試験直前ラブコメカオス
受験前夜。
(……まずい、心臓がやばい)
ベッドに寝転びながら、俺は天井を見つめていた。眠れない。焦りと緊張と、それに妙なドキドキがない交ぜになって、思考がぐちゃぐちゃだ。
(ああ……なんでこんなに、落ち着かないんだ……)
その答えは、簡単だった。
——夕方、送られてきたメッセージ。
《涼、試験頑張ってね。信じてるから。》——凛
《ねぇ、合格したらさ……ちょっと、デートとかしよ?》——奈央
《落ちたら一生恨むけど、受かったら褒めてあげる。……たっぷりね》——楓
(いやプレッシャーで死ぬわ!!!)
どのメッセージも、全力で俺の精神を揺さぶってくる。特に奈央の「デート」とか、楓の「たっぷり褒める」とか、破壊力高すぎだろ。
唯一、凛のメッセージだけが清涼剤……かと思いきや、「信じてる」の一言が、逆に俺の責任感を刺激してくる。
(落ちたら、あの三人に顔向けできねえ……!)
覚悟を決めた俺は、布団を蹴飛ばして机に向かった。
「最後の追い込みだ……!」
——命をかけた夜が始まった。
ーーーー
翌朝。
(あああああ、眠い……)
寝不足のまま試験会場に到着した俺は、放心状態だった。周囲の受験生たちは緊張で顔が引きつっているが、俺はそれすら上の空。
(やべえ……記憶が……どこかに飛んでる……)
「涼!」
そこへ、元気な声が飛んできた。
見ると、奈央が手を振っている。制服のスカートをひらひらさせながら駆け寄ってきた。
「おはよっ! 寝れた?」
「……全然」
「だろうねー。だって、あんなメッセ送っちゃったし?」
にやにや笑う奈央。ああ、やっぱりわざとだったんだな、あれ。
(罪深すぎるだろ、この女……)
そこへ、さらに楓が。
「……おはよう。涼、顔色悪いわね」
心配そうに眉をひそめながら、そっと俺の額に手を当ててきた。
(うわっ、近い……)
冷たい指先が額にふれて、一瞬で体温が上がる。いや、これ絶対余計に熱出るやつ。
「涼、だいじょうぶ?」
今度は凛。心配そうな瞳。黒髪ロングがさらさら揺れて、天使みたいに見える。
俺の中で、理性のゲージがゴリゴリと削られていった。
(ああもう、誰か助けてくれ……)
ーーーー
試験直前、控室。
席に座った俺の周囲には、当然のように三人が陣取っている。
「涼、鉛筆貸して」
「消しゴム忘れたから、分けてくれる?」
「……こっちの参考書、どっちがいいと思う?」
直前まで、俺にべったりな三人。
(これ……普通に考えて、集中できるわけないだろ!?)
俺は心の中で叫んだ。
(頼む、普通に緊張させてくれよ!!!)
でも、そんな俺の叫びもむなしく、三人は俺を囲んでやいやい騒ぎ続ける。
「ねえ、試験終わったら、どっか寄り道しない?」
「カラオケとか?」
「それとも……どこか静かなところで、二人っきりとか」
それぞれがそれぞれの爆弾を投下してくる。
(なにこの精神攻撃ラッシュ……)
もはや試験よりも、このドタバタに耐えるほうが試練だ。
ーーーー
試験開始のチャイムが鳴った。
「……じゃ、みんな、がんばろうな」
絞り出すように言った俺に、三人がそれぞれうなずいた。
「涼も、がんばってね!」
「負けたら許さないから」
「涼なら、大丈夫。信じてるから」
それぞれの声が、心に刺さる。
(よし……やるしかねえ)
受験勉強に、恋に、未来に。
この一回きりの人生、ぜんぶ、手に入れるために。
——今、俺は、戦場に立った。




