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婚約破棄寸前だった婚約者が、前世の記憶を思い出したと言って溺愛してくるのですが  作者: 侑子


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からかい上手の王子様

「ルナリア! 食堂へ行くよね? 一緒に行こう」

「ベルダ様……」


 お昼休みになると、とても楽しそうな笑顔のベルダ様から声をかけられた。最近はほとんど毎日お昼を一緒に摂っているので、それはいいのだけれど、彼の表情が、それはもうおかしなほどにニコニコなのである。


 彼がどうしてずっとこんなに嬉しそうなのかは、すでにわかっている。先日の一件以来、彼はいつもこの調子なのだ。


「ベルダ様ったら、もう。いつまでそんな風に笑っているのですか?」

「え、笑ってる? 笑ってるかな?」


 彼はぐにぐにと頬を押さえて取り繕おうとしているけれど、全くできていない。軽く睨むと、へらりとした笑顔が返ってきた。なぜ。


「ルナリアがあまりにも可愛いから、顔を見れただけで嬉しくて、つい笑顔になっちゃうんだよ。別に変な意味はないからね?」

「……もう」

「はぁ~俺の婚約者が可愛い~幸せ~~」


 そんな楽しそうなベルダ様の言葉が嬉しくて、また顔が赤くなってしまいそうだったので、さっと背を向けて歩き出す。


「さぁ、もう行きましょう」

「あっ、待ってよ、ルナリア!」


 すぐにベルダ様が横に並ぶ。その顔は、まだだらしなく崩れていた。


 ……本当に、仕方のない人ね。


 そんな私たちの後ろから、誰かの声が飛んできた。


「やあ、ルナリア、ベルダ。君たちも食堂へ行くのかい?」

 

 振り返ると、そこには爽やかな笑顔を浮かべたアルトゥール殿下がいた。相変わらず、何を考えているのか読めない、完璧な笑顔である。


「ごきげんよう、アルトゥール殿下」

「アルトゥール殿下に、ご挨拶申し上げます」


 二人で礼をとると、殿下は軽く手を振った。


「堅苦しいのはやめてくれと、いつも言っているだろう?……そういえば、ベルダと話すのは、ずいぶんと久しぶりじゃないかな?」

「……そうかもしれませんね」


 私は少し心配になって、ベルダ様をちらりと見た。表情が、先ほどとはまるで違う、社交的な笑みに変わっている。


 ベルダ様は以前、私とアルトゥール殿下の仲を誤解して、婚約破棄しようとしていた。私が知る限り、二人は昔から仲が良かったわけでも悪かったわけでもないはずだけれど、もしかしたら、勘違いし始めた頃から、ベルダ様は殿下を避けていたのかもしれない。


「私も今から食堂へ向かうところなんだ。良かったら、一緒に行っても構わないかな?」


 少し気まずくはあるけれど、そう言われてしまえば、断るわけにもいかない。私たちは、三人で一緒に食堂へ向かうことになった。


「ところで、二人はいつの間に、それほど仲良くなったんだい? 少し前までは、義務的な婚約者という空気が抜けていなかったのに」


 ……殿下。そんな、他人のデリケートなところに突っ込んでくるのは止めてください。心なしか、目が好奇心でキラキラしていませんか? いえ、あからさまなわけではなく、親戚で幼い頃から交流のある私だからわかる程度の変化ではあるのですけれど。


 抗議の視線を送ったが、殿下がこれくらいではめげないことを、残念ながら私は知っている。私が殿下と無言の攻防を繰り広げていると、ベルダ様が口を開いた。


「私が子供っぽい意地を張るのを止めて、ルナリアに歩み寄っただけですよ。彼女は優しいですから、ありがたいことに、関係を築き直すチャンスをいただけました。婚約者として、これからは彼女に寄り添っていけたらと思っています」

「ふぅん。そうなの? ルナリア」

「……はい。ベルダ様は、近頃とても頑張っておられるのですよ。彼が精霊に加護を頂けたのも、もしかしたらそのおかげかもしれませんね」

「ルナリア……」


 二人で微笑み合っていると、殿下の目が面白そうに細められた。


 ……嫌な予感がするわ。


「それは素晴らしいことだね。そういえば、ベルダは精霊の加護を得たことで、魔法戦闘の授業にも参加することになったんだろう? 今度、是非手合わせ願いたいな」

「……!?」


 魔法戦闘の授業は、魔法理論や魔法実技の授業と違い、魔法において一定以上の技術を持つと認められた生徒しか出ることができない。ベルダ様は、つい先日受けることが決まったばかりの授業なのだ。


「殿下。突然、何を言い出すのですか? ベルダ様は、まだ実際に魔法戦闘の授業を受けたこともないのですよ。それなのにもう対戦なんて、気が早すぎると思います」


 殿下は私と同じく、幼い頃に精霊の加護を得た、魔法のエキスパートだ。魔法戦闘は実戦的な訓練を目指しているため、魔法が主軸にはなるが、体術も有効だ。だからベルダ様が全く戦えないわけではないと思うけれど、殿下は体術もある程度鍛えていらっしゃるし、本格的に魔法の練習を始めて日が浅いベルダ様とでは、まだ勝負にならないはずだ。そんなこと、殿下はわかっているはずなのに。


「もちろん、すぐにとは言わないよ。君が充分に魔法戦闘の授業に慣れた頃で構わないさ。どうだい? ベルダ」


「……私はまだ授業の詳細を存じ上げませんが、ここで約束などせずとも、講義内容に対戦が含まれているならば、殿下とも授業中に対戦する機会はあるのではありませんか?」


「いや。対戦は、実力が近い者同士で組まされるんだ。君はまだ精霊の加護を得て日が浅いから、僕と君が自然と組まされる機会は、きっとしばらくはないだろうね。だけど申請して認可がもらえれば、対戦相手を指名することもできるんだよ」


「……」


 私は二人のやりとりを、黙って聞いていた。

 殿下の意図がわからない。彼は人をからかうのが好きだけれど、弱いもの虐めをするような人ではないはずなのに。一体何がしたいのだろう。


 訝しい視線を向けると、殿下は含みのある笑みを浮かべながら話を続けた。


「実はね。このシステムを使って対戦し、負けた者は勝った者の願いをきく、という賭けを行う生徒も少なくないんだ。かくいう僕も、一度やってみたいと思っていたんだよね。まぁ願いと言っても、課題の協力だったり学食を奢ったり、大したものじゃないことが大半だけれど」


 殿下がいたずらっぽく口端を上げた。


「過去には、意中の女性の、婚約者の座を賭けて争った生徒もいたらしいよ?」


 ……ちょっと、殿下? ただでさえ以前に私たちの仲を誤解されていたのだから、そんな言い方をしたら、まるで私を賭けの景品にでもしようとしているみたいではないですか!


「殿下」


 私は見ていられず、ベルダ様と殿下の間に割って入った。


「悪ふざけも、大概になさってくださいませ。それに、確かそのお話は婚約者の座ではなく、同じ人に心を寄せた二人の男性が、単にどちらが先に想いを伝えるかを賭けたというお話のことではありませんか?」

「おや、そうだったかな?」


 ……わざとらしいんだから。大体、家と家の契約でもある婚約を、学園の授業の対戦結果なんかで決められるわけがないでしょう!


 そんなやりとりをしている間に、ようやく食堂の入り口が見えてきた。


「ふふ。我がはとこ殿がお怒りのようだから、今日はこの辺で失礼するよ。ちょうど、友人を見つけたことだしね」


 じゃあまた、と爽やかに手を振って、アルトゥール殿下は食堂の座席近くにいる友人の元へと去っていった。


 本当に、殿下と話すのは疲れるわ……。


「……俺、最近ちょっと浮かれすぎだったみたい。魔法の練習、めちゃくちゃ頑張ろうって、今決意した」


 そう言って殿下を視線で追うベルダ様の目が据わっているように見えたのは、気のせいだと思いたい。


 そうして私たちは、アルトゥール殿下とはなるべく離れた席を選んで座り、昼食を摂ることにしたのだった。



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