「痛い」の一言で終わるところはすごいと思う。


「あっはっは、ごめ~ん。流れ弾だよ、流れ弾」


「ふん…チームワークってもんがおまえらにはないようだな」


そんなあたしたちを見て、マゼゴットが言った。


「所詮おまえらは悪魔と天使。そんなに一緒にいたいのなら、貴様らまとめて片付けてくれる!」


マゼゴットが、突然あたしに向かって飛び掛ってきた。


「うわあっ」


一声あげて、あたしはさっとそれをかわした。


「貴様が星天使:星来だろう。四天王の方から、情報は来ている」


「四天王…?」


聞き慣れぬ言葉に、あたしは眉を顰めた。


「四天王って一体…うおうっ」


あたしはまた、マゼゴットの攻撃をかわす。


「四天王って誰だよ」


「貴様に教える義理はない。それより、さっさと攻撃くらって大人しく死ね!」


遊んでいるかのように攻撃をかわすあたしにいらだってきたのか、マゼゴットは懐からナイフを出し、あたし目掛けて投げつけた。


「やだよ、あたしまだ死にたくないもん」


ひょいと体をひねるだけで、あたしは簡単にそれをよける。


「このアマ、俺にケンカ売ってんのか!?」


おちょくられているとでも思ったのか、マゼゴットが魔法攻撃をかけてきた。


「っだぁっ!?」


さすがにこれはあたしもビビった。よほど癪に障ったらしく、マゼゴットは逆上してひたすらどかどかと攻撃魔法を放ってくる。


「大人しく殺されろ、星天使!」


「アホかっ! 大人しく殺されるバカがどこにいるんだよっ!!」


そんな風に逃げ回っているうちに、いつの間にかダルドたちの姿が見えなくなっていた。隣の部屋に入ってしまったらしい。扉はないが、壁があたしとダルドたちの間に隔たりをつくってしまっている。


「やばっ、うそっ! ダルド、リンゲル!!」


あたしがうろたえたその時。マゼゴットの攻撃魔法の一発が飛んできた。


 ――――しまった!


 マゼゴットの攻撃を、あたしは避けきることが出来なかった。爆風に押され、あたしは近くの壁に思い切り叩きつけられる。


「あうっ!?」


 …くぅ…。


 わ…わりと打たれ強いと自負してはいるが、今のは効いた…。呻くだけで、体を起こすことが出来ない。


「ったく、手間をかけさせやがって…」


マゼゴットが、歩み寄ってくる。


 ピンチだ。あたし自身は動けないし、ダルドやリンゲルはいない。


 どうする。


 ああもう、礼拝会だからとヤハマの地を出てからの短いこの期間のうちに、二度も命の危機に瀕するなんて。星天使なんてくそくらえ。邪鬼だってあたしは知らない。何でこんなかたちで巻き込まれるんだよ。


 自分の運命に苛立つ。しかし理不尽な命のやり取りに、大人しく自分の命を差し出す気もさらさらない。足掻いてやろうじゃないか。


 ひとつだけ、あたしには切り札がある。しかしそれは、幼い頃にたった一度だけ出来たもの。今、当時と同じように出来る保証はない。


「これで最後だ、星天使!」


マゼゴットが、特大の攻撃魔法をしかけてくる。


 ――やられてたまるか!


 迷っている暇はない。あたしはマゼゴットに向かって、ある言葉を放った。





「流星群!」




まわりが、あたしの言葉に反応して光に包まれた。そして―――――







* * * * *


「セイラ!」


あたしが呆然としていると、ダルドとリンゲルがやっと駆けつけてきた。


「セイラ様、無事だった!? マゼゴットは…」


「あそこで伸びてるよ」


リンゲルの問いに、あたしは自分の後ろを指差した。そこには、伸びて倒れているマゼゴットの姿がある。


「…い、一体何があったんだ? 急にまわりが明るくなって…」


どうやらリンゲルくん、混乱しているようである。無理もないが。


「ああ、あれね…あたしもよくわかんないけど、あたしが一発攻撃したらこんなんなっちゃったの」


あたしの説明に、ダルドとリンゲルはまったくもってわからないと言った。


 仕方なしに、少々時間はかかるが詳しく説明した。


「…じゃあ、その『流星群』っていうのは一体?」


「さあ」


あたしは両手を肩の高さにまであげ、お手上げのポーズを取った。


 あの『流星群』という技は、あたしがまだ小さい頃に遊んでいたらたまたま出て、それから放ったまま今日の今日まで忘れていたのだ。まさかこんな所で役に立つとは夢にも思わなかったが。


 ともかく―――――


 これで、コントラのふもとでの戦いは幕を閉じた。







 * * * * *


「いろいろありがとう。本当に助かったよ」


魔物たちの後片付けが終わると、リンゲルが言った。あたしはぱたぱたと右手を振り、


「いいのいいの。それより、リンゲルはこれからどうするの?」


「僕は、とりあえず実家に帰るよ。その後にミーノの谷の礼拝会だろうね。祖母がひとりで留守番しているから、帰ってやらないと」


「そっか」


「うん。…じゃ、気をつけてね」


「おまえももう魔物ごときにやられそうになるなよ」


皮肉を言うダルド。


 こうして―――――


 あたしとダルドは、再びミーノの谷を目指して歩き出した。


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