自分で自分のことを助けてやれ。そのためのことは、教えてやれる。
視点変更。
お母さんが好きだった。
いつもあたしに構ってくれなかったけど……
機嫌が悪いと、あたしのこといきなり怒鳴ったり、叩いたりされたけど。
でも、お母さんが好きだった。お父さんがいなくて、二人だけの家族だったから。
働いてるお母さんに迷惑掛けないようにって、いい子にしてた。お母さんの助けになれたらと、頑張って家事もするようにした。
いい子にしてれば、お母さんはいつかあたしを愛してくれるって、抱き締めてくれるって……信じていた。ずっとそう願って、必死に縋っていた。
あたしが家事できるの見たらお母さん、あんまり家に帰って来なくなったけど。
あたし、頭はそれなりに良かったみたいで。家で勉強しなくても塾に行かなくても、学校のテストではいい点数が取れてたし。
成績優秀で、いい子だって言われてた。そういう評価をもらうようにしてた。
お母さんが大好きだったから。
でも、でも……お母さん、あたしのこと嫌いだったみたい。
ある日のことだった。
お母さんが久し振りに帰って来て、
「アンタなんて産まなければよかった! そうすれば、わたしは自由だったのにっ!? アンタのせいでわたしは幸せになれないっ!?」
いきなりそう言って、血走った目で包丁持って、あたしのこと殺そうとした。
あたし、お母さんのこと好きだったから。
あたし、馬鹿だったから。大好きなお母さんのこと、人殺しにしちゃいけないって思って、包丁持って向かって来るお母さんから逃げた。そして……
「そっか、ごめんね? お母さん。あたし、死ぬから自由になってね?」
そう言って、窓から飛び降りた。
ドンっ!! って、強い衝撃が頭にあって。ガッシャーンっ!! って、なにか硬い物が割れるような音と一緒に、なにかが潰れるような感覚があって――――
これで、お母さんが人殺しにならずに済むって安心したら……意識が飛んだ。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
――――で、こっからがなんとも言えないんだけどさ?
あたし、幽霊んなったみたいなんだよねー?
ぼんやりとしてたら、いつの間にか知らない人達があたしの家で暮らしてて。
偶~にあたしのこと視えてる子とかいて……なんか、あたし今血塗れみたいで怖がらせちゃってさ? びっくりしてギャン泣きさせて、気味悪いって引っ越しした家族もいた。
脅かして申し訳ないなぁって。で、そう言えば、今着てるパーカーにフードあったわって思い出して。フード被ることにしたワケよ。
黒のパーカー。お母さんが珍しく機嫌が良かったときに、「これ可愛いでしょ?」って。あたしに買ってくれたの。フード被ると頭に猫耳付いてるやつ。お気に入りなんだ。
これ被ってると、顔隠れるから。偶~にあたしのこと視える子がいても、あんまり怖がられなくなったワケ。猫耳可愛いってさ。
まあ、フード取ろうとする悪ガキには、ちょっと困るんだけどね?
で、幽霊って初めてなったし。どんなことできんだろ? って。家から出られるか試して、出られることに気付いて。あちこちふらふらしてさ?
また気付いた。なんか、あたしのこと視える人と視えない人がいる。
子供は赤ちゃんとか、物心付く前の子が視えてたりするっぽい。あたしのフード視て、にゃんにゃんって言って笑ったり、手ぇ振ったりするし。
大抵の大人には視えてないんだけどさ? 霊能力ってやつ? そういうのあるっぽい人は、あたし以外の幽霊も視えるっぽい。
あと、なんて言えばいいかな? 普段は視えてない普通の人でも、酔っぱらってたり、変なクスリで頭トんでる人とか? タガが外れて激昂してる人とか? 死にたがってる人とか? 怪我や病気で弱ってる人とか? そういう人にも、視えることがある。
でも、そうじゃない子は……
共通点を、見付けてしまった。
あたしのことがハッキリ視える子は、親に虐待を受けていて……なのに、自分を虐待している親のことが大好きな子が多い。または、虐待を受けていて、虐待をする親のことは大嫌い。だけど、身体や心が弱っているような子。
そういう子が、比較的あたしのことが視えて、声もちゃんと聴こえるっぽい。
すっごく嫌なことに気付いたぜ……なんて思ってふらふらしていたら――――
ニュースを、見てしまった。
とある女が、子供を虐待死させたというニュースだった。男の子と女の子の二人。
容疑者の女は、再婚。以前にも子供がいて、その子は自殺だったが虐待死の可能性もあり――――という声が流れて行った。
ニュースの、アナウンサーの言っている意味がわからなかった。
いや、わかって……しまった。
お母さん、だ。あたしの、お母さん……だった、人のことを言って……いた。
お母さんが、再婚して……多分、あたしには弟と妹が生まれていて?
お母さんが、男の子と女の子を虐待して殺した。そういう、残酷なニュース。
ああ、あたしは、間違っていた。
間違えた。
あたしは、お母さんを殺人犯にしたくなかったから、飛び降りたのに。
死んだ、のに……?
間違ってた、間違ってた、間違えた、間違えた間違えた間違えた間違えた間違えた間違えた……あたしは、間違えたっ!!
お母さんは、人殺しになった。
あたしにしてたことを、また繰り返して……もっと、もっと酷いことをした……?
あのとき、あたしを殺して……ううん、殺さなくても、大怪我とかさせたお母さんが、警察に捕まってればよかった。
そしたら、あたしの弟妹は生まれて来なかったかもだけど、でも、お母さんに虐待されて殺されることはなかった。
あたしは、間違えた。
赦せなかった。赦せなかった。赦せない、赦せない……お母さんを、お母さんのことを大好きで……お母さんを、犯罪者にしたくなかったという甘い考えをしていた自分が。
あたしは間違えた。
間違えたから、だから……
顔も知らない、生まれたことすら知らなかった、お母さんに殺された弟妹みたいな子が、少しでも減るように……と。
今日もあたしは、あたしのことが視える子に話し掛ける。
「あ~あ、全く。ビービービービー泣いてりゃどうにかなると思ってるガキって、ホント大っ嫌い。バーカ、早く泣きやめ」
虐待されてるクセに、その親のことが大好きな子に言う。馬鹿だった自分を重ねた、苦い思いで。
「あんなクソ親、早く嫌いになればいいのに。ホント、お前って馬鹿だよなぁ。あたしはな、そんな馬鹿ガキが大っ嫌いなんだよ」
早く、あたしのことが視えなくなればいい。
あたしは、あたしのことが視えてしまう子が嫌いだ。
あたしは幽霊だから、泣いてる子になにもできない。なにもしてあげられない。殴られてるのを止められない。触れない。怪我の手当てもしてやれない。頭を撫でてあげることもできない。あたしの声が聴こえる子に、声を掛けることしかできない。
だから、自分で動け。
自分で自分のことを助けてやれ。そのためのことは、教えてやれる。
ごはんがもらえる場所。とりあえず、子供食堂なんかで直近の飢えは凌げる。まあ、ごはん食べて少し元気になると、あたしのこと視えなくなったりするけど。
あと、あたしにできるのは……性質の悪い奴に引っ張られそうになったら横から介入してやるくらい? いるんだよな、自分が寂しいとか、生きてる奴が羨ましかったり、とにかく世の中を恨んでて、誰彼構わずこっち側に引き込もうとするクソ共がさ?
これくらいしか、してやれない。
自分で動いて、自分を助けてやれる子は……連れ出してやれる。
「あたしやお前の親に復讐したいなら、幸せになれ。で、人に迷惑掛けたと思ったら、それに感謝して他の誰かに優しくしてやれ。お前の親が、できなかったことだ。親にできなかったことを、お前が他の人にやってやれ」
じゃあな、って。クソ親みたいになるな、って。こんな風にしか伝えられない。
「あたし、お前みたいな馬鹿でグズなガキ大っ嫌いだから。もう二度と会いたくない。でも、元気で暮らせよ」
二度と、こっち側に来るなよ? 長生きしろ、な~んて思いながらお別れしてやるんだ。
クズ共と、そしてあたしみたいな悪~い幽霊との悪縁をスッパリ切って幸せになんな。
親でも身内でも恋人でも、悪い縁なら、自分や自分の大切なものを害して、傷付けるようなことしかしない相手からは逃げていい。
自分を愛してくれない人を、血縁だからって無理に愛そうと思わなくていい。
自分が壊れるまで我慢なんてしなくていい。罪悪感だって、持つ必要は無い。そういう悪縁は、捨てていいんだ。
あたしは馬鹿だったから、幽霊なってようやく気付いたけどさ?
アンタ達は、あたしが視えない状態が正しい。元気になれば、命の危機が遠のけば、あたしのことを認識できなくなる。
そしたら、あたしも安心できるし……顔も知らないで見殺しにしちゃった弟妹のことが、少しは浮かばれるような気がするんだ。
だから、これから楽しいことをいっぱい経験して、誰かにたくさん愛されて、誰かを心から愛して幸せになんな……と、心から祈ってる。
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
おねーちゃん『うん? あたしの言葉がキツい? もっと優しい言葉掛けてやれって? ヤーだね』(*`艸´)
『なんでって? そりゃ下手に懐かれても困るからだよ。あたし幽霊だし、ずっと一緒になんていられないじゃん。挙げ句、幽霊になる! とか言われたらもう最悪だし?』┐( ̄ヘ ̄)┌
『だから、あたしが視えて声が聴こえるような子達には、ああしてわざと嫌われるようなこと言ってんの。改めるつもりなんてないね』(`・∀・´)




