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STAR☆MYTH  作者:
第1章 ひとりぽっちの星天使
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ユーラス使い

 ダルドはどうやら、ずっとひとりで旅をしているらしい。故郷はと聞いたが、忘れたという返事だった。本当かどうか分からないが、まあ別に知ってどうということもなし。


 しかし、一体どうやったら邪鬼軍と対立できるのだろうか。あたしのように、星天使に生まれたわけでもないのに。けれどこの答えはたった一言、「ただの成り行き」だそうだ。


 そんな中、最初の集落にたどり着いたのは、あたしとダルドが一緒に森の中を歩くようになって、数日後のことだった。


「“コントラのふもと”さ」


隣で、ダルドが地名を教えてくれる。何でも、東のほうにある大きな山の名前がコントラ山というらしく、それが地名の由来らしい。


「へ~え、初めてきた」


あたしは集落を見渡した。


 そんなに大きな集落ではなく、のんびりした雰囲気の天使たちが行きかっている。


 あたしとダルドはまっすぐミーノの谷を目指すのではなく、少し外れたルートを取っている。まっすぐ正規のルートを取れば、ククたちと遭遇してしまう可能性があるからだ。それだと分かれた意味がない。だが別のルートはあたしにとって初めての道のりで、いろいろ目移りするのは事実だった。あたしがヤハマの地を出るのは、礼拝会のためにミーノの谷へ行く時だけ。思えば、滅多にあの地から出ていなかったのだ。


「おい」


きょろきょろ見渡していたあたしは、首根っこをダルドにつかまれた。


「とっとと宿を探した方がいいんじゃないのか? 陽は、とっくのむかしに暮れてるぜ」


ダルドに言われ、あたしは空を見上げてみた。陽はすでにコントラの山の奥へ姿を隠し、空は真っ暗。星が光っている。


 あ。流れ星。…おいしいものがいっぱい食べられますよーに…。


「ねえ、ダルド」


「何だよ」


「あの、ドルダって奴は―――…」


言いかけて、あたしは黙った。


 幾度か試みてみたこの話題。今回も、ダルドの殺気にも近い苛立ちの気配を感じ取って、あたしは言葉をつむぐことにした。気になることは気になるのだが、ダルドを怒らせると後々面倒なことになりそうだ。


「…何でもない」


こいつ、つかめないなぁ。あたしは早々に会話を諦めて、素直に宿探しに乗り出した。




 そして、夜。


 あたしは、ゆっくりと目を開けた。近くに、殺気を感じたからだ。


 おそらく、狙いはあたしだろう。もしダルドだったらとっくに騒ぎが起こっているはずだし、こんな近くに殺気を感じるはずがない。だいたい、ダルドは宿に泊まるのを嫌がってどこか近くの森で野宿をしているはずである。


 それに。


 あたしは、まわりから感じ取っていた。


 あの時あたしを襲ってきた、アムジャーラやドルダと同じ気配を…。ダルドの話では、おそらくこれは邪気、つまり邪鬼(ジャキ)が悪魔たちを操るために使う術の気配。


 邪鬼にとって、星天使であるあたしは邪魔者以外の何でもない。今まで何もしなかったからといっても、これから邪鬼が世界を支配しようとするならば、あたしは嫌でも邪鬼と戦わなければならない。そうなる前に、邪鬼はあたしを始末したがっているらしい。あたしが力をつけた後では、絶対に自分はかなわないのだということを邪鬼は知っているから。


 …って、呆れ顔でダルドが教えてくれた。


 まぁ、それはともかく気を取り直して。あたしはこっそり起き上がると、毛布を丸めて布団の中に入れベッドの下へもぐりこんだ。


 しばらくすると、気配は扉の外に感じた。この気配の数からすると、3、4人はいるだろう。もちろんその気配は、部屋の鍵をこじ開けて中に入ってきた。ゆっくりと、あたしの…ベッドのほうへやってくる。そして…


 どすっ。


 鈍い音が、真上でした。刃物を刺し貫いたのだ。その瞬間、あたしは力一杯ベッドを蹴り上げた。


「うわあぁぁああっ!?」


「何だぁっ!?」


重い音が、閑静な村の宿屋に響いた。


 敵は3人。まわりにはもう殺気を感じないから、多分こいつらで最後だろう。


 そろってがっちりした男の悪魔たちで、あたしが蹴り倒したベッドの下敷きになっている。不意打ちをくらったうえに、このベッドは結構重かった。そのためだろう、連中はきっちり気絶していた。


「よっこらせっ」


あたしがベッドをどけて気絶中のそいつらを縛り上げたとき、窓からダルドが現れた。


「おい、セイラ!」


ダルドは部屋の光景を目にして、少し硬直した。


「…やっぱりここか…でも一体、何があったんだ?」


「ああ、平気平気。寝てたらこいつらが襲ってきたんで、倒しておいただけ」


「倒しておいた、って…おまえそんなに強かったのか?」


そういえばあたし、ダルドの前では戦った事なかったなぁ…いつもダルドが倒してくれるから。


 だって強すぎるんだもん、こいつ。あたしの出番なんてないよ。


「まあね。それよりダルド、何であんたはここに来たの? あんた、森にいたんでしょ?」


「…村の中に、殺気を感じた。確かめようと思ったら案の定、邪鬼軍の奴らが囲みやがってな。ま、全員、返り討ちにしてやったけど」


ということはダルド、ひとりで戦っていたようである。その割には騒がしい音など聞こえなかったのだが…こんな化け物並みに強ければ、下っ端連中なんて赤子の手をひねるようなものだろう。


「さて、どうする? こいつら」


「とりあえずふん縛っとけよ。目が覚めて騒ぎ出したらうるさいだろ」


うるさい、で済むんだからダルドだよ。



「…で、けっきょくどうしたの? 夕べの連中」


「ああ、おまえが泊まってた宿屋の主人に言って引き取ってもらった。…どうなったかは知らん」


おいおい、薄情だなぁ。


 あたしたちは朝早くに宿を発ち、いつも通り森の中を並んで歩いていた。優しい風の音は、まるで風の精霊たちが、楽しそうにおしゃべりをしているかのようだ。


「そういえば今日の朝、森の方から騒がしい音が聞こえた気がするんだけど。ダルド、昨日は森にいたんでしょ? 何かあった?」


「それなら知ってる。どうやらこの森の先に、ユーラス使いがいるらしいぜ」


「ユーラス使い?」


「ああ。ここらはよく魔物に襲われるらしくてな。魔物退治を頼んだらしい」


「…ユーラス使い…」


ぴーちくぱーちく鳥が鳴く。


「…ユーラス使いってのはな…」


しばらくの後、ダルドが疲れたように口を開いた。


「簡単に言っちまえば、ユーラス魔法を使う奴さ。ユーラス魔法ってのは、ある天使の家系にだけ伝わる特別な魔法で、自然を操るってやつらしいぜ」


「ほうほう。で、そのユーラス使いってぇのがここいらにいる、ってこと?」


「行かないからな」


あたしの心を見透かしたかのように、別のことを即答するダルド。


「どうせおまえのことだから、『ことのついでに会いに行こう』とかなんとか言い出す気だろ。行かないからな」


出会って数日の付き合いだというのに、何でこいつはあたしの思考を読めるんだ。


「何でぇ~っ?」


「おまえはミーノの谷に行くんだろうが。寄り道してどうする」


ちぇっ、ダルドのけち。…ん?


 あたしはふと、足を止めた。


「どうした?」


つられてダルドも立ち止まる。


「…邪気の気配がする」


答えたとたん。


 あたしは急に、ぐいと後ろに引かれた。えっと思うまもなく、地面が足から離れてゆく。


 …ってちょっと待てーっ!!


「うわわわわーっ! ち、ちょっとダルド! 飛ぶのは勝手だけどあたしを下ろせ!!」


「どっちだ!?」


あたしの抗議は無視らしい。この赤髪剣士は!


「え、えっと、あっち…ってちょっと待ったぁ~!?」


あたしが指差すと、ダルドはあたしを連れたままそっちへ向かって飛んでゆく。あたしは、思わずダルドにしがみついた。


 ここで告白してしまうと、あたしは羽があるくせに飛べない。その証拠に、あたしの羽は他と…比べなくても十分小さい。


 なぜなら前にも言ったように、あたしは魔法より体を動かすほうが好きだし、楽しい。それと同じように、空を飛ぶより走り回ったほうが好きだった。小さい頃から。


 結果、あたしはまったく飛ばないために羽が成長しなかったのだ。


「あ~、ここ、ここ! ここら辺からするよっ!」


通り過ぎそうなダルドに言うと、ダルドは急降下を始めた。


 ちょっとおぉぉお!?


 あたしは叫びだしたいのを必死で堪え、再び強くダルドにしがみつく。


 こっ…この借りは絶対に利子付きで返してやるっ!


「いたけど…何だ、魔物かよ」


着地すると、ぜえぜえ息を切らせているあたしを無視してダルドは木の陰から覗き込んで言った。不満そうに。


 …こ…こいつは…っ…!


 後ろからとび蹴りぶっかましてやろうかとも思ったが、今はそんなことでもめている場合ではない。あたしも立ち上がってダルドの傍まで行き、同じところから覗き込んだ。するとさっそく魔物が視界に入って来たが…何あれ。見たことがない魔物だ。


「ダルド、あの魔物は何?」


「あれはシャウナだな。蛇みたいに体が長いだろ。別に特別気が荒い、ってわけじゃないが、敵に回すと厄介だぞ。長い体を利用して、巻きついてきやがる。下手すりゃ窒息死さられちまうから気をつけるんだな」


ダルドは魔物について詳しい。名前だけでなく、弱点や気をつけるべき点などは必ず踏まえていて、一緒に教えてくれる。もっとも、顔はすっごく面倒くさそうなんだけど。


 しかしダルドが説明してくれた、そのとき。


 西の方角から、ものすごい爆音が地面を揺さぶった。


「何だ?」


「わからないけど…行ってみよう!」


あたしたちは、音のした方向へ走り出した。



「ユーラス、葉よ!」


少年の言葉に反応し、あたりの葉が宙に舞って魔物を取り囲む。


 あたしたちが爆音のした場所までたどり着くと、ひとりの天使の少年が魔物の群と戦っていたのだ。少年といっても、あたしやダルドよりは年上だが。


 しかし、魔物の方が圧倒的に多い。このままだと少年の魔力が尽きる方が早いだろう。思うが早いか、あたしは様子を伺うべく身を隠していた茂みから躍り出ると、前の魔物で手一杯になっている少年の後ろに迫っていた魔物の方へ駆けた。


「でえぇい!!」


そろそろ勘付いた人もいるかもしれないが、あたしは考えると同時に動くタイプだ。いや、考えなくても体が先に動くタイプだ、と言い換えようか。ともあれあたしは駆け寄ると、早々に魔物を1匹蹴り倒す。


 突然の出現に驚く少年。あたしの突飛な行動にももう慣れたと思っていただろうダルドも、目を点にしている。へっ、ざまぁ。


「…き…君は…?」


少年は、やっと言葉を出した。


「バカ、何してやがる!」


あたしの後ろに迫っていた魔物を、ダルドが斬り倒した。


「あ、ダルド」


「『あ、ダルド』じゃねぇだろ。いちいちオレまで巻き込むな」


「なんだよっ、あんたが勝手にやったんじゃないのさ!」


「それが助けてくれた奴に言うせりふか!」


「なにを…っと、こんな掛け合いしてる場合じゃないや。とりあえずここの魔物たち、みんなまとめてぶっ飛ばすよ!」


ダルドはまだ何か言いたげだったが異論はないらしく、舌打ちしてから、あたしと並んで魔物に向き直った。





 少年の名前はリンゲル。あたしとダルドがさっき話していたユーラス使いで、黄緑色の髪をした背の高いさっぱりした少年だ。魔物退治のためにここへ来たはいいが、邪気のせいで植物たちの力も弱まり存分に戦えなく、リンゲルの体力も限界に来ているらしい。


「ところで、君たちは? 何で星天使様が悪魔と一緒に?」


あれ、あたしのこと知ってるの?


「そりゃあ、金髪だし、セイラって名前だし、ミーノの谷で見たことあるし」


リンゲルが言ったとき、どこからか地響きが轟いてきた。


「…本当に魔物が溢れかえっているらしいな、ここは」


ダルドが呟いた。あたしも頷いて、顔を顰める。


「うん、そうみたい。邪気の気配がびんびん感じるし。よくいられるね、こんなとこ」


「僕は普通の天使だからね。邪気は感じないんだ」


…ユーラス使いというのは、普通でないランクに入らないのだろうか。


「ねぇ、ダルド」


「いやだ」


…おい。


「まだ何も言ってないじゃんか」


「聞かなくてもわかる。どうせガッツポーズとって『魔物どもしばき倒しに行こう』とか言うんだろ」


「おおっ、よくおわかりで!」


ぱちぱちと拍手をしてやる。


「おまえとある程度一緒にいりゃこれくらいわかるっつーの」


呆れ顔で言うダルドの服を掴み、


「わかったんなら話は早いやっ」


「待てっ! わかったのと行くのとは別問題だぞ!」


何でぇ~っ?



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