最終磨き上げ版『雨宿り』
夕立に追われ、僕たちは逃げ込むように古いバス停へ滑り込んだ。 トタン屋根を叩く雨音は、まるで乱れたドラムロールのように響き、 濡れたアスファルトの匂いが、肺の奥まで満たしていく。
会話の途切れた沈黙を埋めるように、僕はぽつりと呟いた。
「レイ・チャールズに空の色を教える? 悪いけど、あいつの目は最初から曇っている。 だから僕たちは、目の前に真っ白な雲を突きつけてやるのさ。 『ほら、お前の目とお揃いだぞ』ってね」
君は呆れたように眉をひそめたけれど、その表情は雨音に溶けて、どこか優しく見えた。 僕は続ける。
「けれど……本当に伝えたいのは雲じゃない。 雲が集まれば、やがて雨が降るだろう? 僕たちが待っているのは、その雨なんだ。 ずっとこらえてきた涙を、空が代わりに流してくれる、あの雨を」
吹き込む風が冷たい。けれど、不思議と寒くはなかった。 僕は屋根の隙間から、鉛色の空を指差した。
「だから、諦めずに空を指差し続ける。 彼が光を“見る”必要なんてない。 魂で感じ取ってくれれば、それでいい。 音楽はきっと、その雨のように降り注ぐものだから」
雨脚は弱まるどころか、世界を閉ざすように強まっていく。 僕は君の方を向き、少しだけ声を張り上げた。
「一緒に濡れよう。 涙も雨も、音楽も同じだ。 それが僕たちの約束だ」
そして最後に、照れ隠しの苦笑いと共に付け加える。 「――レイン・チャールズ、なんつってな」
雨音と君の忍び笑いが混じり合い、 僕たちの胸に、確かな旋律を刻んでいた。




