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婚約破棄寸前だった婚約者が、前世の記憶を思い出したと言って溺愛してくるのですが  作者: 侑子


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16/21

寂しい

 アルトゥール殿下にからかわれた日以降、ベルダ様は普段の剣術の訓練や座学の勉強に加え、しっかりと魔法の練習をすることにしたらしい。


 アルトゥール殿下は人をからかうのが好きなだけだから気にしないでください、と言ったのだけれど、ベルダ様はいつか殿下と対戦する時に負けたくないからと、頑として首を横に振った。


 今は、家庭教師を雇って魔力の扱いの向上を目指し、魔法戦闘の戦術の指南も受けているそうだ。


 さらには、最近は登下校を共にしていたのに、学園の授業が終わってからも自主練習に励みたいから、先に帰っていてほしいと言われてしまった。その後毎日のようにしていた放課後のお茶会も、しばらくは止めておきたいと。まさに苦渋の決断を下したというような彼の顔を見ると心配になってしまったけれど、彼の頑張りたいという気持ちは、応援しなければと思う。


 ……だから、会える時間が減って寂しいなんて、思ってはいけないわよね。


「あぁもう……」


 想いを自覚してから、自分の気持ちのコントロールが上手くできなくて、困ってしまう。


 私は侯爵家の次期当主として、心を乱さず、常に冷静でいなくてはならない。それを常に実行してきた自負もあるのに、こうも簡単に覆されてしまうなんて、由々しきことだ。何か、いい解決策でもあればいいのだけれど……。




「わーっ! ちょ、待っ、ゴフッ」

「ベルダ様! 大丈夫ですか!?」


 魔法戦闘の授業中、練習相手としてベルダ様に軽い風魔法を撃っていたのだが、多方面から飛来する魔法の対応に焦ったようで、避け切れず直撃してしまった。けれど彼はすぐに、手を振って大丈夫だと示した。


「平気平気。あー、くそぉ。やっぱり、戦闘中咄嗟に魔法使うのって、すごく難しいんだよなぁ……キャパオーバーすると、一気に混乱して身体が固まるし」


 ベルダ様は魔法戦闘の授業に出るようになってから、魔法を使いながら戦うやり方に、ずいぶん苦労しているようだった。彼は今まで、戦闘においてはほとんど剣術しか使ってこなかったのだから、それも当然かもしれない。けれど魔法も戦術に組み込むことができれば、取れる選択肢が大幅に広がるため、できれば身につけておくべき技術だ。


「ごめん、ルナリア。もう一回、お願いしてもいい? 今度こそ、上手くやるから!」

「はい、わかりました」


 ……ベルダ様がこんなに頑張っているのですもの。寂しくても、婚約者としてきちんと応援しなくては。




「ふむ。ラングストンも、そろそろ一度対戦に参加してみるか?」


 基本的なルールを学び終えたベルダ様は、先生から魔法戦闘を行う許可を得た。そこで、初めは気心が知れた人の方がやりやすいだろうと、初めての対戦相手は私が務めることになった。


「うう……全然やりやすくないんだけど。ルナリアと戦うなんて嫌すぎる。魔道具があるからダメージはないってわかってても、ルナリアに攻撃するの辛い……」

「大丈夫ですよ。対戦の授業で怪我をすることなんて、滅多にありませんから」


 魔法戦闘は、特殊な魔道具を身につけて行う。それぞれが魔法を使って攻撃し合うと、受けたダメージは身代わりの魔道具に蓄積されるので、安全に訓練できるというわけだ。蓄積されたダメージは色で分かるようになっているため、先に規定量のダメージを受けた方の負け、というわけである。


「そうかもしれないけど、ルナリアに攻撃するっていうのが、もう無理……やっぱり先生に言って、別の人に変えてもらおうかな……」

「ベルダ様ったら。……では、やる気を出すために、アルトゥール殿下の言っていたような賭けを、私たちもしてみるというのはいかがですか? 負けた方は、勝った方のお願いを一つきくんです」

「……え?」


 ベルダ様がぎょっとした顔でこちらを見た。何やらとても期待の籠った目をしている気がする。あまり難しいことを言われても困るのだけれど。


「もちろん、無茶なお願いはなしですよ?」

「おあっ、う、え、ううう、うん。え、ていうかいいの? 本当にいいの?」


 あまりにも挙動不審だ。一体私に何をお願いしたいのかわからないけれど、とてもやる気が出たらしい。無茶なお願いはなしと言ったし、問題ないわよね。


「もちろんです。でも、ベルダ様。私が勝った場合は、私のお願いをきくのだということを、忘れていませんか?」


 なんだか、彼は自分が勝った時のことばかり考えているような気がしたので、一応釘を刺しておく。


「うん、大丈夫だよ! むしろルナリアのお願いなら、賭けなんかなくても、何でもきいてあげたいし! 何かお願いがあるなら、今言ってくれてもいいんだよ?」

「……今は特にありませんから、考えておきますね」


 そう言って苦笑したこの時の私は、彼にあんなことを願おうと思うなんて、考えてもいなかったのだった。


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