表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『Echoes of Logos 外伝 ― 化物浦見、北の帝都に吠ゆ。―』  作者: ちょいシン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/33

第十七話 迦楼羅、夜空に舞う

山小屋に現れた謎の男。その気配は妖怪とも人とも異なる。クロと一本だたらが膝を折るほどの存在――迦楼羅との邂逅が始まる。

 山小屋の扉が、低く軋む音を立てて開いた。

 夜の山から吹き込む冷気が、焚き火の火を一瞬揺らす。

 そこに立っていたのは、深いフードを目深に被ったひとりの男。


 男は足音も立てず小屋へ入ると、重々しい声で告げた。

 「――風里偉殿の使いである」


 その一言に、真一郎は眉をひそめた。

 (……殿? 様じゃなくて?)

 違和感が胸にひっかかる。だが、それ以上に、男の放つ圧に、全身が粟立つ。


 山頂に近づくにつれ、真一郎は風里偉の気配や妖気に敏感になっていた。クロや一本ダタラを遥かに凌ぐ力。それだけでも常人の耐えうるものではない。

 しかし、目の前の男は――それを超えていた。


 妖気とも違う。人の気配でもない。

 まるで宇宙そのものを凝縮したかのような、果てのない重さ。

 真一郎が息を飲んだその瞬間、クロと一本ダタラが同時に地へ伏した。


 クロは少女の姿のまま、額を床に擦りつけるほどに深く頭を垂れる。

 一本ダタラは、その巨体を小さく縮めるようにして膝を折った。


 (……クロも一本ダタラも、こんなふうに……?)

 真一郎の心に驚愕が走る。


 「……妖怪でも、人でもない……?」

 つい口から漏れた独り言に、クロがはっと顔を上げ、血相を変えて叫んだ。


 「頭が高いぞ、真一郎! この御方こそ――迦楼羅(かるら)様!」


 その名を告げられても、真一郎は呆気にとられるばかりだった。

 「……か、るら? 何だ、それ」


 フードの奥から、くぐもった笑い声が響く。

 「ハハハ。僧侶の息子でありながら、我を知らぬか。気に入ったぞ」


 その声音は、遠い山々に反響する鐘の音のように重厚で、美しい。


 クロが改めて声を張る。

 「迦楼羅様は神であらせられる! 炎を御身とし、すべてを焼き尽くすお方! 烏天狗を束ねる族長にして、不動明王の光背に顕れる存在なのだ!」


 「……神?」

 真一郎の思考がぐらりと揺れる。

 妖怪がいることは受け入れた。神の噂も耳にした。だが――目の前に現れるなど、あり得るのか。


 迦楼羅は一歩進み出ると、ゆっくりとフードを外した。


 焔が弾けたように、小屋の空気が変わる。

 そこに現れた顔は、鋭いくちばしを備え、黄金の瞳を燃え立たせた鳥のかたち

 背から広がる翼は炎を思わせ、羽ばたくたび赤光を散らして小屋の壁を染めた。


 真一郎は、その異形に息を呑む。

 (これが……神……)

 膝が震え、床に落ちそうになるのを必死に堪えた。

迦楼羅、その姿は炎をまとった異形の神。真一郎の前に現れた意味は何か。次回、彼の言葉が旅路に新たな影を落とす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ